AIのせいで作曲家がいなくなる訳なくね?
作曲家とwebマーケターやっている山本慶太朗と申します。
最近『suno AI』という自動作曲AIのクオリティが高いとSNSでは話題になっており、
それに伴い「作曲家という職業が将来なくなるのではないか?」と騒がれています。
結論僕は多少影響ある分野と全く無い分野の2つに分かれると思うのですがこれを予測する時、
作曲家と一口に言っても様々な仕事があり一概に一括りで語れない
代替すると主張する音楽のビジネス構造からの視点が抜けている
これら2つを粒度高く紐解かなければ議論にならないと思うんです。
今回は作曲家とマーケター両方を本業としている僕の立場から、
音楽が何故ビジネスとして成り立っているかの本質から紐解き、どの部分が今後AIに代替され易いのか、僕の意見を述べていこうと思います。
勿論これはあくまで僕の推論であり、提案だとお考えください。
またAIについてはど素人なので、間違った部分があればご意見ください。
音楽にお金を払う理由は4つに分類できる
AIがプロの作曲家を代替するかどうかを考察するとき、
お客さんは何故音楽にお金を払うのかーーーーつまり既存の作曲家が何故お金を貰えているのかを再認識する必要があるのではないでしょうか。
そもそも、音楽は何故お金を稼ぐことができるのでしょうか?
僕個人の意見ですが、
人が音楽にお金を払う理由は大きく4つに分類できると思っています。
1.好意
主な音楽ジャンル:アイドル・キャラソン
これは「好きな人の曲だから買う」という購入動機です。
恋という求心力は強く、愛を伝える手段としてCDを買う、愛を感じ深める作業として音楽試聴をする、という顧客心理があります。
2.救い
主な音楽ジャンル:Rockバンド・アーティスト
これは「人生の迷いを払拭してくれる言葉に支えてもらいたい」という購入動機です。
人は常に未来に怯えており、今の歩みが正しいのか?、どちらの選択が正しいのだろう?などと考え込んでしまいます。
現実的にそれは「資格」や「立場」「経験」「行動」などが解決するのですが、そこに至るまで、或いはそこに至る程強くなれない人は縋るもの、支えてくれるものを求めて音楽にたどり着きお金を払います。
価値として近いものは宗教だと思います。宗教をよりエンターテイメント化することで現代人マス向けにチューニングしたのがアーティストです。
だからこそクラシック音楽の起源はキリスト教と密接な関わりがあったのかと思います。
3.機能
主な音楽ジャンル:サウンドトラック・ダンスミュージック
ゲーム、映画、アニメなど映像を盛り上げエンターテイメント性を追求するための演出装置として音楽は役に立ち、その機能を享受するためにユーザー(或いは企業)はお金を払います。
気分をアゲるためのダンス音楽などもこれに該当しますね。
身近な例で言うと『作業用BGM』などはイメージし易いかもしれません。
作業に集中するため、外の音を遮断するため、という機能を求めて音楽を使うのではないでしょうか。
4.技術(感動)
主な音楽ジャンル:クラシック・ジャズ など
これはシンプルに『音楽の技術』に感動しリスペクトとしてお金を払う行為です。
水族館でイルカショーを見たり、マジックショーを見たいと思う感覚と類似しています。凄いパフォーマンスや凄い技術をシンプルに見て感動したいという欲求です。
例えば一流シンガーの歌声や技術力の高さに感動して、そのリスペクトや感謝からお金を払ってしまうなどもこれに該当します。
さて、しかしながら
これら4つの大別的な音楽の価値のうち、
どれか一つしか含まない音楽は殆どあり得ないと思っています。
以下のグラフは僕の個人的なイメージですが、これらのようにそれぞれの価値がグラデーションのように音楽の中に複数内包されているのではないでしょうか。
そしてこれらの4つで僕はAIに代替がされ易いものとされ難いものがあると考えています。
僕の考えは以下の通りです。
つまり
『ある音楽』が内包するその価値に於いて代替され易い要素を多く持つものを作曲の主戦場とする作曲家は職を失う危機が高く、その逆もまた然り
と言う事がこのnoteで言いたい事です。
次からそれを1つ1つ解説します。
機能的音楽とAI
まず最も早く代替されると予想するのが、機能的価値が強い音楽です。
例えばCM音楽や動画のBGMなどは代替され易いと思います。
機能的な価値は「そこに音が存在する意義があること」が求められるわけで、それは過去同じような意義を求められたケースを学習し出力することで存在価値を見出すことができ易いと思います。
特にCMなどの短い音楽や、YouTubeなどの映像的な完成度以外が需要として強い領域のBGMであれば代替もされ易いでしょう。
予算の少ない領域であれば、代替したほうが低予算でクオリティが担保されるので尚更でしょう。
但し大規模な劇場映画のBGMなどは代替が早急には起こり難いとも思います。
何故なら『映画のあるシーン』に求められる音楽の意義を答えるには脚本や演技、マーケティングやその他たくさんの要素を考慮する必要があり、音楽AI単体で的確にそれを見出すものは難しく感じるからです。これが出来るAIが誕生するにはだいぶ年月を要するイメージです。
(つまりたとえ短くともそこを重要視するCM音楽であれば、代替され難いとも言えるでしょう)
多くの映画音楽は形としては機能的価値が強いように見えるジャンルでも発注意図としては技術的価値を重視しており、それに無自覚な視聴者でも潜在的には技術を求めているからです。
仮にAIで出力するとしても、最終的には音楽のプロである人間がプロンプトを細かく調整したり、出力されたものを編集する必要があり、であればそれは作曲家に頼むのが最適であると多くの人が考えつくのでは無いでしょうか。
作曲家のパートナーとしてAIが使われる未来は見えますが、AIが作曲を代替するのは近い将来では難しいように感じます。
それにより一部の編曲家やスコアラーなどは代替されてしまうかもしれませんが、作曲家は暫く必要だと思います。
ただ予算が少ないなら話は別なので、そこから切り崩されていくでしょう。
好意的音楽とAI
アイドルソングやアニメのキャラクターソングなどは十数年後スパンで考えると代替がされ易い分野であると思います。
AIが作る音楽は必然的にコモディ化します。
AIを使ってどんなに個性的な音楽を出力しても、それがAI出力である以上次の日には誰でも真似できるものになると云うことです。
これはAIがAIである所以なのでどんなに技術発展をしても避けられないと思うのですが、要するにコモディ化したものでもお金を払う人がいる分野では代替が進み易いと思っています。
そしてアイドルソングやキャラクターソングにお金を払う人たちは「サウンド」や「言葉」ではなく、歌い手にお金を払っているので、音楽のオリジナリティや技術などに関心が薄いと思います。
特に編曲の分野などでは代替される可能性も高いと思いますし、作詞や作曲であっても幾つか生成されたものの中からアイドルのイメージに合うものを選択した曲でもビジネス的には成り立つように思えます。
特に予算の少ない地下アイドルなどは積極的に利用したいだろうな、と思ってしまいます。
ただし繰り返しになりますが、これらジャンルでも好意的価値のみが音楽の(或いはその人の)価値の唯一である例は少なく、例えば作曲・編曲の技術的な価値にお金を払うキャラクターソングのファンや、アイドルやキャラクターにある種アーティスト的な救いを求めるファンもいるわけで、純粋に好意だけで成り立っている音楽は稀有なのではないでしょうか。
そのようなアイドルやキャラクターの場合はコモディ化しない人間が作った光るものがある音楽を求められるでしょう。
これを議論すると「果たして恋とはなんなのか」という哲学的な疑問にぶつかってしまうのでこれ以上の言及は避けますが、以上のようなことから一部界隈では数年〜十数年以内にはAI作曲の楽曲が当たり前な状態になると思います。
しかし上記理由からそれらの割合が過半数となるにはまだまだ年月を要するとも考えています。
また別軸のリアルな話、原盤ビジネスをしているレコード会社はコモディ化したAI音楽では再生回数を稼ぐことが出来ませんからやりたがらないでしょう。つまりその多くがレコード会社が出資をしているキャラクターソングというジャンルは代替が遅くなる傾向があると思います。これは音楽の性質や価値の話ではなく音楽ビジネスに関連して起こる現象です。
救い的価値とAI
救い的価値の強い音楽は暫くAIに代替されないと思います。
何故ならコモディ化したメッセージで人は救われないからです。
改めてですがアイドルとアーティストーーつまり『好意』と『救い』では価値(お金を払う理由)が異なると思っています。
好意(アイドル等)とは…理想や夢に近く現実から逃避させてくれるもの
救い(アーティスト等)とは…現実と向き合う勇気をくれるもの
です。
だからこそ好意的価値はヴァーチャル(V-Tuberなど)や2次元(アニメキャラクターなど)でも成り立ち、そして夢見るものだからこそ虚構であっても理想が詰まったものを人は求めるのです。
AIが演じる理想の恋人と会話ができ、あなただけの理想的な歌を歌う人が現れる未来が開かれれば熱中する人は多く現れるでしょう。
ラブプラスにAIが搭載されれば僕は買います。
反対に救いを音楽に求める人は、言葉とそれを演出する音楽、そしてアーティストの生き様に人生を支えてもらっている状態です。
アーティストのファンにとって音楽とはエンターテイメント化された聖書やコーランであり、ライブ会場は教祖と会えるメッカであり、日々人生を支えてくださっているアーティストへ感謝を伝えたり、日々抱きしめている聖書を爆音で聞いて快感を感じるような場所なのです。
だからこそアイドルのライブでは愛を伝えるため、または推しを喜ばせるためにファンはサイリウムを振り、
アーティストのライブでは、感謝を伝える為何も持たず手を振り、聖書を音楽に載せて浴びる為体を揺らすのです。
もっと言うとアーティストやRockバンドとはアーティシズムというブランドでラッピングされた「思想」への共感を軸とする教団ビジネスであり、
仮に思想がAIによってコモディ化した時、それでも歌い続けられるアーティストは少ないのではないでしょうか。
即ちそうなるには歌・曲・人格等何もかもがAIに切り替わる必要があり、それが流行ったとしてもそれすらコモディ化するのではないでしょうか。
勿論AIを用いる"プロンプト打ち込み師"的な天才的な人が教祖となり、その人が天才的な裁量でコモディ化したメッセージであっても組み合わせ方次第でそうでないように見せかけるようなアーティストは近い将来出てくるでしょう。
しかしそれは言ってみればAIを使って作曲をする人が現れた、というある種一つ便利な楽曲制作ソフトが増えたような技術革新的な側面が強く、アーティスト(とそれに伴う作曲家)の喪失とはやや意味合いが異なるように思えます。
また別軸ですが現実と向き合い戦う勇気を与える存在にはある種人間臭さなどがなければ共感は生まれづらく、その揺らぎを作るのはAIが苦手な分野な印象があるので、発展に時間をやや要するように思えます。
技術的価値とAI
技術的価値はまずAIに取って代わられることはないでしょう。
同じ人間なのに何故こんなことができるんだ、という前提で成り立っている価値なので、例えばコモディ化したAIシンガーが超絶に上手い歌唱をした所でそこに賞賛は起こらないですね。
むしろ
『AIの扱いが天才的に上手い』という新しい技術的価値が生まれる未来
という新しい可能性すら感じています。
AIの音楽利用における可能性
結論として特に個性的な曲を書く人(アーティストはもちろん職業作曲家も)は、向こう何年かはAIの発展により仕事が大幅に減ることはないと僕は予想しています。
アーティストではない職業作曲家のプロ人口全体が減る可能性は“あるタイミング以降”は一部界隈で多少の人口減があると思います。
そして直近1,2年の話で言えばどの界隈でも殆ど影響はないと思います。
むしろ歌唱AIとイラストAIの発展が著しく仕事を実際奪っている事例を見ているので、演奏AIの方が直近の危機なように感じます。
あと編曲家と作詞家。エンジニアも。
それらと比べると作曲家はだいぶマシよ。やはり0からものを生み出す仕事はAIに強い。
まぁ要するに作曲家は直近でそんな心配する必要ないから、怯えずにうまく使う方法考えようぜ派です。
個人的にはそんな事よりもAIによって今まで考えられなかった新しい楽曲/音楽体験が生まれる予感にワクワクしています。
例えば『聞く度に違う曲になる曲』などはAIが発展すれば実現しそうですよね。
わかり易い所だとあなたのその日の気分に合わせてアドリブのフレーズが変わったものが聞けるとか。
最強の作業用BGMになるかもしれません。
他にも『パーソナライズされた楽曲』などもどうでしょうか。
わかり易い所で言うとアイドルが自分の名前を呼び、あなたの誕生日を祝ってくれる曲とか。あなたの性格や言ってほしい事の理想を詰め込んだ曲を推しの声で聞ける。今までは絶対にできなかった新しい楽曲ビジネスですね。
あとは途中で出てきた編曲や作詞のアシスタント的な使い方ですね。
編曲はインプットの量が勝負ですから、正直ある地点からはAIを編曲に使うのが当たり前の時代は絶対に来ると思いますし、作詞のサポートとしてAIを使う時代は既に来ています。
カルチャー的な話で言うと、どんな人でも作曲ができる時代が来ると思うので、例えば小説家やお笑い芸人などが作る曲を僕は見てみたいです。
僕たち音楽家からは出てこなかった新しい曲が生まれる予感がします。
こんな感じで僕は音楽のマーケティングに関して研究を普段からしているので、お悩みご相談ございましたらお気軽にご連絡ください!
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