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直してくれない自転車に乗る男

確かに30年以上前に買ったボロクソ自転車だけどさぁ・・・
自転車屋がパンク修理断るってある?(笑)


先日の猛暑日のこと。
約9ヶ月ぶりの半袖シャツを着てサイクリングをしてきた。
まあ殆どを自転車押して(酒飲みながら)歩いているんだけれども。

線路沿いの道を電車を横目に走り、橋を超えて坂を上り川沿いの道へ。
以前「何かが狂っている」と書いた記事で、恐らく集団暴行をされた影響で頭がおかしくなっていた時に辿ったであろう道を確かめようと思って出かけた。

俺はどこをどう通ってあんなところに行ってしまったのか??

一年近くずっと気になっていた。
本当に俺はおかしくなっていたのか?

スマホに残っていた写真と見比べながら道を進む。
やはりほとんど店もなく、酒を買うことも出来ない。
ってことは酔いは完全に醒めていたと思う。

むしろベロンベロンであって欲しかった(笑)

これは相当頭おかしくなっていたんだなぁ。
ただここからが本番。
運命の分かれ道となったと思われる交差点を右に曲がって、札幌を飛び出してからが恐怖の時間だったのだ。

よくゲームなんかで目を覚ますと「ん?ここはどこなんだ?!こんな森の中で俺は一体??」みたいな事があると思う。
それまでの記憶もなく、場所もわからなければ人もいない。
あの時はまさにそれ。

グーグルマップ上で確認はしたけれど、実際に「あぁここを曲がってこう行ったんだ」と納得したい。事の経緯を知りたい。

どこの交差点で曲がったんだろう?と自転車を押しながらスマホを確認していた時に異変に気がついた。
後ろタイヤがパンクしていたのだ。


いやいやいやいや。
・・・・いやいやいやいやいや。
今俺どこにいると思ってんの(笑)


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その時俺から見えていた絶望の風景はこちら(笑)
車が通っているだけマシな方なんだろうけども。

当然全ての予定は中止。

パンク修理が最優先。
いや・・・生きて帰ることが最優先だ。
俺は半袖で飛び出したのだ。
ここは北海道。いくら昼に暑くても夜には極寒になることはわかりきっている。

とりあえずホームセンターまで押して歩く。
確か隣には100円ショップが有ったはず。
そこでパンク修理セットを買って、ホームセンターにあるであろうご自由にお使いください的な空気入れを借りて修理する。それしかない。


1時間ほどかけてホームセンターに到着。
行程を端折るのも腹が立つくらい大変だった。

が、ここのホームセンターには空気入れがなかった。
なんだよケチくさいな。

100円ショップにパンク修理セットはあった。
使い切りの缶タイプの空気入れも渋々買う。
便利だが使える回数が限られているのは厳しい。

駐輪場でタイヤを外し、洗面器と水がないため目視でパンク穴を探す。

せめて普通の空気入れがあるならチューブをパンパンに膨らませて、ブシューと空気が抜ける音で確認できるのに。
なんて難しい作業。

修理中に嫁からライン。愚痴をこぼす。
眩しい光にスマホの画面が全く見えないので、駐輪場に仰向けになって寝転がり返信を書いていると、「お兄さん大丈夫?!どうしたの??」とどこかのおばさん。

どうやらまたヤクザが倒されて助けを呼んでいるように見えたらしい(笑)

光が眩しくて画面が見えないからだと説明して事なきを得る。
パンク修理してるだけなのに警察呼ばれたらたまったもんじゃない。

ただこの調子じゃのんびりやってるわけにもいかなそうだ。
結局空気入れを駆使して音でパンク穴を探すことに。
どうやら大昔にパンク修理した部分から空気が漏れ出ているようだ。
これじゃいくら目視で確認してもわからないよな。頑張って損した。

以前パンク修理して剥がれた部分に接着剤を塗って貼り直し、更にその上からパンク修理用のゴムを貼った。念の為に。

これで大丈夫だろう。
酒を買って再出発。いや・・・今日はもう帰ろう。
時間は午後4時。あと3時間もすれば極寒地獄だ。

自転車に乗り走り出して十数秒。天を仰ぐ。パンクしている。

そんなバカな。きっちり塞いだはずだ。
ただここには洗面器と水はないから確認は取れない。
空気入れも有限だ。音で確かめることなんて出来なかった。


自転車屋さんを探そう。

「洗面器買って公園で水汲めば?」と嫁からライン着たけど、流石に洗面器持ってウロウロするのは気が引ける(笑)
スマホで確認したら意外と近くに自転車屋があった。そこでさっさと直してもらって帰ろう。

近いとはいえ30分ほどかけて到着。
いわゆる街の自転車屋さんといった小さな自転車屋さん。
ただちょっと少しだけおしゃれな外観。

中に入ると若いお兄さんが一人。声をかけると怪訝そうな顔でこちらを向いたので出来るだけ愛想よく挨拶をした。
まあ俺みたいなのがいきなり来たらそんな顔にもなるよな。

「パンク修理お願いできますか?」
「あ、はいわかりました」

俺の後ろについて着て自転車を見るなり、
「前ですか後ろですか?」
「後ろタイヤです」
「あー無理っすね」
「は?」
こんな会話をして思わず素っ頓狂な声が出た。

「パンク修理できないの?」
「もうこれボロボロだしタイヤごと交換ならいいですよ」
「いくらですか?」
「5040円」
「家まで持てばいいからそれでもパンク修理駄目なの?」
「無理っすね」

・・・・・。
「んじゃいいわ」
「ありがとうございましたー」


なんじゃそりゃ。
それよりもボロボロ扱いされたことが一番腹が立つ。
まあ確かにボロボロなんだけれども。

への字口で自転車を押して歩く。
踏ん張っていないと涙が出そうだ。
こんなことなら洗面器を買うべきだった。


時間はもう5時過ぎ。
日も暮れかけてきた。
酒が売っている薬屋を発見したので向かっていると、そこに自転車屋を発見した。

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ラストチャンスに賭けようか・・・。
中にはおじいさんが一人。
「すみません」と低頭に声をかける。

予想通り怪訝そうな顔で出てきたのでさっきと同じように説明をする。
ただし今回は他の自転車屋では修理してくれないことも含めて。正直に。

うーんと唸りながら折れていたスポークを2本ニップル回しで外してその辺にポイッとぶん投げた。
そしてタイヤを調べ「こんなタイヤで出かけるのはニイちゃん無謀だよ」と笑いながら店内へと自転車を運んだ。

「修理してもらえますか?」
「・・・・」

ガシャンと自転車を横向きに倒し、タイヤを外し始める。
慣れた手付きでチューブを引っ張り出し、チューブに空気を入れ始めた。

「ここはニイちゃんが今修理したのかい?」
「えぇ」
「ふふん」

トントンと指でその部分を叩いて確認してニヤリと笑う。
「まあこっちは大丈夫そうだな」

この修理屋のおじいさんはどうやら音と目で穴を確認するタイプらしい。
先程俺がやっていた手法だ。
目の前に水を張った洗面器があるのだが使っていなかった。

「やっぱり音でわかるもんなんですか?」
「ん?まあね」

やはり職人!
きっとチューブを水で濡らすと接着剤がくっつきにくいとか何か理由があるんだな。

そしてどうやらこれまた先程と同じように、以前パンク修理した穴から漏れ出しているようだった。
所詮貼り付けたものは本物のチューブにはなりえないんだな。
経年劣化でどうしてもこうなってしまうのだろう。

しかし俺とは違い修理方法が独特。
バーナーで以前貼ったものを焼いて剥がし、新たなものを貼り直すよう。
俺は上から貼っただけだ。さすが。

そして待てど暮らせどその以前貼った修理跡が剥がれない(笑)

「あの・・俺がやりましょうか?」と何度声が喉から出かけたことか。
30分近くかけてようやく剥がれて修理することが出来た。
チューブに空気を入れ、今度は洗面器の中に入れて確かめる。

850円を払い、何度も何度も頭を下げた。
直してくれてありがとう。
俺の自転車、直してくれてありがとう。

無愛想だったけど世の中にはきちんといるのだ。こういう人が。
「気をつけて帰れよ」
「ありがとうございます」
「中古の自転車安いのあるからな」
「これでいいんです。これがいいんです」
「まあそうだろうな」とまたニヤリと笑った。
スタンドを蹴って自転車に乗ろうとする。

ポヨン。

ん?おかしいぞ?
笑いながら頭を下げて立ち去る俺。
だがその顔は恐らくひきつっていたのではないだろうか?自転車に乗るに乗れない。


全く直ってねぇ!!(笑)


薬屋辺りまで戻った頃にはもうベッコベコ。
ギリッギリ空気の抜け方が少しゆっくりになっただけ。
しかもスポーク止めてる留め金が一つねぇ!
外してぶん投げていたから多分タイヤとチューブの間にあると思われる。

タイヤの中にそんな異物あったらパンクすんじゃん!!


その後俺は上り坂と平坦な道は自転車を押して歩き、下り坂の手前で空気を入れて一気に進む方法をとりながら、極寒の北海道の夜を半袖姿で思う存分堪能しながら3時間半かけて家まで帰った。死ぬかと思った。


翌日、仕事が終わったあと夕方まだ明るかったので自分でパンク修理をした。
今日は洗面器と水がある。

サクサクっと穴を見つけてバシンと塞ぎ、すり減っていたタイヤも内側から補強した。
スポークの留め金もタイヤの中から無事見つけて、新品のスポークを取り付けた。

うん完璧。


結局職人気質なあの爺さんは何だったんだ(笑)
ありがたいっちゃありがたかったけど。
俺の相棒を直せるのは結局俺だけだった。


追記
10分位で直ったぞ。何なんだあの街(笑)
何が無理なのかさっぱりわからん。



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