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走馬灯は突然やってくる

今まで何度経験しただろうか?
死を覚悟した時に見る走馬灯。
先日それを久々に経験した。


人が死に直面した時、一刻の猶予が与えられる。
以前にもビルから落ちた際に走馬灯を見た話を書いた。

脳が活性化されるのか、思考回路が暴走するのか、たった一秒が数十秒、場合によっては数十分に感じられる。
時間と感覚が引き伸ばされていくのだ。

最初にそれを体験したのは小学校低学年の時。
あくまで記憶してるものの一番最初って話だけれども。


子供が乗る小さな自転車に乗って信号機のない横断歩道を渡っていた時のこと。
片側の車線が渋滞していたので、その車列の隙間を通って横断歩道を渡っていた。

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(まさにこの横断歩道での話。40数年前だが)
察しの良い方ならすぐに分かると思うが、免許を取る時の講習にある映像の「あ!あぶない!(キキィ」そのまま。

車の隙間から自転車でひょいと飛び出した瞬間、左側(写真の右奥手側)からものすごい勢いでタクシーが迫ってきていた。衝突まであと5mくらいか。
その瞬間、時間が止まった。

「あ!!」というような大きな口を開けて目を見開くタクシーの運転手が見えた。これは非常にまずいことになったぞと気がつく。
次に考えたのはタクシーの大きさのこと。
自分の頭の高さくらいにボンネットがあり「このままぶつかると頭思いっきりぶつけて痛そう」と思った。なんとかそれは回避したい。

その次に考えたことは自転車のことだ。
買ってもらったばかりの宝物の自転車。壊れたら大変。
いやいや待てよ?それよりも車の方が壊れたらまずいのでは?
自転車で遊ぶ時、車にぶつかったら駄目だといつも言われていたのでとても焦っていた。

車は先程よりも1mほど近づく。
まず回避することを考えてみよう。
一気にペダルを漕いで通り抜けられないだろうか?

足に力を込めようとするも全く動かないことがわかった。
足が動かないんじゃない。全てが止まっているのだ。実際にはゆっくり動いてはいるのだけれども。
自分もゆっくりになってちゃ、とてもじゃないが通り抜けられない。

車は更に1m近づく。残り3m。
運転手が目をつぶった。
さてどうする?

ぶつかる際に一番ダメージを減らす方法を考えてみる。
ぴょんとジャンプしてみるのはどうだろうか?
完全に飛び越せなくても、車の上には乗れるかもしれない。
そう考えながらタクシーと小さな俺の身長を背比べしてみたがどうにも分が悪い。

流石に無理かぁと思っている間に車が更に1m近づき残り2m。
ここまで来たら俺のやれることはもう少ない。
手で車を止める・・・無理無理!
ショルダーアタックで耐えてみる・・・絶対負ける。
足で車を蹴っ飛ばす・・・お?うまくいけばロケットみたいにビヨーンって飛んで助かるんじゃね?
子供の考えはなんて浅はかなのだろう(笑)

車はもう目の前。悩んでいる暇はなくなってしまった。
咄嗟に俺は左足を上げて、車のバンパーの上に乗っかるような形で足をかけた。タイミングはバッチリ。
右足もなんとかかけようと思ったものの、自転車にまたがっていたため間に合いそうもない。

グイグイと押してくる車に抵抗するように左足に力を込める。
右足は倒れた自転車に巻き込まれないように膝を曲げてできるだけ上に上げた。

さあここから踏ん張って膝を伸ばしてジャンプだ!
そう思っていたのに左膝が勝手に自分の体に迫ってくる。顔に当たりそうな勢い!
どんなに膝を伸ばそうとしても伸びない。予定と違う!もう限界だ・・・やばすぎる!!

そう思った瞬間、身体に激しい衝撃を感じ左膝がスコーンと抜けた。
正直ぶつかることよりも身体がくの字に折れ曲がって死ぬんじゃないかと思ったのでホッとしていた。

そして俺は今自分が空中にいるということに気がつく。

なんだか予定とは違ったけど、ロケットのようにビヨーンと飛び出すことは出来た。問題は着地だ。
風景はゆっくり流れてはいるけれど、自分がものすごい速さで飛んでいるということだけはわかる。(この風景は今でも特にはっきりと覚えている。)
このままアスファルトの地面に叩きつけられれば、擦り傷どころの話ではない。
ただ頭だけはぶつけたらまずいことは察していたので、咄嗟に両手を頭の後ろで組んで守ることにした。

この辺りから徐々に時間の進みが早くなる。

仰向けに5~6mほど飛んだだろうか?
車2台分くらい飛んだと思う。
感覚的には10mくらい飛んだような気がしてたが。
背中にドーンという衝撃が走る。しかし思っていたほどの衝撃と痛みではなかった。

そのまま道路を背中で滑っていく。
滑りながら時間はまたスローに。

渋滞で止まっていた車から運転手達が一斉に飛び出してきた。皆大慌て。スローモーションだが。
事故を起こした張本人であるタクシーの運転手は呆然としながら動けないでいる。

「僕大丈夫?!」
「動かすな動かすな!!」
「救急車呼べ!電話どこだ電話!」
「きゃああああああああああ!!」

いろんな声が一度に聞こえ、事の重大さに一気に焦りはじめる俺。
まだ少し痛いけど、大慌てですくっと立ち上がり「大丈夫」と身体の砂を払った。
タクシーの方に近づくと運転手が震えているのが見えた。

自転車は残念ながら壊れていた。
そして車の方にも大きな傷が付いているのが見えた。
これはまずいぞ!

ドアががちゃりと開き「ご、ごめ・・だ・・だい・・」と涙目になりながら降りてきた運転手に俺は一言「大丈夫。じゃ!」と壊れた自転車を引きずりながら颯爽と去っていった。
大人達は皆ポカーンとした顔をしていた。

そりゃ下手すりゃ子供死んだと思ってたら、いきなり立ち上がって元気に去っていったんだから焦るわな(笑)


長くなったけどこれが最初に見た走馬灯。
走馬灯も何も人生経験がまるでないから何かの思い出にひたることはなかった(笑)
身体が小さくて体重も相当軽かったのが幸いした。
今あのスピードで突っ込まれたら助かる気がしない。多分助かるんだろうけども。


で、そんな走馬灯を・・だ。
突然味わう羽目になった。
かなり久々だと思う。

先日安く購入したニンニクがたくさんあったので、ニンニクのホイル焼きを作ることにした。
アルミホイルをお皿状にして油をたっぷり入れ、剥いたニンニクを入れてオーブントースターで焼くというもの。

うまくお皿が作れなかったのでグラタン用の耐熱皿にアルミホイルごと入れ、そのままトースターに入れて10分。
ニンニクの香ばしい香り。グツグツと煮えたぎる油。旨そう。思わず酒の缶を開ける。

10分が経ち、トースターの蓋を開けると耐熱皿が滑るように・・いや完全に滑りながら飛び出してきた。
開けたトースターの蓋の上にトンと着地をしたと思ったら、いきなりトースターの蓋が外れて斜めになった。

「へ?」

蓋が外れるって何??ドッキリの床がいきなり滑り台になるやつじゃあるまいし。想定外もいいところ。
外れるにしたって今じゃなくてもいいだろ。食パン焼いてる時とかさぁ。
なぜ煮えたぎった油たっぷり入れている時にそうなるのか。

グツグツになった油が今顔と胸の前にある。その距離15cmというところか。
うちはトースターを少し高めの台の上(台の上の電子レンジのそのまた上)に置いてあるので、飛んできた物がちょうど顔や胸に当たることになる。

要するに俺は今、煮立った天ぷら油の鍋をひっくり返して全身に浴びようとしている最中なのだ。

え?最中?
そこでわかった。これは走馬灯。
ってことは俺は現在、死に直面しているということ。まずい。

後ろに飛んでかわせるか?顔は守れそうだが下半身にはかかりそう。
横にかわせないか?右には荷物があり行けない。左には冷蔵庫があるけども一歩だけ動けそう。
腕で油をガード・・・は絶対に無理だなこの油の量だと。

ということで左に避けることに決定したのだけれども、普通に避けても冷蔵庫に肩がぶつかるだけ。
まず右足を思いっきり後ろに引く。そして顔も引く。
右向け右のようにさっと横向きになり、現場に残してあった左足を「休め!→気をつけ!」のような形で右足に寄せる。
よし!これで行こう。

それにしてもニンニクもったいないなぁ・・まだ空中飛んでるよ。
そんなことよりさっさと避けないと。
時間が徐々に加速しはじめる。

顔を先に引いたら駄目だぞ。重心がずれて足が残る。
右足と同時にさっと引け!
近づく油を遠ざける。あと2~3cmだったのではないだろうか?

なんとか避けた油は今度は下半身、残っていた俺の左足を狙う。
これはもう完全にアウトのタイミングだな・・・と諦めながら足を引いたが、奇跡的になんとか間に合った。
油はさっきまで寝ていた俺の敷布団のシーツの上でバシャッと跳ねた。一瞬ジュッ・・という音が聞こえた。危なかった。

そこで時間の速さが元に戻る。走馬灯終了。

まさかこんな急に走馬灯を見ることになるとは思わなかった。
他に誰もいなくて本当に良かった。とにかく怪我もなく・・・


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なんじゃあこりゃぁ!(笑)
まあ右足を引いた際に自分の爪で切ったんだろうけども。
それにしてもまあパックリと。

ちなみに俺の爪は特別製で、獣のように飛び出していて鋭い。
人間の皮膚なんか一瞬で切り裂くことが出来る。切れ味は見ての通り。
これは足爪で切ったものだけど、手の爪の鋭さは更に段違いでシャンプーがまともに出来ないほど。


夕飯時にこれらの走馬灯の話を子供らにした。足の傷も見せながら。
「そういう能力あるんじゃないの?!(漫画で)見たことある!」とキャッキャしながら騒いでいた。

そんな能力あるんならこんなに怪我しねーよ・・・。
出来うるならば走馬灯はもう最期の一回だけにしてほしい。



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