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知らない町の知らないパチンコ屋

今回はちょっとした旅打ちの話。

一昔前、パチンコ屋はそれぞれ特色があった。
羽根物が多めの店やギャンブル色が強めの店、家族経営のアットホームな店。
その中でもどんな台を多く置くか、どんな配列にするか、どんなBGMを流しているか。
ドアを開けて入る瞬間はまるで宝箱を開ける気分だったのだ。


羽根物が多めの店でもビッグシューターなどの人気で定番のものを多く置いている店や、出玉は少ないけれどすぐに出る遊べる羽根物を好む店、他の店ではあまり見ない三洋のへんてこな羽根物ばかりを置く店など色々あった。

中には「自称日本一羽根物がある店」という珍しいお店もあった(笑)
小樽の駅前にあり、そのためだけにわざわざ小樽まで車を走らせたりもした。

羽根物だけではなくフィーバー台でもそれは一緒。
連チャンもない波のゆるい台を多く置く店や、ギャンブル性の高い台ばかり置く店、そしてやはり他では見たことがない台ばかり置く店もあった。

これらが色々組み合わさってそれぞれの店に特色が出る。
ドアを開け一体何が出てくるか?
それがどれだけワクワクしたことか。


プロになった時や確実に稼ぎに行く時はジグマであるので基本浮気はしない。(プロも終わりの方では2店舗掛け持ちしていたが。浮気だな(笑))
しかし遊びとなると話は別。宝探しの冒険へいざ往かん!

免許を取ってからその遊びの気持ちが爆発。
面白そうなパチンコ屋を探してスクーターや車を走らせる。
ネットで調べることも出来ない時代、雑誌や友人からの情報から店を探しあて、

「こんな住宅街の裏路地にこんな店が!」
「こんなスーパーの中にパチンコ屋が?!」

友人も同じように冒険好きで、一緒になってパチンコ屋巡りをしていた。

「仕事で〇〇に行った時見たことない店あったぞ」
「来週様子見に行こうぜ」

そんなこんなで市内とその近郊のパチンコ屋はほぼほぼ制覇してしまった。


ここまで来るともう気持ちは止められない。
知らない町の知らないパチンコ屋を探す旅へ。


仕事を終えて家を出る。行くあてなんて何もない。
家の駐車場を出てまずは右か左か?というところからだ。当然ナビもない。
休みは明日1日で明後日には仕事がある。
仕事の後輩とぶらりパチンコふたり旅。午後7時スタート。

札幌を出てまずは千歳方面へ。例のラブホテル街を横目に車は苫小牧へ。
ここで俺はもう完全にダウン。
なにせ仕事上がりなのだ。疲れはピーク。
スーパー銭湯的な施設でひとっ風呂浴びる。ちょっとした思い出話をしながら水風呂に頭から落ちる。

飯食って軽く一休みのあとそのまま登別へ。
本来ならば登別か室蘭あたりでパチンコ屋を探そうと思っていた。
ただこの辺りのパチンコ屋はまだ俺の旅打ちのギリギリ範囲内で、店の内容も大体わかっていたのだ。
知らないパチンコ屋ではない。

そうして良からぬ思いが頭に浮かんでしまう。

「もう伊達ですよ・・お、長万部くらいまで行くんですかね?」
止まる気配のない車の助手席で後輩が恐る恐る聞いてくる。
すでに0時をまわり、たった一日の休日に突入したところ。

「長万部かぁ・・うーん・・・」
悩みながら俺がそう言った時に、後輩はもう全てを察していた。

「マジですか・・・行きますか!」

覚悟を決めた後輩の言葉にタバコの煙を吐きながらニヤリと笑う俺。
行き先がついに決まった。函館だ。


左手に海を見据えながらひたすら南下。
長万部手前あたりで限界を迎え後輩と運転交代。
後輩は免許はあるものの運転はほとんどしておらず、これが初めてと言っていい。
クラッチ操作でガックンガックンしながらノタノタと走り出した。
まあ100kmも走れば慣れるだろう。俺はスパルタなのだ(笑)

しかし助手席で軽く仮眠をと思ったけれど、はっきり言って眠れやしない。

長距離トラックがものすごい勢いで追い抜きをかけていく。
こっちは下手すりゃ最初からハザードランプをつけて「故障中です」とアピールしておいた方がいいんじゃないかというようなスピード。時折エンスト。

北海道の田舎の何もない片道一車線の道路で、深夜に大渋滞が起こる。
当然先頭はこの車だ。

明らかに苛ついている後続車に一台一台抜かれ、車列の最後尾になるとようやく一安心。
しかしまたしばらくするとバックミラーに映るヘッドライト。
こうなるともう俺は「追い抜いて下さい」のハザード係だ。
タイミングよくボタンを押して心の中で頭を下げる。寝られるわけがない。


終始無言で緊張しまくりの後輩。
ペースも大幅にダウンしてしまったので「やっぱ変わろうか?」と言うと予想外の答え。
てっきりすぐ泣きついてくるかと思っていたら「大丈夫です!」と鼻息は荒い。
どうやらようやく車の運転に慣れてきて面白くなってきた様子。スパルタ教育が実を結んだ瞬間。
こうなりゃもう函館までお前の運転で行っちまえ!


それが大きな後悔を生むこととなる。


ようやく見えた函館の街の明かり。
薄っすらと夜が明け始めた午前4時頃だっただろうか?
街灯の明かりか夜明けの朝焼けか、人のいない街中はオレンジ色に光る。

「来たな・・」
「来ましたね」

函館の駅を横目に交差点を右折し、そのまま車は市電のホームのど真ん中に突っ込んだ(笑)


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「え?ちょ・・待て!!!」
「うおっ!!」
ガタンガシャンボコン!!

今の時間は市電も走ってはいないしホームに人がいるわけでもない。
ホームとホームの真ん中にキレイにスポッと車がハマったなら笑い話なのだけれども、実際は右へ左へ車は振られ、ホームの段差で車を跳ね散らかしながらノーブレーキで突き抜けた。

初めてやる車のゲームで操作がうまく行かなかった時の動き。
まあ焦るとアクセルから足が離れなくなるんだよな・・・俺も経験はある。

幸い何かにぶつかることはなかった(はず)
ただ若干足回りはベコベコに。(結局マフラーにダメージを受けてたらしく、数日後走行中に車からマフラーが落ちた。幸いこちらもなんとか事故はなし。)


しばらく進んだ道路の真ん中に車を停止し、真っ青になりながら車を降りる後輩。
「すみません」
「いやマジで(笑)でもぶつからなかったし怪我なくて良かったじゃん。どうせボロ車だから気にすんな」

再度運転交代。
この日からしばらく、いや数年、後輩はステアリングを握ることはなかった。


その後パチ屋の開店時間まで函館の街をドライブしたり、函館山に登ったりした・・・と思う。が、正直全く覚えていない。
このホーム突っ込み事件のインパクトが強すぎて(笑)

朝になって車を駐車場に入れて、駅前近くのなんの変哲もない普通のパチンコ屋へ。
中に入るとそこには・・・なんの変哲もない台がずらりと並んでいて、ちょっぴり拍子抜けした記憶がある。

「なんかグランド(会社のそばのパチンコ屋)みたいですね」
「普通だな・・・(笑)」

攻略できる台が残っているわけでもなく、珍しい羽根物があるわけでもない。
いつも見慣れた古女房のようなフィーバーパワフルの夢夢ちゃんが、ずらりと並んでニッコリ微笑んでいる。

ざっと見で釘の開いている台を探して後輩に一台任せる。
もう一台良さげな台があったのでこっちは俺。
特にクセも悪くなくよく回る。札幌よりはマシな釘なのかもしれない。
ただ今のところ函館感はまるでない。

結局後輩は15000円ほどプラス、俺は23000円くらいプラスで終わったか?

時間は午後四時。
市内を散策するもどうも落ち着かない。
明日仕事があり、そのためにこれから300km近く車を走らせなければならないからだ。

今日寝る場所はここから300km先なんだと考えると憂鬱にもなる。
時速60kmで車を走らせてもノンストップで5時間。忘れたくなるような事実。

それでもどうにか函館らしいことをしたいがために、ラーメン屋に入った。
このままではホームに突っ込んだ思い出しか残らないからだ(笑)

函館といえば塩ラーメン。
適当な店に入って塩ラーメンを頼むと、笑っちゃうようなシンプルな塩ラーメンが出てきた。

千切りしたネギしか乗ってないじゃないか!(笑)

薄茶色というか黄金色のスープに麺とネギだけ。
なんか間違ってんじゃないの?舐められたか?とまで考えるくらいのシンプルさ。
後輩と引きつり笑いしながら渋々食べる。


これが俺の人生で一番旨かったラーメン。


もうあれから25年以上経っているが、未だにこれを超えるラーメンを食べたことがない。
あまりの衝撃的な旨さに箸と蓮華を持つ手が震える。
黄金色に光っていたのは鶏油か?澄んだスープの中に旨味がこれでもかと入っていて、なるほどこれは余計な具はいらないし邪魔になる。納得。

全身鳥肌状態のままあっという間に完食。
スープも当然飲み干し、店員と後輩の目を盗んでドンブリをちょっとだけ舐めた(笑)

車に戻り一服しながら少しだけ車を走らせると飛行機が見えた。
「こんな真上を飛んでいくんだなぁ」とちょっとした丘に車を止めて歩道でしばらく飛行機を見ていると、空がオレンジがかってきているのがわかった。

「帰りますか」
「そうだな」

午後9時過ぎ、札幌着。早い!
帰りは室蘭から高速に乗ったけど、どんな帰り方をしたのかは説明できない。
キンコンキンコンという音と、風圧でドアや窓が剥がれ落ちそうなくらいガタガタと揺れていたことだけは覚えてる。


追記
今はどの店に入ってもそれほど特色もなく、大体同じなのでワクワク感はなくなってしまった。
パチンコは海物語の島があってあとはバラバラ。
パチスロはジャグラーの島があってあとはバラバラ。
それこそ羽根物専門店でも今やれば流行りそうなんだけどなぁ。



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