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俺は悪くない。だから絶対に負けない

なんとアホな勝負をしたのだろう。
素直に謝っておきゃいいものを。
まだ事故を起こす前、女の家に転がり込んで同棲していた時の話。


当時の俺は今にも増してワガママでメチャクチャ。
それでいて大した顔でもないのに、二股三股で度々事件を起こしていた。

どう考えても人間として最低。

今の息子が当時の俺と同い年なんだけども、もし今俺と同じことをしていたらと考えるとゾッとする。
「そりゃお前刺されるぞ」と忠告するしかない。

夜な夜な飲みに行っちゃ女遊び。
合間にパチンコで稼いでいかがわしいお店に行って遊んで、店がハネた後の風俗嬢と喫茶店でおしゃべりしてから別の女の家に転がり込む。

ある時は元バイト先の常連さんの娘を食ったり。
これを同棲しながら行っていたのだ。

典型的なダメ男。背中刺されるという意味もわかるだろう。

まあ今も女遊びは(それほど)していないだけで、酒飲んですすきのをフラフラしてるんだからあまり変わっていないんだけど、それでも当時の俺よりずっとマシ。
そんなだから同棲相手と時々大きな喧嘩になることもあった。
いや喧嘩じゃなく一方的に怒られるだけか(笑)


そんなわけでその日も怒られていた。
晩飯食い終わって、二人で食後の運動を裸でくんずほぐれつ行って、シャワーも浴びずにテレビ見ながらゴロゴロしていた時のこと。

最初は何か些細なことだったはず。30年近く前の話なのでそこは覚えていない。
何気ない会話からちょっとした口喧嘩になったと覚えている。
それが段々とエスカレートしていって、その彼女はついに思いっきり踏み込んできた。

「あんたあたしと結婚する気あるの?ないの?」
「ない」

「え?!」「え?」
まさかの即答である。女の敵。人類の敵。その自覚はある。

全裸でおっぱいを震わせながら怒りの形相。
それを見た俺の息子も震えていたことだろう。
しばしの沈黙。そんな時である。

ピンポーンという音と共に「入るぞー」と俺の友人らが入ってきた。
いやいや裸だから!大慌てで服を着る俺達。
「おう悪いな」と悪びれもせず玄関で着替えを待つ友人。

「ギャーギャー外にまで声聞こえてたぞお前ら」と鼻で笑う友人の一人。
そして訳も聞かずにいきなり「それはお前が悪い」と俺を断罪した。
うんうんと頷く彼女。

いやいや理由くらいまず聞こうよ。そういう流れでしょ。

「いんや、多分絶対お前が悪い。俺にはわかる」と腕を組みながらウンウンと頷く。
もうひとりの友人もそれで納得している。

何だこいつら!俺の信用ゼロかよ!

ただまあ・・・その意見には俺も賛成だ(笑)
女関係の話だとまず俺が悪いことをしたと相場は決まっている。

「まあとにかく謝れって」という友人の言葉に全員が頷く。
「いや俺は悪くない」と無駄な突っ張りを見せる俺に憤慨する彼女。
それを何度か繰り返す。全く埒が明かない。
どうしたものかと悩んでいると、友人が思い立ったようにこんな事を言いだした。

「よし。じゃあファミスタで決めよう。お前が負けたら謝れ」

え?ファミスタ?何言ってんだこいつは。

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なんでこんなゲーム如きで負けたら俺が謝らなきゃならんのだ。
そもそも俺に何の得があるというのか?
しかし俺には勝算があった。

こいつとは学生時代毎日ファミスタをやり続けて、数千試合、下手すりゃ一万試合はやっているのだが、負けたのは10回くらいしかなかったのだから。
こいつが弱いんじゃなく、俺が桁違いで尋常じゃなく強いのだ。自惚れではなく。

ゲーム大会でチャンピオンになったのは伊達じゃない。
当時ファミスタのプロリーグがあったなら、恐らくリーグ戦が成り立たずに勝手に殿堂入りさせられるレベルで強い。
何しろ10回くらい負けたと書いたが、こいつ以外には無敗を貫いていた。

これならまあいいか・・・。
「じゃあ仕方ない」と勝負を受けることとなった。


勝負はまるで「全人類対俺一人」の様相。


俺を応援する人は誰ひとりいない。
これは普段からいつもそうなので慣れている。
あまりに強すぎるが故の宿命とでも言っていいだろう。
だが今回は彼女までもが友人の応援をするという悲しい事実。

「待ってろよ〇〇ちゃん!絶対こいつに謝らせてやるからな!」
「頑張って××君!」
「お前負けたら謝って〇〇ちゃんの言うこと何でも聞けよ?」

おい!なんで条件増えてんだよ!
俺が驚いていると彼女がその言葉に乗っかる。

「そうよ!そして諦めて結婚するのよ!」

「「「え?!」」」
突然の驚愕宣言に声を上げる男達。
しかし動揺したのは俺だけで、友人らは面白がってヒートアップしていった。

「いけー!こいつを謝らせて結婚させろ!」
「やれー!」
「やっちゃてぇ!」

なぜだ。
何なんだ一体。
俺は一体何に巻き込まれているのだ?


なぜ俺の結婚がファミスタで決まりそうになっているんだ??


心の乱れがプレイに影響を及ぼす。それは確実に。
普段したことがないような空振りに失投。

気がつけば9回裏2アウトランナーなし、3対1で負けていた。

ヤバイヤバイヤバイ!
心臓の鼓動がドラムロールのような速さに。
コントローラーを持つ手にも力が入らない。
ニヤニヤする友人らと彼女。そして最後の一人を打ち取る前に友人が改めて確認してきた。

「まずはお前、すぐに謝れよ。どうせお前が悪いんだから」

その言葉で・・・俺の頭は急に冷えた。
ふと俺のトラウマでもある保育園での冤罪事件が頭に浮かんだのだ。
沸き立つ殺意とアドレナリン。そしてぶつぶつとした小さな声。

「俺は悪くない。だから絶対負けない」

ランナーが二人出る。
一発ホームランが出たら逆転サヨナラだ。
「そんなことありえねーと思ってるだろお前ら」
その数秒後には友人らと彼女が床にひっくり返ることと相成った。


「マジかよ・・ごめん〇〇ちゃん負けちゃった」
「いいのよ。この人こういう人だから」
寂しそうにそう答えたはずの彼女はなぜか鼻高々だ。

失意にまみれながら帰っていく友人たちを見送った後、服を撒き散らすように脱ぎ捨てて飛びついてきた彼女を抱いた。
「まあ・・こんなもんだ」と笑う俺に、蕩けた顔しながら「悔しい」と喘ぐ。


その様子を帰ったはずの友人らがドアの前で耳をくっつけて聞いていた・・・という話を次に会った時に聞いて、彼女は真っ赤になっていた。

その後しばらくしてから結局俺はあっさり追い出されたのだった(笑)


追記
別れた後に事故で入院し、病室でその元彼女と新しい彼女が鉢合わせ。
しかもベッドでこっそり新しい彼女に・・・の処理してもらってる最中だったもんだから大修羅場に。
「あたしが面倒見るから!慣れてるし」「私だって出来ます!私がやりますから!」

いやお前ら・・・ここ8人部屋の大部屋だぞ?そんな大声で・・・



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