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助監督だからこそできた脚本の訓練 :「オーディション台本」と「オフゼリフ」

僕は2013年からフリーの助監督として仕事をしてきました。

助監督の仕事について簡単に書こうと思いましたが、ネットで検索するとすぐ出てきますね。

あと、そもそも制作現場で何が行われているか?については脚本家・映画監督の尾崎将也さんがnoteのマガジンでまとめてくださっています。


自分はやはり、現場に参加していたことのアドバンテージというのはあるなと思っていて、以下いくつか挙げていくと

・脚本に対してスタッフ・キャストがいかに準備を行い、撮影を進めていくかがわかる
・脚本にある内容を書いたことで現場で何が起こるか分かる(簡単な例だと雨を降らせる撮影とか、車や電車の車内での撮影などは、通常の撮影より難易度が上がるであろうことは想像しやすいかと思います)
・脚本が改稿されていくプロセスを見ることができる。立場によっては脚本の打ち合わせに参加できる。
・とにかくたくさん脚本を読むことができる(1本の台本を、何ヶ月にもわたって繰り返し繰り返し読むので。また、自分が携わった作品以外にも、制作会社に保管されている過去作品の台本を借りて読んだりしてました)

こういった、間接的な形で助監督の経験が活きるパターンはもちろん多いです(と同時に、それに引きずられて書く内容が萎縮してはいけないな、とも思います)が、助監督の仕事の中にはもっとダイレクトに脚本を書くことの訓練になる仕事がありました。

それが「オーディション台本」と「オフゼリフ」です。

「オーディション台本」とは

「オーディション台本」とは、映画やドラマのオーディションの際に使われる台本のことです。
受験者に作品の台本を丸々渡すことはできないので、A4用紙1枚程度に収まる短い台本を用意し、事前に覚えてきてもらったり当日渡して覚えてもらったりします。
これを、オーディションする役柄にあわせて書くのが助監督の仕事の1つです。

オーディション台本を書く際は多くの場合、作品の台本にあるセリフを抜き出して使います。
ただ、オーディションが行われる役は脇役の場合が多いので、台本上のセリフは少なく、場合によっては一言二言だったりします。それだとお芝居を見せてもらうには短過ぎるので、前後のやり取りを足したり、場合によっては本編とは違うシチュエーションを作って演じてもらったりします。

これを作品ごとに、オーディションする役柄の数だけ書くわけですが、今思えばこれがかなり脚本を書く上での訓練になったな、と思っています。

・脚本家の方が書かれた人物像を汲み取り、その人のセリフを新たに作っていく必要がある

・短いやり取りで人物のキャラクターが分かるようにする。また、なるべく複数の感情が見える必要がある(例えば、病院シーンの看護師さん役だとして、1つ2つしかセリフがない役だったとしても、主人公の病状が危険で処置を受けるシーンと、主人公が退院するシーンに登場するのであれば、切羽詰まった芝居と晴れやかな芝居の両方を見ておく必要がある)

・シーンの中に起承転結が必要(起伏がないただの会話だと、審査される側はなんとなくメリハリのない芝居になってしまいやすい。また、審査する側は何十人〜何百人の同じやりとりを見るので、飽きやすい)

・オーディションを受ける人は本編の内容・前後の文脈が分からない状態で芝居をしなければならないので、ト書きなどでシーンの状況を短く適切に説明する必要がある

みたいなことに注意しながら書いていました。
これを、監督や先輩助監督の意見を盛り込みつつ事前に用意し、当日は何十〜何百人の受験者が実際に演じるところを見ることができるわけで、これはかなり勉強になったなあと思います。

助監督をやっていて嬉しかったことの1つに、オーディション用に書いたシーンが本編に採用された、というのがありました。
その台本は主人公の友人役4人を決めるオーディションのもので、それぞれのキャラクターを引き立たせつつ「この5人ならこういう楽しいやりとりをしてるだろうな」と考えながら書いたものだったので、それが本編に使ってもらえると分かった時はとても嬉しかったです。

「オフゼリフ」とは

オフゼリフとは、本編の台本上は書かれていないけど、撮影のために必要となるセリフのことです。

例えば、AとBが恋バナしてるシーンだとして、
A「マジ!?告ったの!?」
みたいなセリフからシーンが始まるとする。すると、シーンとしてはAのセリフから始まればいいんだけど、撮影の際には、
B「実は……昨日ユカに告白した」
A「マジ!?告ったの!?」
みたいな感じで、Aのリアクションを引き出すためのBのセリフが必要になります。

あるいは、オフィスでAとBが会話していて、そこに
C「すみません、Aさんにお電話です」
とCが会話を遮るシーンだとすると、CはAとBが会話している最中に電話を取ってるはずなので、
C「(電話をとって)はい、総務部です。あ、Aさんですか、ちょっとお待ちください。(電話を保留して、Aに)すみません、Aさんにお電話です」
みたいなことになります。

こういう「映画本編ではオフになってしまうセリフ」=「オフゼリフ」を書くことも、助監督の仕事です。

これもオーディション台本同様、キャラクターと前後の流れを踏まえてセリフを書く必要があり、また場合によっては主役の方などが読むセリフを書く場合もあったので、監督や、場合によっては脚本家の方にチェックして修正していただく、ということがあり、とても勉強になったな、と思います。



……と、ここまで書いてきて、なんですが、
この文章の結論ってなんなんでしょう。
突然すみません。

プロの脚本のシーンの前後を想像して書いてみよう、みたいな訓練法ってあるし、そういう訓練が自分にとってはすごくプラスになったと思うので、そういうトレーニングをするの、おすすめです!

みたいに言うのは簡単なんですけど、

果たしてこれが仕事じゃなかったとして、自分は自主的にそういう訓練をしただろうか?というと、
自作を書くこととか、インプットすることのほうが優先順位高くて、そういう「筋トレ」的な訓練って、避けがちになっちゃったんじゃないかな、ていうか、現に、仕事以外でそういうトレーニング、避けちゃってるよなあって、正直思います。

脚本家になるために助監督をやろう!と勧めるわけにもいかないんだけど、
自分の意思とは無関係に、何かに取り組まなきゃいけない環境に身を置くことって、案外大事だよなあ。

(っていうのが結論でいいのかしら。)

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