IP収益の相乗効果:メディアミックス戦略のキホン
IP(知的財産)ビジネスを進める際の出発点は、メディアミックス戦略の理解です。
しかし、多くのメディアミックスに関する議論はエンタメ史やメディア論を中心としており、IPビジネスの視点は少ないように感じます。
そこで本記事では、「IPビジネス」の観点でメディアミックスの基本をお伝えできればと思います。
メディアミックス戦略の定義とは?
もともとメディアミックスは「商品を広告・CMする際に特性の異なる複数のメディアを組み合わせること」という意味の広告用語でした。そこから転じて、IPビジネスでも使われるようになりました。
IPビジネスでの「メディアミックス」の定義は、Wikipediaによると以下のようになります。
早い話が、IPを様々な形で展開することで、
①IP収益の最大化
②IPのブランド化
③IPの長寿化
を狙おうという戦略です。
具体的な展開方法としては以下のようなものがあります。
コミックス
アニメ
ゲーム
書籍(小説/ラノベ)
映画(実写/アニメ)
TCG(トレーディングカードゲーム)
舞台
ライブ
楽曲
グッズ
広告・販促タイアップ
遊技機
ポップアップストア/コラボ
聖地巡礼
デジタルアイテム(NFTなど)
etc……
近年、なぜメディアミックス戦略が着目されるのか?
ご存知の通り、メディアミックスの手法は1970年代にすでに確立されています。また、漫画と玩具の組み合わせを含めるなら、戦前から存在しています(ただし、戦前のものはまだまだ著作権に対する意識が低く、権利侵害の上に成り立っていたようです)
その上で近年、なぜメディアミックス戦略の注目度が上がっているのでしょうか?
■エンタメ市場の成長
近年のエンタメ市場の成長は顕著です。
特に、スマートフォンの普及や通信速度の向上によるコンテンツのデジタル化は、人々がコンテンツへ簡単にアクセスできるようになりました。その結果、エンタメ消費時間が増加し、エンタメ市場が拡大しました。
■様々なメディア展開が容易になった
かつてのメディアミックス戦略は、主にマスメディア上での展開が中心であり、展開時期にタイムラグも生じていました。
しかし、デジタル技術の進化により、各カテゴリ間の境界が薄れ、さまざまなメディアでの同時展開が可能となりました。さらに、例えばライブエンターテイメントが活況となるなど、展開先も多様化しました。
さらに特筆すべき近年のトレンドとして、
ゲーム産業の開発費増加とその回収の必要性
エンタメコンテンツのグローバル展開
これらの要因が重なり、IPのメディアミックス戦略が一層重要視されています。
メディアミックス戦略がIPに与える影響とは?
「メディアミックス戦略」が担う役割は何でしょうか?それは、単に収益獲得の多様化だけではありません。
■宣伝効果による相互効果
メディアミックス戦略が目指す最初の効果は、相互効果です。
例として、アニメ化することで原作コミックの売上が伸びる、ゲームの展開によりゲーム楽曲が売れるなど、新しい展開が他の分野への「跳ね返り」を生むことが期待できます。
言い換えれば、複数メディアでの展開によって、他のコンテンツのプロモーションにも貢献。売上を相互に伸ばす「雪だるま効果」が生まれるのです。
■IPの世界観の強化
特に、コミックがアニメ化される際、キャラクターはカラフルな絵と動きを持ちます。そのため、世界観をダイレクトに伝えることができます。また、派生作品によって、物語が完結するようなIPもあります。
このように、メディアミックスを通じてIPの世界観が具体的かつ、ダイナミックに描かれることで、ライセンスビジネスが活発になったり、ファンとの絆が深まる効果が期待できます。
■コンテンツの長寿化
これらの展開を適切に実施することで、「世界観の強化」や「ブーム」を生み出します。そしてコンテンツの寿命を延ばし、長期的な収益を得ることができます。
その結果として、IPは「経済圏」※として大きな収益を生むことになるのです(例として数年前の大ヒット作『鬼滅の刃』は、1兆円以上の経済圏を生んだと推計されています)
まとめると、メディアミックス戦略は収益の多角化だけでなく、IPのブランド価値向上の役割も果たすのです。
※「キャラクター経済圏」という概念はエンタメ社会学者:中山淳雄氏が「オタク経済圏創世記」の中で提唱した概念です。
メディアミックス戦略におけるアニメが果たす役割
アニメはIPビジネスの「起爆剤」となる存在と言われています。先ほど述べたように、アニメ化によって世界観をダイレクトに伝えることは、高いプロモーション効果を発揮します。
まとめ
今回はメディアミックス戦略の概要について触れました。メディアミックス戦略を適切に実施することで、IPのブランド価値を最大化し、様々なビジネスチャンスを生み出すことができるのです。
(※参考文献)
・マーク・スタインバーグ「なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか」2015
・佐藤辰男 「KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展」2021
・中山淳雄「推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来」2021
・海 グレッグ「エンタメ領域では可処分時間の奪い合いがない?——生活者調査から見えたヒント、「競争」よりも「共存」」https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/consumer-insights/consumer-trends/entertainment-report/
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