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IPコラボ新戦略:“SNSキャラ”コミュニティを巻き込む新マーケティング戦略とは?

※本記事は私個人が、公開されている資料(WEB/書籍)をもとに、私なりに分析した記事となります。個人的見解・意見を述べるものであり、所属する組織の公式見解を示すものではございません。


なぜ日清食品は「鬼滅の刃」ではなく、「そろ谷のアニメっち」とコラボレーションしたのか?

今年3月、日清食品の「日清焼そばU.F.O.」のテレビCMが注目を浴びました。このCMでは、人気クリエーター、そろそろ谷川さん(通称:そろ谷)の代表作、「そろ谷のアニメっち」とのコラボが実現。

SNS上では、「そろ谷の新しいUFOのCMが面白い」「UFOのCMとそろ谷の組み合わせが最高」といった反響が見られました。

この反響を受けて、「やっぱ日清ってテレビのCM枠の事を高級ニコニコ動画だと思ってるよな」というツイートが「言い当て妙」ということで話題になりました。

また、それに被せる意見として

「日清の狙っている層はやっぱり若者だろう」

との声も上がりました。

しかし、若者をターゲットとしているだけであれば、より広く知名度のあるキャラクターIPとのコラボも考えられます。

にも関わらず、なぜ日清食品はSNS発のキャラクターIP、「そろ谷のアニメっち」とのタイアップを選んだのでしょうか?

日清食品が狙う「スルメサイクル」とは?

以下は、2021年に日清食品の代表取締役社長である安藤徳隆氏が、自社の広告戦略について述べたインタビューです。

当社には「スルメサイクル」と呼んでいるフレームワークがあります。

日清食品らしいエッジの効いたテレビCMは「空中戦」、店頭での営業活動、販促活動が「地上戦」、その2つをつなぐ役割を果たすのが「サイバー戦」です。

一度見ただけでは理解できないテレビCMは、ネットで再視聴されます。そして、CMには誰かに話したくなるようなフックがたくさんあるので、Twitterなどで「日清のCM面白い」「こんな仕掛けがある」と拡散され、CMに盛り込んだ小ネタを分析するまとめサイトが作られていきます。

こうした話題に触れた人はマインドシェアが高まりますので、店頭で商品を選ぶ際に日清食品のブランドが自然と想起され、売り上げアップにつながるという仕組みです。

この「スルメサイクル」を効果的に回すため、宣伝部、マーケティング部、営業部が連携し、CMのオンエア、SNSでの話題化、店頭での商品陳列の最適なタイミングを常に計っています。

https://www.cmdb.jp/cmindexweb/cmindex_20220121_1/

安直に理解してしまうと「バズを起こす」となるかも知れませんが、もう少し解像度の高い理解が必要です。

また、ブレーン10月号に「ファンと共創で育てるSNS発キャラクターコラボ設計と活用」というテーマで、実際にタイアップを企画・制作する広告会社の方のインタビューが掲載されていました。

(略)国民的に広く知られたIPとのコラボでは、(略)多くの方々にも直感的に伝わる企画にすることを意識しています。

一方でコアなファンが多くいらっしゃるIPとラボする際は、そのコミュニティで熱力高く盛り上がるような企画を打ち出して、そこからSNSを通じて話題を波及させていきます。

ブレーン2023年10月号 ファンと共創で育てるSNS発キャラクターコラボ設計と活用
より

SNSキャラの熱量あるコミュニティと一緒に「スルー・ザ・コミュニティ」を起こす

そもそもSNS派生系キャラクターと従来のキャラクターの違いは何でしょうか?

ボクの見解では、SNSキャラの最大の特徴は、「小さいながらも感情で結ばれたファンのコミュニティ」がある点です。

例えば、SNSキャラには、YouTubeやTwitterのコメント欄にファンからのダイレクトなフィードバックが集まります。これが、コミュニティを形成する土台となっています。

また、運営側とのリアルタイムのインタラクションや、クリエーターが直接ファンと交流を持つ場面も頻繁に見られます。これが、SNSキャラクターを取り巻く熱烈なファンコミュニティの成立を後押ししています。

このような強固なコミュニティに、質の高いコラボ企画を提供することで、さらなる熱狂が生まれるのです。

ボクは、これがSNSキャラとのタイアップで生まれる最大の効果だと思っています。

「スルー・ザ・コミュニティ」

コミュニケーション・ディレクターのさとなおさんが提唱する「ファンベース」。ファンベースではコミュニティを通じて物事をスケールさせることを「スルー・ザ・コミュニティ」と言います。

ファンベース的に言えば、SNSキャラとの戦略的なコラボレーションは、この「スルー・ザ・コミュニティ」効果(※)とも言えると思います。

※ファンベースでの「スルー・ザ・コミュニティ」は、その企業・商品・サービスに紐づくファン(ここでは日清食品や『日清焼そばU.F.O.』のファン)によるアクションですが、SNSキャラのコミュニティを活用するという点においてはこれも「スルー・ザ・コミュニティ」と言ってもいいと考えます。

さらには「応援広告」的な効果も

加えて、ゆるく推しているキャラがマスメディアに登場することは、「応援広告」的な効果があり、キャラIPのコミュニティでのさらなる盛り上がり効果があるとも推察できます。

※応援広告とは、アイドルなど芸能人を応援するために一個人が出稿する広告のこと。その背景には「自分の推しを多くの人に知ってほしい」というファン心理がある。

例:株式会社ラブレター(応援広告専門の広告代理店)

改めて日清食品の「そろ谷のアニメっち」とのコラボを考察すると、以下のような戦略が見て取れます:

  1. 熱量の高いファンを持つ「そろ谷のアニメっち」とコラボしたエッジの効いたテレビCMを展開

  2. 喜んだ「そろ谷のアニメっちファン」は、SNSで拡散したり、まとめ記事を作成。CMを自然に広める

  3. 更に、ネットメディアがそうした現象を後追いし、更に「スルー・ザ・コミュニティ」が起こる

  4. この拡散によって、より多くの人々が繰り返しCMを目にすることで、日清食品のブランドイメージが強化される

  5. これが店頭での商品選びに影響し、売り上げアップにつながる

この考察からも、日清食品は単にバズを狙ったわけではなく、SNS派生キャラが抱える熱量の高いファンコミュニティを意識した多層的な戦略を持っているのではないでしょうか。

まとめ

SNSキャラなどが持つ熱狂的なコミュニティと一緒に、商品やサービスを盛り上げるマーケティング戦略。

広告が効きにくいと言われる現代における新しいアプローチとして、今後ますます注目を集めるはずです。


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