見出し画像

『日プ女子』の魅力はどこから?アイドルをビジネス視点で徹底解剖!

『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』(以下、『日プ女子』)を、約2ヶ月遅れで観ました。

公式HPより

恥ずかしながら……ボクはこれまでアンテナ低く生きてきたせいか全然「アイドル」を通ってきておらず。ところが最近、ある大学生から「PRODUCE 101」がおもしろいと猛プッシュを受けました。

「それじゃったら」と、『日プ女子』をチェックしてみたところ、どハマリ。リアルタイムから遅れること、2ヶ月。配信している「Lemino」で全約60話を一気に観てしまいました。

(最初は無償でチマチマと観てましたが、途中のCMがだんだんウザくなり、気がつくとLemino有料会員になっていました)

「このおもしろさはどこから来とるんじゃ?」ということで、今回は「アイドルビジネス」と『日プ女子』のブレークの要因について、ビジネス視点から考察してみます。

そもそも「アイドルビジネス」の「うまみ」と「つらみ」とは?


アイドルビジネスのビジネスとしての「うまみ」ってなんじゃ?

何と言っても成功すれば得られる大きなビジネスチャンス。具体的にはコンサート、グッズ販売、メディア出演、広告契約など、ファンや企業からのニーズは引っ張りだこです。

しかしながら、アイドルとしてブランドを築くためには時間とコストが必要。しかも、その成果がブームとなるかは運も大きく左右します。また競争も激しく、ファンの関心を継続的に保つことは容易ではありません(『つらみ』)。

さらには、この論文ではアイドグループには「露出のディレンマ」という特有の現象があると指摘されています。「露出のディレンマ」とは、

マスメディアへの露出が増えるほどグループの認知は急速に増すが、その一方でファンの飽きのサイクルも早く進み、グループの寿命は短くなるという現象

「モーニング娘。とAKB48のビジネスシステム : その生成プロセスと新奇性・競争優位性」2013

とのこと。ざっくり言ってしまうと、アイドルが頑張って有名になればなるほど衰退が進む、という現象かと思いますが。まぁ、控えめに言って地獄ですね……

「アイドルビジネス」のKSFとは?


これらを踏まえたアイドルビジネスのキー・サクセス・ファクター(KSF)をまとめると以下です。

  • いかに唯一無二の「ブランド」を構築するか?

  • 継続的にファンベースとの関係を深めるか?

  • いかにファンからの飽きを軽減し、持続可能性を実現するか?

では、こうした状況に対して、プレイヤーはどんな施策を講じているのでしょうか?

「アイドルビジネス」のKSFに対する打ち手とは?


色々と見渡してみると、KSFを満たすためにアイドルビジネスのプレイヤーは以下のような打ち手を構築していることが分かります。

いかに唯一無二の「ブランド」を構築するか?
→いきなりデビューではなく、デビュー過程をドキュメンタリーとしてみせることで、ファンとの共感を強固なものにする(『モーニング娘』)

継続的にファンベースとの関係を深めるか?
→オーディションからデビューに「投票」などの仕掛けをつくり、一般のファンの関与を強める。また関与と同時にファン自身の声を反映することでマーケティングとしても機能(『AKB48』)

いかにファンからの飽きを軽減し、持続可能性を実現するか?
→メンバーの「卒業」と加入など、メンバーチェンジを繰り返すことで、新陳代謝を行いつつグループ(箱)自体の存在感を高める(『モーニング娘』『AKB48』)

ただし仕組み・仕掛け自体は四半世紀以上前に開発されており、既に陳腐化していると言えるでしょう。

そのため、プレイヤーはこうした仕掛けを「最低限」押さえつつも、+αが必要です。

『PRODUCE 101』とは?


PRODUCE 101(プロデュース ワンオーワン)は、韓国の音楽専門チャンネルMnetで放送が始まったオーディション番組。

様々な事務所に所属する101人の練習生が参加し、視聴者(国民プロデューサー)の投票で上位11人のメンバーがデビューする「サバイバルオーディション企画」です。

この番組は社会現象を巻き起こし、多くのスターを輩出。『PRODUCE 101』フォーマットは日本でも展開しており2019年には「JO1」、2021年には「INI」が誕生しています。

『PRODUCE 101』第3弾:「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」(以下、『日プ女子』)成功の要因は?

そうした流れの中で2023年10月にスタートしたのが、「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」(通称『日プ女子』)。

韓国は芸能プロダクション所属の練習生が参加の対象でしたが、日本の場合は一般人が参加対象になっているという違いがあるものの、基本フォーマットは同じです。

『日プ女子』の配信開始後の反響は大きく、第1回の国民投票では3400万票超と過去最高を記録。SNSのトレンドを席巻しました。

また、「2023年下半期Z世代トレンドランキング(トレンドお届けメディアTrepo)」の「コト・モノ」部門で「日プ」が5位にランクイン。

去年、大きくブレークしたエンタメであったことは間違いありません。

これまでのポイントを押さえつつ、『日プ女子』ブレークの要因とは何でしょうか?

「熱狂」×「自発的行動」=「重要度」→【推し】


『推し活経済』によれば、「推し」を獲得するための重要な要素は、「熱狂」×「自発的行動」=「重要度」です。このフレームで施策を分類すると以下のようになります。

「熱狂」を高める仕組み

■「一生懸命で誠実」「ぶれない世界観」「完璧ではない」

番組では、未熟で完璧ではない練習生たちがデビューを目指すひたむきな姿が映し出されます。中には歌やダンスが未経験の練習生も少なくありません。

そうした卵たちが、個性を活かし、彼女なりのやり方で困難を乗り越えていきます。「一生懸命で誠実」「ぶれない世界観」「完璧ではない」という熱狂要素を前面に押し出し、視聴者の共感と応援を得ています。

■番組のエンタメ性を高める「残酷」要素

『PRODUCE 101』の魅力の一つは、緊張感とドラマを生み出す「残酷」なルールにあります。

(練習生にとっての残酷要素)
・他チームからの引き抜きシステム

例えば、あるオーディションステージのルールの一つに、チーム決めの際、レベル上位のメンバーが他チームから好きなメンバーを引き抜けるというものがありました。

これにより、元々実力派だったチームがレベル下位のメンバーだけになったり、誰からも選ばれなかったメンバーだけのチームができるなど、緊迫したシーンが生まれました。

・チーム内での追放システム
また、あるオーディションステージでは、7人以上のメンバーを持つチームで、メンバー同士が投票し、7位以内に入れなかったメンバーは他の人数不足のチームへ移動(追放)されるルールがありました。

追放メンバーを書く際、「誰の名前も書けない」と涙する練習生の姿が見られ、運営に対する軽い怒りを覚えた視聴者も少なくないと思います。

(国民プロデューサーにとっての残酷要素)
・最後は結局1人しか投票できない

国民プロデューサーは最終投票では、1人の練習生にしか投票できません。これにより、特定の「ケミ(相性の良い組み合わせ)」を推すファンは、その中からさらに1人を選ぶ難しい選択を迫られます。

そのため、ファンの間には「ケミ推しは危険」という有名な不文律があります。

・ただし、ドロドロ描写は少ない
番組内での競争や試練にも関わらず、ネガティブな描写は最小限に抑えられています。参加者たちは困難に直面しながらも、「こうなってしまったのにはなにか意味がある…」「自分にしかできないことをやろう!」といったポジティブな姿勢を見せます。

これが視聴者に推しメンを応援させる魅力となっています。

■積極的なヴァーチャルコミュニケーション


『日プ女子』の主たる公式SNSは、「X」「Youtube」「tiktok」。

  • 「X」フォロワー数:53万

  • 「Youtube」チャンネル登録者数:88万

  • 「tiktok」フォロワー数:32万

※数字はすべて2024年2月24日時点

特にボクが着目するのは、「Youtube」「tiktok」です。それぞれのチャンネルでは、本編のハイライトやオフショットはもちろん、

  • グループバトル中にメンバー一人ひとりを追った「推しカメラ(チッケムカメラ映像)コンテンツ」

  • 練習生やダンストレーナーによる「ダンスチャレンジコンテンツ」

  • 練習生による様々な自己PRコンテンツ

など、それぞれのメディアの特性に合わせたオリジナルコンテンツが満載。しかも、どのコンテンツも数万~数百万レベルで再生され、SNS内だけも数億レベルの再生数があります。

ただ、本編をハイライトとして再利用するのではなく、メディア特性に合わた緻密なコミュニケーション戦略が見て取れます。

公式Youtubeより

■限定感を狙ったリアルコミュニケーション

この記事によると、番組開始前に渋谷駅で体験ブースを設置し、道玄坂と品川駅にビジュアルを掲出、イオンモール幕張で練習生のお披露目会を実施。

ヴァーチャルなコミュニケーションに加えて、リアルコミュニケーションも重要視したとのこと。

リアル施策の特徴はなんといっても、その場に行かなければ見たり触れたりできない限定感。こうした限定感を熱量に変えたと述べています。

一方で、『日プ女子』はテレビCMのようなマス広告施策はほとんど実施しなかったのも特徴的です。

先の記事では、見込み客に絞ったデジタルターゲティング広告で、戦略的にプロモーションを行ったことにも言及しています。

「自発的行動」を高める仕組み

■「国民プロデューサー」

『PRODUCE 101』の特徴はなんといっても、視聴者が「国民プロデューサー」として番組に直接参加できることでしょう。

この参加型の形式により、視聴者は自分が応援するメンバーや理想のメンバー組み合わせに投票でき、まるで自分がプロデューサーであるかのように番組を楽しむことができます。

また、投票回数には制限があるため、投票を家族や友人に依頼する視聴者も少なくありません。そのため、ファンが『PRODUCE 101』を口コミしてくれる仕掛けにもなっています。

■UGC(User Generated Content)の活性化

特に今回の『日プ女子』の特徴は、UGCを後押しする仕掛けを積極的に構築している点にあります。

例えばスクリーンショット機能の開発を行い、ファンがSNS上でお気に入りシーンをシェアできる仕組みを公式として構築。この迅速な対応に視聴者は驚き、SNSで称賛の声が上がったそうです。

また、公式からロゴなどの素材を提供したり、応援広告のレギュレーションを整備。運営側としてUGCに対して寛容且つ積極的に推奨することで、ファンの「自発的行動」を高める仕掛けを用意していました。

素材や応援広告等のレギュレーションHP

最後に

今回『日プ女子』の世界に触れてみて、ビジネスやマーケティング観点で重要なヒントがあるような気がします。

『日プ女子』および『ME:I』の活動は始まったばかり。まだまだ彼女たちの活躍に目が話せません!

参考文献


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?