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データサイエンスやデータガバナンスには「規律」が最重要

読んで欲しい方

  • データサイエンティストやシステムエンジニアなどのエンジニアの方

  • プロジェクトマネジメントでデジタル推進をされている方

  • デジタル組織でリーダーの立場にある方

  • 組織のマネージャなどのデジタルに投資されている方

  • デジタルに興味のある方


なぜ「規律」が必要で最重要なのか?

永続的な変革を実現するための意外な答えは、離陸の際も飛行中も、規律を守ることだった。

なぜ、DXは失敗するのか? 「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデル トニー・サルダナ著、EYストラテジー・アンド・コンサルティング監修、小林啓林訳、2021、東洋経済新報社

「データサイエンスやデータガバナンスに対して組織が投資するのは、変革(=イノベーション)を目指しているためである。」ことは疑いないことです。

トニー・サルダナ氏は、P&Gの変革を担うエッジ組織の長としての豊かな経験から、DXには「規律」が最重要だと述べています。
私はデータサイエンティストとしての10年以上の経験から、この知見に完全に賛同し、データサイエンスの現場目線からこの「規律」の重要性を語りたいと思います。
トニー・サルダナ氏のマネジメント層からの視点と、データサイエンティストの現場層の視点と合わせて「規律」の重要性を語ることは、価値のあることだと確信しています。

なぜ、規律が重要なのか。それは、規律がなければ無秩序になるためです。規律の反対語は無秩序です。規律がなければ無秩序になることは、論理的には疑いのないことです。

データサイエンスの現場では、想像以上の無秩序が発生しています。
「データがない」「データが使えない」「予測モデルの精度が悪い」「AI(人工知能)がビジネスで使えるレベルまで学習できてない」「業務に生かす術がない」など、無秩序の例を挙げたらいくらでもあります。
むしろ、これらの規律を作り上げないと無秩序のままです。無秩序なのは、規律を作らずに放置した結果です。この放置は、怠惰や惰性が原因と言いきても良いかもしれません。

無秩序なままだと、成果物の品質とスピードに大きく影響します。
「たくさんの時間を使い、得られた成果物は期待はずれ。」ということになりかねません。これでは投資対象としてふさわしくないです。また、変革が目的のデータサイエンスやデータガバナンスのあるべき像としてふさわしくありません。

経験上、データサイエンスやデータガバナンスのプロジェクトの成否は、そのプロジェクトがどの程度の規律が存在して、それが繰り返し実施されているかを見れば大体わかります。

どうすれば「規律」を作れるか?

規律を作るには、トップマネジメントからの統制と、現場レベルでの議論を通じた規律づくりの両方を元にした、プロジェクトマネジメントによって作る必要があります。
トップマネジメントからの統制が弱い場合は、現場レベルで自主的に規律を作る必要があります。逆に、統制が強い場合は、統制によって現場はそれに従うだけで究極的に済みます。
このトップマネジメントの統制の強さや弱さは、その組織のデジタル成熟度に寄ります。デジタルネイティブ企業は、統制が強い傾向があります。

この規律は、トップマネジメントからの管理に唯々諾々と言いなりになって従うことではありません。どちらかというと自由で民主的なものです。現場の判断は、規律を守ることで、トップマネジメントの意思決定と一致するために、判断を仰ぐことなく、スピーディに現場で意思決定と実施を行うことができます。

データサイエンスやデータガバナンスの現場は複雑であり、日常業務の諸々をトップマネジメントに報告して指示を仰ごうとするのは非現実です。
トップマネジメントは大方針を示すことで統制し、現場は規律を守って日々の業務を最高速度で実施することが求められます。

「規律」を最重視するもう一つの効用:不要な投資を回避する

世の中にはさまざまなDXサービスが存在しています。組織にとって有益なものから無益なものまで玉石混交です。
それらは、実際に必要なものから、広告によって有益そうに見せているだけのものまであります。まさにサービスが乱立して無秩序な状態です。

様々な組織と関わり、重要でないもののコスト削減と、それによって浮いた資源で重要なものへの投資増加の要求が激しくなっていると感じます。
世の中の無駄なサービスに貴重なお金や時間を費やす余裕は、どんどんなくなっているのでしょう。

「規律」を生み出すことは、究極的には無料です。
なので、無駄なサービスを購入せずに、組織内の努力だけで実現することは可能です。

ただし、組織によっては、デジタルプロジェクトを推進するための統制や規律を作るのが難しい組織文化が存在するのも事実です。
この場合は、パートナーエコシステムを構築し、真に有益なパートナーとパートナーシップを組んで変革を推進する必要があります。
広告に惑わされずに、適切なパートナーを選ぶことが求められているのかもしれません。

私の「規律」を作り、守る努力

「規律」は理論ではなく実践です。私のデータサイエンティストとしての規律を作り、守るための努力の過程を紹介します。

データガバナンスによる品質の高いデータによって、データサイエンティストが良い分析を行うために、これらは一体です。よって以降は、データサイエンティストのプロジェクトのみに焦点を当てます。データサイエンティストのプロジェクトとデータガバナンスのプロジェクトの規律は同様です。

データサイエンティストの職人技に依存したプロジェクト

データサイエンティストは、職人や芸術家などといったその人の技術や能力の差が大きいことは否定しません。そして、プロジェクトには優秀なデータサイエンティストが必要なことは疑いないです。しかし、そのデータサイエンティストの技術や能力のみに頼った、プロジェクトの「規律」のない状態は否定されるべきです。
この状態では、優秀なデータサイエンティストは数理の精密さやモデル精度向上の取り組みで、まるで壮大な芸術作品を作り出すようなことをしてしまします。また、精密な数理モデルや壮大な論文のような文書が生み出されます。
しかし、DXに向けて企業組織全体が、スピーディに変革を行わなけばならない状況では、このような生産物では、スピードが遅く過剰品質です。これは、データサイエンティストのみの責任ではなく、彼や彼女らは与えられた職責の中で最高の仕事をしようとしているだけです。
問題なのはプロジェクトに規律がないことです。

職人技に依存したプロジェクトへの脱却のための努力

この状況を回避するには、プロジェクトリーダーとデータサイエンティスト両方が必要です。またさらにプロジェクトのトップマネージャの理解も必要です。これはデータサイエンティストとしての私が日々の業務で改善のために努力していることでもあります。

以下のようなチェックリストを用います。

  1. 短期目標、中期目標、長期目標といった目標とそれを実現するための戦略は設定されたか?

  2. ガントチャートによるプロジェクト進捗管理がされたか?

  3. 生産物はレビューされたか?

  4. 成果物は組織の権限を持つ人に共有したか?

  5. 指数関数的に成長する可能性がある適切なテクノロジーや数理を用いたか?

  6. プロジェクトに規律があるか?

これらは、以下で詳説します。

短期目標、中期目標、長期目標といった目標とそれを実現するための戦略は設定されたか?

データサイエンティストはただ単に「分析業務者」や「分析下請け業者」ではなく、その組織のDXに関する戦略にも関与すべきです。なぜなら、その成果物は組織のDX戦略に使われるためです。そうでない生産物は、DXに役に立たずマネジメント層からは期待ハズレでしょう。

ガントチャートによるプロジェクト進捗管理がされたか?

データサイエンティストの業務は複雑であることは疑いなく、試行錯誤が必要です。しかしそれはプロジェクト管理を受け入れないこととは別問題です。ガントチャートで各作業を管理することで、必要な生産物のスピードと品質をコントロールしなければなりません。

生産物はレビューされたか?

データサイエンティストの生産物は、職人や芸術家の仕事のような中身はブラックボックスであり、その最終成果物のみが問題になるようなものではありません。それはDXのために、日々組織の重要な業務や意思決定のために繰り返し用いられます。よって、その中身の詳細を組織が把握する必要があります。その内容について組織がレビューすることでそれが可能であり、レビューによるフィードバックでデータサイエンティストはより良い生産物を作るための重要な知見を得ることができます。

成果物は組織の権限を持つ人に共有したか?

生産物は、DXのために使われる必要があります。そのためには、必要な人に成果物が共有されなくてはなりません。個人的な経験として、重要な分析結果や数理モデルが使われずに、死蔵されているケースがあります。共有に問題があります。

指数関数的に成長する可能性がある適切なテクノロジーや数理を用いたか?

組織がデータサイエンティストに期待するのはDXやイノベーションのための、指数関数的に成長する可能性のある、組織にとって適切なテクノロジーや数理を、組織に導入することです。指数関数的な成長とは、1が2、2が3、3が4へと改善することでなく、1が10、10が100、100が1000と変革していくことです。そのために、組織は多くの予算をデータサイエンティストとそのプロジェクトに用います。データサイエンティストは、そのようなテクノロジーや数理を組織にもたらして、組織の財務的な成果に貢献したかを厳しく自ら評価すべきです。

プロジェクトに規律があるか?

その他に、組織固有の文化ややり方に鑑みて、必要な規律が全てあるかを確認します。

まとめ:とにかく「規律」が最重要

変革には規律が最重要であると、現場レベルのデータサイエンティストからも主張したいです。これを読者の方に持ち帰っていただければ、私の中では成功です。

世の中にあるどのようなサービスよりも規律が重要で、優秀な人材よりも規律の方が重要だとも考えています。

優秀な人材が規律あるプロジェクトでは能力を発揮し、規律のない無秩序なプロジェクトで能力を発揮できずにいることも経験しました。

読者の方々の身の回りの仕事について、どれだけ規律があるかどうかを考え直してみてはいかがでしょうか?

混迷深まる現代社会で、DXによって、社会がより良くなることを切に願います。

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