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【本要約】ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

本記事は『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(丸 幸弘、尾原和啓著・日経BP社)の要約・解説の記事です。本書では、中長期に渡る課題(ディープイシュー)をテクノロジーで解決していく取り組みである「ディープテック」にこそ、日本の活路があるというコンセプトを紹介しています。また、その鍵は日本に眠る技術と東南アジアに機会があるというのが本書の主張です。多くのディープテック事例から新しいビジネスの潮流を知ることができ、「日本にもまだ希望がある」と感じさせてくれる1冊です。


▼ディープテックとは

ディープテックとは…
テクノロジーを使い、根深い課題を解決していく考え方や活動のこと。

日本は戦後、技術を磨くことで栄華を誇りましたが、技術に固執したことでグローバルから取り残され、米国や中国企業に突き放される格好となりました。目の前に課題がはっきりあると、日本の技術は力を発揮しますが、正しい課題設定ができず、苦しい期間が続いています。

しかし、現在「SDGs」に代表されるような新たな潮流が生まれており、グローバルで中長期で解決していくべき課題が可視化され、共通認識化されてきています。

そのような世界の潮流の中で「Social Validity(ソーシャルバリディティ)」という最初から外部不経済を起こさないような経済圏を作り出すことが注目されています。

とりわけ、東南アジアは急激な経済発展を遂げた反動で、外部不経済が起きています。例えば、インドネシアやマレーシアでは、パーム油を搾取した搾りカス(バイプロダクト)の廃棄が課題になっており、このような課題を解決していくことが急務となっています。

東南アジアに多く存在するディープイシューを日本の技術で解決する「ディープテック」の取り組みこそが日本再生の鍵と考えているのが本書の主張です。

なぜ東南アジアなのか…
人口拡大に伴い、経済発展が進んでいることや、地理的に欧州よりも日本が近い位置にあることなどから東南アジアに注目されています。

▼ディープテックの特徴


  1. インパクトが大きい

  2. 上市までに時間を要する

  3. 相当の資金投入が必要

  4. ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する

  5. 知財+情熱+ストーリー性+知識の組み合わせ=参入障壁が高い

  6. 社会的・環境的な地球規模の課題に着目


ここ最近は「○○Tech」の文脈で、クラウドを使ったテクノロジーがリリースされていますが、ディープテックはそれらと違った特徴があります。

特にポイントとなる点は「時間軸」の考え方で、多くのwebシステムがスピーディに開発、拡大していくことを重視していますが、ディープテックは開発や拡大が長期間に渡ることが多いです。しかし、その分参入障壁が高く、規模が大きい取り組みになることも、ディープテックの特徴といえます。

そのため、ディープテックがより発展していくためには投資環境の変化も必要です。特に、日本の投資家のスタートアップへの投資態度が変わっていく必要があると本書では述べられています。

日本は米国などに比べて、スタートアップへの投資規模が小さく、数十億レベルで上場してしまうため、未上場で1000億円以上の企業価値を持つユニコーン企業が生まれにくいという状況があります。

また、起業したばかり(アーリーステージ)のスタートアップが大型の資金調達できる環境が整っていません。そのため、初めから相当額の資本投入が必要なディープテックへの投資が集まらない可能性が高くなります。

スタートアップとしては海外から資金調達をする方法もありますが、多くの起業家にとって難易度が高く、一筋縄ではいきません。日本の活路がディープテックにあるのであれば、投資環境の変化や政府からの積極的な支援策が必要だと本書では主張されています。

▼日本の勝ち筋


①エマージングマーケットにおいてディープイシューを解決しようとする人々に対し、スケールアップさせる役割
②日本の中で埋もれた優れた技術をエマージングマーケットで再び生かす
③日本のディープテック企業がエマージングマーケットに飛び込む


本書では日本の勝ち筋として、3つの道筋があると説明しています

エマージングマーケットとは、新興成長市場のことですが、現在では主に東南アジアを指しています。東南アジアに注目しているのは先に記述した通りで、日本は東南アジア諸国に対して、欧米よりも地政学的に有利な立場にあるためです。

そのため、課題の多い東南アジアと、技術シーズを多く持つ欧米諸国とを繋ぐ「知的生産の拠点」になれる可能性が日本にはあると本書では指摘しています。特に、イノベーティブな技術は「母国語で取り組んでいるオリジナルな研究」と「英語で書かれた最先端な研究」の組み合わせによって生まれます。

一例として、味の素の「UMAMI」の発見がある。

また、日本にはまだまだ優れた技術があり、それらを再び東南アジアの課題解決に目を向けることで生かす道があるといいます。ここでいう技術は、品質が不安定な最先端の技術ばかりでなく、「枯れた技術」も含まれています。日本の多くは中小企業であり、専門分野に特化している企業が多く存在します。WEBの世界では、「GAFAM」に代表されるような大きな企業にどうしてもパワーが集中しますが、現実の問題を解くには、専門特化した技術も必要になります。それらを狭い領域だけでなく、ディープイシューと組み合わせて、世界へ展開することで、新しい活路を生み出すことができます。

「枯れた技術」とは…
すでに実装されていて、実績のある安定した技術のこと。日本語のニュアンスから、古臭い旧技術のことを連想されるがそういうわけではない。例えば、当時最先端だった新幹線も、実は枯れた技術を組み合わせて作られた。

▼まとめ

今回は、ビジネスの最新潮流を知ることができるビジネス書『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』について要約、解説して参りました。

この本の帯では、中田敦彦氏が以下のようにコメントしています。

「この本で、日本は夢を取り戻せる」

まさに、そう感じさせてくれる内容でした。すでに東南アジアの発展は起きていることですが、その中で日本がいかにプレゼンスを出していけるか、それは全て我々自身の取り組みにあります。

本書では「QPMIサイクル」というものを紹介しています。

「QPMIサイクル」とは…
質(Quality)の高い課題に題して、個人(Person)が情熱(Passion)を傾け、仲間たち(Member)と共有できる目的(Mission)に変え、解決する。
それが、革新(Innovation)や発明(Invention)を起こす。

どんな大きな革新も発明も、いつだって起点は個人だと思うので、一人一人が行動し、ディープイシューに取り組んでいくことで、長く停滞した日本に突破口が生まれるのではないかと思います。また、特に現在は「SDGs」など時流もあるので、個人のキャリアとしても、一度考えてみてもいいのではないかと思います。

この要約では紹介できませんでしたが、本書では多くのディープテック事例が紹介されており、新しいビジネスのヒントがたくさん詰まっています。
ぜひご興味のある方は本書をご一読ください。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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