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価格戦略をダイナミックに考える:連載「実証ビジエコ」第8回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」。今回は、第回です!

前回からスタートした「シングルエージェント動学モデルの推定」シリーズ、今回は応用編です!

今回は、前回積み残しになっていた以下の2つの課題に主に取り組んでいくことで、より実務にも役に立つインプリケーションに富んだレポートを、日評自動車に提出することを目指します

  1. 前回導入した「入れ子不動点アルゴリズム」に基づく方法では、推定に時間が掛かってしまい、価格設定やキャンペーンなどを想定した戦略シミュレーションを何度も試したり、より複雑なモデルを使った分析を行うには使い勝手が悪い。

  2. 常に低価格にコミットするEveryday Low Price (EDLP)など、いくつかの価格戦略の結果、消費者の買い替え行動がどう変わるか、企業の収益等はどう変わるのかを、モデルに基づいたシミュレーションを通じて分析する。

今回は、用いるデータとモデルは、前回と同様のものを用いて分析を行い、シミュレーションを行う際には、日評自動車がとりうる価格戦略の想定にあわせて変更することで、反実仮想分析を進めていきます。

このnoteでは、連載第8回の内容紹介と、ウェブ付録のご案内を行います。本連載では、前回までと同じく、ここで紹介する理論や分析手法がなぜ必要かといったモチベーションの部分や、実際の分析の進め方を丁寧に解説します。サポートサイトでは、Rを用いた分析コードや補足的な解説ノートも提供しています。ぜひ本誌の解説を読みながらトライしてみてください!

今回のサポートサイトは【こちら】です:

連載「実証ビジネス・エコノミクス」サポートサイト

また、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。本連載のガイダンス+著者たちが意気込みを語った第1回は、本文の試し読みもできます。ぜひ覗いてみてください!

なお、第8回が掲載されている『経済セミナー』2022年6・7月号の特集は「経済学と再現性問題」です。こちらもぜひご注目ください!

前置きはこれくのくらいにして、以下では第8回冒頭の内容を紹介します!!

■連載第8回・第1、2節より

日評自動車からの依頼を受けて、自動車の買い替え行動に関する分析を進めていたあなた。動学的な消費者行動モデルを構築し、データを用いてモデルのパラメターの推定までの作業をひとまず終えることができた。

しかしながら、まだまだ問題点は残っている。まず、現在行っている推定方法は、その計算に多くの時間が掛かるという点である。現在は非常に単純なモデルを用いているが、より現実に即した複雑なモデルに拡張した場合には、計算時間がさらに必要になってしまうだろう。また、消費者の買い替え行動モデルに基づいて、日評自動車が価格戦略を変更した場合の影響に関する分析も残っている。これらの課題についてどう取り組んでいくか、あなたは職場の先輩のもとへと相談に向かった。

前回(2022年4・5月号)の連載に引き続き、今回もシングルエージェントの動学的最適化モデルの推定について取り上げよう。今回の主題は、前回導入した方法よりも数値計算が簡便で計算速度の速い推定方法の導入と、推定したモデルに基づく反実仮想シミュレーション分析の2点である。

前回導入した入れ子不動点アルゴリズムは、パラメターの評価ごとに動学的最適化問題を解くことでモデルの予測を得て、尤度関数を計算するという方法であった。そして、アルゴリズムの中に入ってくる、この「動学的最適化問題を解く」という部分が、動学モデルの推定における独特な点であると同時に、時間が掛かる箇所でもある。そこで今回は、動学的最適化問題の計算をうまくショートカットする方法を導入することにより、推定時間を短縮する方法を紹介する。後ほど詳しく説明するが、このアプローチは2段階推定量(two-step estimator)と呼ばれている。なお、次号以降で解説する「複数エージェントの動学ゲーム推定」を伴う実証研究では、この2段階推定量が広く用いられている。

反実仮想シミュレーション分析においては、動学的な買い替えモデルに基づいた、各種価格戦略の分析を行う。まず、「Everyday Low Price(EDLP)」と呼ばれる、セールによる一時的な価格変動をなくして常に低価格にコミットする戦略について、それが売上や買い替え行動に与える影響を分析する。EDLPのもとでは価格変動がなくなるため、(企業がその戦略を変更しないと仮定すると)消費者は将来の価格変化を気にせずに意思決定を行うこととなる。

 2つ目のシミュレーション分析として、「永続的な価格変化」と「一時的な価格変化」の効果の違いについて定量化する。前者は製品の定価の変更を念頭に置いたものである。一方、後者の例としてはセールによる価格の引き下げや、政府による購入補助金政策等が挙げられ、一時的に価格が低下するものの、その期間が終わるともとの価格に戻る、というシナリオを考えている。後者のような価格変化は、一時的には需要を増加させるかもしれないが、実は「需要の先食い」をしているだけで、長期的な需要の増加につながらないかもしれない。今回の反実仮想シミュレーション分析では、これらの点について、推定したモデルを利用して定量的に評価することを試みる。

------------- 第3節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■連載第8回のウェブ付録

今回は、シングルエージェント動学モデルの推定の応用編で、前回導入したモデルとデータ、学んだテクニックを駆使して、より実務にも役立つ示唆を得られるような分析を行っていきます。テクニカルな面も多くなってきていますが、動学的な状況を想定して、モデルに基づいて価格戦略の影響を将来のことも睨んで分析するということで、実践につながりうる内容でもあります!

なお、今回もキーとなる動的計画法等に関する参考文献は、第7回付録noteにまとめていますので、ぜひご覧ください。

例によって、第8回も分析で用いたのRコード(およびデータ)とその解説、さらに本誌で解説しきれなかったテクニカルな補足ノートを、サポートサイトにアップして公開しています。本誌をご覧いただきながら、ぜひとも分析結果の再現や応用にチャレンジしてみてください!

分析コードの解説
補足説明ノート

■おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第8回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。

連載もかなり進んできましたが、引き続き実証分析の実践的な側面を重視しつつ、マーケティングや経営戦略の意思決定などなど、ビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析に関する学びの場を提供していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

なお、第8回を掲載している『経セミ』2022年6・7月号の特集は、「経済学と再現性問題」。

先行研究で得られた科学的な知見が、再現できないかもしれない。
本特集では、近年、心理学における「再現性の危機」を契機に、多様な分野で注目を集めるこの問題にフォーカスして、そもそも、「これのどこが問題なのだろうか?」というところからじっくりと確認したうえで、「なぜ生じてしまうのだろうか?」「どうすれば防げるのか?」「実際に今、どんな取り組みがなされているのか?」を、経済学だけでなく、心理学、会計学、統計学から幅広い専門家の皆さまをお招きして、多角的に解説・ディスカッションしています。ぜひご注目下さい!!

特集= 経済学と再現性問題
・【鼎談】再現性の問題にどう向き合うか?……川越敏司×會田剛史×新井康平
・心理学における再現性の危機――課題と対応……大坪庸介
・経済学における再現性の危機――経済実験での評価と対応……竹内幹
・フィールド実験・実証研究における再現性……高野久紀
・健全な研究慣習を身に付けるための実験・行動経済学101……山田克宣
・再現性問題における統計学の役割と責任……マクリン謙一郎

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8801.html

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。