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【経セミ・読者コメント vol.4】 R.Nさま 2024年4・5月号 特集「経済学で格差を読み解く」

はじめに(編集部より)

経済セミナー編集部です。
『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)から読者モニターの皆様からのコメントを本格的にご紹介していきます! いただいたコメントの中から、批判的な考察や具体性のある議論などを含み、他の読者の皆様にとっても有益な内容と思われるものを3~4つほど選定し『経済セミナー』本誌や経セミnoteでご紹介させていただきます。

※頂戴したコメントは本誌やnoteで公開していないものも含めすべて拝見しております。コメントは今後の企画・制作の参考とさせていただいております。

もちろん、ご執筆者のご了解をいただいたうえで、掲載内容をご相談して進めています(記名でも匿名でもOKとさせていただいております)。

今回はR.Nさま(ロンドンスクールオブエコノミクス〔LSE〕留学中)のコメントをご紹介します!

【以下、コメントです👇】



日本における福祉国家論と実証分析のつながり

〇社会保障のこれまでとこれから/安藤道人

現在、英国大学院で公共政策を学んでいますが、その過程で、諸外国では福祉国家論とその実証分析が比較的よく接続されている一方で、日本ではこうした接続が十分でないと感じています。安藤先生の本連載を今後も丁寧に追いかけ、自らの知見を深めたいと思います。

「財源の調達力」という観点

その上で、本稿では、「カバレッジ」に着目した議論がなされていますが、「ファイナンス」が本連載の議論の中でどう位置付けられるのかということに関心があります。

例えば、教育については、カバレッジの点では一定の結論が得られているとされているところですが、財源の調達力という点では、公費とあわせて保険料を財源に持つ(狭義の)社会保障に優位があるとも考えています。こうした財源の調達力については、現在行われている子ども子育て支援金の議論の一つの背景ではないかと考えており、哲学的にも、保険料・給付の関係は、どのようなリスクを社会がカバーするかということとも密接に関与すると考えます[1]。

[1]権丈善一先生(こども未来戦略会議構成員)メールマガジンhttps://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/2040-6.pdf

実証分析の蓄積・接続はこれから

 また、実証分析については、高齢者の自己負担割合の引き上げについては、国会審議の過程で厚生労働省は「現時点で参照できる論文はなかった」と述べています[2]。医療の中でも個別の医薬品や医療技術の費用対効果分析は進んでいると思いますし、また、労働や貧困分野については様々な研究がなされていると思いますが、医療保険等の社会保険制度そのものについては実証分析と政策立案のつながりが弱いと考えており、現在どのような研究が進んでおり、政策にどのように接続される可能性があるかについても、今後の本連載にもかかわる事項として、興味関心を持っています。引き続きよろしくお願いいたします。

[2] 令和3年4月23日衆議院厚生労働委員会における浜谷政府参考人(厚生労働省保険局長)の答弁:

 「お答えいたします。これまで、高齢者医療におきましては、例えば現役並み所得者の負担割合の引上げ、これは平成十四年十月に二割、十八年十月に三割、それから、七十歳から七十四歳の負担割合の引上げ、これは平成二十六年度から三十年度にかけて順次二割でございます。それから、高額療養費の限度額の引上げ、これは平成二十九年八月、三十年八月と段階的に行ってまいりました。

 こうやって行ってまいりましたけれども、これまでの委員会の審議で様々御議論があったことでございますけれども、やはり個人の健康には様々な因子がございまして、窓口負担の見直しに伴う受診行動のみを取り出して健康状態への影響を与えるかどうかといった分析は困難でございますし、そういった健康への影響について政策面で参考にできるような確たる論文等も私どもとしては承知していないということでございます。」


格差問題における重要な視点を整理

〇特集 「経済学で格差を読み解く」

子育て・家族の市場化の是非

男女間格差の是正のため、子育て・家族を市場化していくこと自体は当然ありうる方向性だと思いますが、それが若者にとって完全に望ましい政策なのかどうかということについては、子育て中の一当事者としては疑問があります。例えば、ブリントンは『縛られる日本人』の中で、アメリカでも日本でも、子供が幼い時期に両親ともフルタイムで働いて家を空けることが好ましいとは思っていないことを示した上で、男女ともが平等に家事を負担する・できる環境が重要であるとしており、個人的にも共感できます。

格差に対するさまざまな立場 

格差の問題は、①不公平な差を認めるべきではないという規範的な視座と、②格差が固定化することで個々人が能力を活かし切れておらず、労働力不足や労働生産性低下を招いているという経済的な視座とが必ずしも区別されておらず、更に、男女間の格差の解決については、女性の社会進出を目的とする立場・少子化対策(労働力不足)への対応を目的とする立場が混在していると感じています。横山先生が指摘されている「母集団の変化」を考えることは、ひいてはこうした考え方の違いを整理することにもつながるものであり、政策立案において非常に重要なのではないかと感じました。


マクロ経済学の学習に活用

〇はじめてのマクロ経済学/盛本圭一

CPIにおけるバスケット構成の問題との類比

 現在英国の公共政策大学院で経済学を学んでいます。GDPデフレータ―とCPIについては、GDPデフレーターではGDP上で計測される経済活動だけに着目しており、CPIの方が消費動向に着目した数値である一方で、CPIにはバスケットをどう構成するかという課題がある、と漠然と考えていました。本稿では、GDPデフレーターについても、実質GDPの計算において基準年の価格バランスを比較年でも引き継いでしまうという問題があるという指摘があり、(数量を固定するか価格を固定するかという点で違いますが)CPIのバスケットの構成に似た課題がGDPデフレーターにもあることをはじめて認識し、目から鱗でした。

今後のリクエストなど

 マクロ経済については、マンキュー等の教科書では、インフレーションのコントロールの必要性が前提とされており、日本への当てはめはなかなか難しいと感じています。今後、①日本のこれまでの長期的なデフレが経済学の理論とどうつながるのか(例えば、教科書ではインフレ期待についてのみ触れられるのが一般的で、デフレマインドの影響については触れられていません)、また、②まさに政策の転換点にある中でどのような理論を参照することが考えられるか、という点に触れていただければ、勉強中の学生としては大変ありがたいです。


読者の皆様からコメントをいただいた『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)の詳細情報は、以下のリンクよりご覧いただけます!(電子版も発売中)

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