見出し画像

高級化路線の長期的価値:連載「実証ビジエコ」第12回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」

今号=2023年6・7月号掲載の第12回で、ついに最終回となりました!

本連載では、経済学を活用して社会やビジネスの問題にソリューションを提供する「実証ビジネス・エコノミクス株式会社」を舞台に、新入社員だった「あなた」が、実証産業組織論の標準的な手法を学びながら、クライアントの依頼に奮闘するストーリーに乗せて、

(1) 需要推定
(2) 静学ゲームの推定
(3) 動学的な意思決定の推定
(4) 動学ゲームの推定

という、大きく4つのパートに分けて、分析コードやデータも提供しながら解説してきました(過去の連載内容などは、ぜひ本連載のサポートページをご参照ください)。

さて、最終回となる連載第12回では、第9回(2022年10・11月号)から始まった「動学ゲームの推定」編の推定で生じた問題を解決し、推定したモデルを使って反実仮想シミュレーションを行い、出店戦略として今回のクライアントであるエールバーガーはどうすべきか、オプションを提示します!

今回は、前回(第11回、2023年4・5月号)うまく行きそうだった推定に問題が発生するもそれになんとか対処し、実際にエールバーガーの会議に赴いて分析結果をプレゼンテーションする構成でお話が進んでいきます。

このnoteでは、連載第12回の内容紹介と、ウェブ付録のご案内を行います。今回は、上記2つのケースに対応する分析を再現するコードを公開しています。サポートサイトでは、まずMATLABによる分析コードと、Rによる分析コードの両方を公開しています! コードの中にかなり詳細な解説を付していますので、それを読みながら実行いただけるようになっています。

第12回のサポートサイトは【こちら】です:

連載「実証ビジネス・エコノミクス」サポートサイト

なお、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。本連載のガイダンス+著者たちが意気込みを語った第1回は、本文の試し読みもできます。ぜひ覗いてみてください!

なお、連載第12回を掲載した、『経済セミナー』2023年6・7月号の特集は、「見えない価値を可視化する ESGの経済学」です。気候変動などの社会問題に投資家・企業も貢献する流れが顕著になり、さまざまな要請や規制が導入される中、私たちはどのようにESG(環境、社会、ガバナンス)に向き合うべきか、経済学、会計学、ファイナンス、コーポレートファイナンス、そして実務の視点と、幅広く解説した一冊です。
巻頭鼎談では、ESGをめぐるビジネスの中で学術的な知見が非常に活躍できることを自ら示しながら実践する、エコノミクスデザインの今井誠様、沖本竜義先生、上野雄史先生にご登場いただき、問題の所在から幅広く解説・議論いただきました!

それでは、前置きはこれくのくらいにして、以下では第12回冒頭のケースの内容をご紹介します。今回も、「最近若年層で話題のハンバーガーチェーン、エールバーガー」から、出店戦略に関する依頼に答えるべく奮闘する流れです。
前回(第11回)に推定のコードを書き終えて、コードを回してからワインバーに飲みに行き、翌朝出社してパソコンをのぞき込んで愕然とするシーンから始まります!

■ 第12回:1節より

ケース:あなたの悩み「終わらない推定」

最近若年層の間で話題のハンバーガーチェーンであるエールバーガーの依頼を受けて、都内の一等地に新規出店すべきか否かについて、動学ゲームのモデルを用いた分析に取り組んできたあなた。先輩の助言に従い、まずはモデルの性質を見極めるために数値計算を行い疑似データを生成した(第10回:2023年2・3月号)。続いて、上司のアドバイスを受けて、Bajari, Benkard and Levin (BBL, 2007) よりも比較的容易に推定が行えるPesendorfer and Schmidt-Dengler (P-SD, 2008) の推定方法を実装することができた(前回:2023年4・5月号)。この調子でBBLの実装も簡単に終えられるだろうと考え、昨日は完成したBBLのコードを走らせてから職場の近くにオープンしたワインバーに立ち寄って帰宅したのだった。

ところが、翌朝出社して自席のモニターを覗き込んでみると、目的関数の評価が全然進んでおらず、100回もできていなかった。「このままでは納期に間に合わないかもしれない!」と焦ったあなたは、まずはどこで時間がかかっているのかを見極めるため、コードの各所に実行時間を計測するコマンドを書き加えてから改めてコードを走らせてみた。すると、目的関数の評価ごとに行っている前方シミュレーションに、非常に長い時間がかかっていることがわかった。

そこで上司に助けを求めたところ、「前方シミュレーションは目的関数の評価のたびに行う必要はなく、最初に1回だけ前方シミュレーションをすればそれで済むはずですよ。BBL論文の3.3.1節("Using linearity to reducecomputation")を読んでみてください」というアドバイスをもらった。一瞬では助言の意味を理解できなかったあなただったが、コードを思い返してみると、確かに前方シミュレーションを行う(前回の第5節で示した)ステップ2-1から2-3で用いているのは推定された条件付き選択確率(Conditional Choice Probability:CCP)と乱数だけであり、パラメターの値を使っていなかったことを思い出した。そこで、再度BBL論文を読み直しつつ、高速化を目指してコードを修正してみることにした。

------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■ 第12回のウェブ付録の内容

今回は、ついにBajari, Benkard and Levin (BBL, 2007) に基づく動学ゲームの推定を行います。前回はまず、Pesendorfer and Schmidt-Dengler (P-SD, 2008) に基づいて推定を行い、それを確認したうえで、BBLの手法に基づいたコードを作成し、実行したところまで解説しました。

しかし上のケースでは、その実行がある問題のためにうまく解を求めることができませんでした。今回は、なぜそんな問題(計算に異常に時間がかかる)が起きているのか、どうすれば問題が解決できるのかを、まず丁寧に解説します。

問題の解決を確認したうえで、前方シミュレーションを使ってBBLとP-SDの手法それぞれを使ってモデルを推定して結果を比較します。そして、推定がうまくいっていることを確認したうえで、ある出店戦略の問題意識に有用なインプリケーションを提供すべく、ついに反実仮想シミュレーションを行います!

分析内容の詳細は、ぜひ本誌記事の内容と、【サポートサイト】にアップロードされたコードと、その中に付されている解説を、あわせてご覧いただければと思います。

MATLABコードの概要
Rコードの概要

■ おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第12回(最終回)の分析内容とウェブサポートのご案内しました。

今回は、上記の分析(推定、反実仮想シミュレーション)に加えて、本連載のまとめ・振り返りと、「実証ビジネス・エコノミクス/産業組織論のさらなる展開」として、本連載で触れられなかったさまざまなトピックをご紹介しています(ざっくり、以下のようなトピックを中心に紹介しています)。

プライシング
生産性
イノベーション
オークション
垂直関係

こちらも大変充実した内容であり、重要文献などが多数紹介されていますので、ぜひともご覧ください!

そのうえで、本連載の「おわりに」として、著者の皆さまに以下のようなメッセージで締めていただきましたので、ここでご紹介します。

 ここで紹介したトピック以外にも、情報の非対称性がある場合においてシグナリングゲームやスクリーニングモデルを推定し、情報の非対称性が取引の効率性に及ぼす影響を定量化する研究1)や、近年世界的に競争当局が強い関心を持つ電子商取引などのプラットフォーム事業者などに代表される、ネットワーク外部性のある多面的市場(multi-sided market)について構造モデルを推定し、ネットワーク外部性の及ぼす影響を計測する研究など、紙幅の制約がありここでは触れられなかった領域の研究も数多く行われている。
 本連載では、あくまで実証ビジネス・エコノミクス、実証産業組織論の広大な研究領域の入口部分を、その基礎となる道具立てを詳しく解説しつつ紹介してきた。せっかくここまで読み進めていただいた読者の方々には、ここで学んだ内容で立ち止まることなく、ぜひこの分野に関心を持ち、これらの道具を身に付けることで、この分野の可能性をさらに広げていってほしい。さらに、これらの道具を他の分野にも応用していくことで、新たな研究を生み出してもらうことができたら、筆者としては望外の喜びである。なお、本連載は、再構成および加筆修正したうえで書籍としてリニューアルする予定である。こちらもぜひ活用してほしい

連載第12回(67頁)より

ということで、本連載の書籍化準備も鋭意進めて参りますので、ぜひご期待ください!!


『経済セミナー』2023年6・7月号の紹介

SDGs、そしてESG(環境、社会、ガバナンス)の拡大を背景に、
多様な社会問題への対応が企業、投資家、そして消費者に求められている。
目に見えない社会的価値をどう測り、評価し、問題解決につなげていくべきか? 経済学は、そこでどう貢献できるのか?
今回は、ESGの学知とビジネスの最前線を覗いてみたい。

『経済セミナー』2023年6・7月号
特集「見えない価値を可視化する ESGの経済学」


サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。