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『特別支援教育のカリキュラム・マネジメント』刊行によせて


 特別支援学級や通級による指導の普及によって、特別支援教育の指導の担い手が急増しています。でも、カリキュラム・マネジメントや自立活動ってどうしたらよいのか……と悩んでおられる先生も多いと思います。
 自立活動の正しい理解と実践や、カリキュラム・マネジメントの導入をかねてより提言し、いろいろな学校現場の改善に協力してくるなかで、現場の悩みに精通している一木先生に、どうしたら改善できのるか、そのエッセンスをまとめてもらいました。そして、実践に役立つ課題解決シートなども用意しました。
 実はわかっているようで誤解が多い「自立活動」の意味など、目からウロコが落ちる情報が多いのではないかと思います。

 校内研修などでも使えるように、段階を追って取り組める構成にしました。本書を片手に、同僚や有志の方々が共に課題に取り組んでいただけるとありがたいです。
                         (担当編集者より)

------------------早くも、読者からこんな声をいただきました-----------------
今、特別支援学校の先生達が戸惑っていることに丁寧に寄り添った一冊だと思います。カリキュラム・マネジメント関連の書籍を何冊か読んできたなかで、「最短距離でゴールまで導く」ことをここまで考え抜かれた書籍はないと感じました。
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はじめに(本書から)

 カリキュラム・マネジメントは、2017年に改訂された学習指導要領のキーワードの一つです。各学校には、日々の授業実践に基づき教育課程を評価・改善する営みが機能しているのかを改めて見直すことが求められます。また、自校の教育課程に込めた教育的意図について、地域社会にわかりやすく発信し共有しながら(社会に開かれた教育課程)、子どもたちの成長を支えていくことが期待されています。
 ところが、特別支援学校の教育については、同業者である学校教育関係者から「よくわからない」との声が聞かれます。特別支援学級についても同様です。例えば、「学校案内に掲載された作業学習って何? 教科学習はないの?」「自立活動は、将来の自立した生活に必要な指導?」といった具合です。
 もしかすると、特別支援学校の教師の中にも同様の「わかりにくさ」を抱いている方がおられるのではないでしょうか。

 特殊教育の時代から現在の特別支援教育に至るまで、特別支援学校では、一人ひとりの子どもの実態に応じた教育実践が重ねられてきました。その丁寧な実践の意図や成果について小・中学校等や地域社会にわかりやすく伝える言葉を持ち得ないことは、我が国の特別支援教育の推進において大きな課題です。
 この背景には、特別支援学校(特殊教育諸学校)が自校の教育実践について語る際に、学校教育に関する言葉を共通の概念ではなく、独自の解釈で用いてきたことが一因としてあると考えます。
 また、保護者の方は、「この学校に入学したら、この子は卒業までにどこまで成長できるでしょうか?」と相談されるかもしれません。みなさんは、どのように説明されますか。
 個別の指導計画に基づき、一人ひとりの子どもの実態に応じた指導を重ねてきた特別支援学校でも、在籍する子どもたちの学習状況を十分に総括できていなければ、教育実績に基づく回答に窮してしまうでしょう。
 さらに、自立活動の指導については,自らが設定した指導目標自体に不安を抱く方も少なくないのではないでしょうか。自立活動は特別支援教育の要です。特別支援学校は小・中学校等の支援を担いますが、校内の教師を含め、自立活動の指導を担う教師の成長を支える仕組み作りが課題となっています。

 そこで本書では、カリキュラム・マネジメントに関わる基本的な用語を解説したうえで、特別支援教育のカリキュラム・マネジメントに不可欠な「個別の指導計画と教育課程が連動するシステムの構築」と「自立活動の指導を担う教師の成長を支える研修体制の整備」を柱に、自校の課題を整理し、解決に向けて踏み出す道筋を提示しました。
 本書は、Hop-Step-Jumpで構成されています。
 Hopでは、特別支援教育のカリキュラム・マネジメントに必要な視点を示します。
 Step 1 からStep 4 では、カリキュラム・マネジメントに関わる基本的用語やあらかじめ理解しておくべき内容について説明します。
 Step 5 からStep 9 では、自校のカリキュラム・マネジメントの現状分析を行い、課題改善の糸口を探ります。
 Step 10 では、自立活動の指導を担う個々の教師の研修ニーズを把握し、成長を支える研修体制の工夫について考えます。
 Jump では、特別支援学校におけるカリキュラム・マネジメントの実践例を紹介します。
 いずれの段階からスタートするかは、自校の現状でご判断ください。

 本書が、一人ひとりの実態に応じた教育実践の基盤となるカリキュラム・マネジメントの実現と、社会に開かれた教育課程としての発信の契機になれば幸いです。

  2021年6月 一木 薫

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本書の見本

見本1

見本2

見本3

見本4

見本5


目次(目次詳細はこちらからご覧ください。)
はじめに
HOP 特別支援教育のカリキュラム・マネジメントに必要な視点
Step 1 基本的な用語をしっかりおさえよう
Step 2 教育課程編成の基準の理解を深めよう
Step 3 各教科の指導と自立活動の指導
Step 4 個の学びと学校としての教育課程の接続を理解しよう
Step 5 自校の「教育課程」を見直してみよう
Step 6 自校のカリキュラム・マネジメントは機能している?(その1)
     ――学校教育目標から教育課程の編成、そして授業へ
Step 7 「実施したカリキュラム」と「達成したカリキュラム」を確認しよう
Step 8 自校のカリキュラム・マネジメントは機能している?(その2)
Step 9 「つながり」を「見える化」しよう
     ――カリキュラム・マネジメントの年間の流れ
Step 10 自立活動の指導を担う教師の成長のために何が必要か
JUMP 各校の取り組みを参考に、新たなジャンプを!
Column 
 1 自立活動の内容の「6区分27項目」とは
 2 個別の指導計画の適切な書式とは
 3 地域の自立活動の指導力を高めるには
文献
■各シートの使用について
著者紹介
一木 薫(いちき・かおる)
福岡教育大学特別支援教育ユニット教授。博士(障害科学)。
専門は特別支援教育(特に肢体不自由教育)。
筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻博士課程単位取得満期退学。筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭を経て、2008年福岡教育大学へ、2017年より現職。
主著『重度・重複障害教育におけるカリキュラム評価』(慶應義塾大学出版会、2020年)、『障害の重い子どもの目標設定ガイド 第2版』(共著、慶應義塾大学出版会、2021年)、『特別支援教育の到達点と可能性』(共著、金剛出版、2017年)、『自立活動の理念と実践』(共編著、ジアース教育新社、2016年)など。

↓本書の詳細はこちらから。

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