Clubhouseに飛びつけない私の生存戦略〜最先端が苦手じゃダメですか?〜
Clubhouseなる音声SNSが流行っている。
「はじめました!」「招待してほしい!」「使ってみたらこうだった!」などなど、この1週間で軽く100回はSNSに投稿されているのを見かけた。
「一斉に騒ぎ出したけどなんなの?」とモヤモヤした人も多い気がするので、Clubhouseをやっていない側の私がこのブームをどう眺めているか、ちょっと書いてみる。
Clubhouseが騒がれる理由は?
これだけ一気にバズったのは、まず「招待枠は2人だけ」という希少性だろう。最先端に乗り遅れたくない心理をうまくついて、有名な人、感度の高い人から使い始めて「使わないと時代遅れ?」「自分も“あっち側”に行きたい」という気持ちをかきたてる戦略。
序盤から使っている人の顔ぶれを見ていると、
・著名人、経営者、フリーランス、ベンチャー起業の社員など自分の名前で情報発信するメリットがある人
・広報やメディア関係者など情報発信を生業とする人
・そういう友人が多い人
が、かなりの割合を占めていたように思う。
自分の名前で仕事をするならフォロワーを増やしたほうがいいし、新しいSNSで先行者利益を狙うのは合理性がある。情報発信にまつわる仕事をするなら、最近のコミュニケーションツールは知っておいた方がいい。
要は仕事にプラスになる人たちと、その周辺の人が使い始めたのが実情だと思う。
一方、「このメディアが自分の仕事にこう有利になりそう」「短期的なメリットはなくても無形資産につながりそう」というイメージが特に湧かなかった人は、急いでやる必要もないと考えている。
が、私がはじめなかったのは上記の職種に当てはまらないから、ではない。
普段どんな仕事をしているかというと、まず本業は出版社で編集者をしている。また、「パラレルキャリア研究所」という団体を立ち上げ、副業フリーランスとして講演・執筆など知見や意見を伝える仕事をしている。
てゆーか情報発信以外の仕事をしたことがない。
ならClubhouseにすぐ飛びつけよ自分…!
と我ながら思うが、私は昔からこういう「最先端」というやつが非常に苦手だ。
次から次に現れる最先端を試し、その価値について人と意見を交換し、取捨選択するのは、私にとってはかなり疲れる作業なのだ。
それには深い事情がある訳ではなく、とにもかくにも面倒くさい。流行に抗いたいとか、そんな気もなくて、ただただ面倒で放置しているといつも流行から取り残されている。
なんで私は流行が苦手なんだろう?
最先端を試さないのに深い事情はないが、私の流行に飛びつけない精神性を培った要因に心当たりはある。
父だ。
父は流行に対して微動だにしない人だった。
一過性の流行にお金や時間を浪費するのを嫌い、今持っているものを大事にする。新しい服は滅多に買わない。なんと、冬になると10代後半のときに買ったコートを手入れして未だに着ている。40年ものである。
最新の家電なんてものに一切の興味はなく、あるものは壊れるまで使う。実家はオール電化なのに父の部屋だけエアコンをつけなかった。夏は汗をかき、冬は厚着を着てしのぐのが、父の哲学なのだ。
車も乗らず、携帯を持つのも人より10年遅れで、土日は家庭菜園に精を出し、時々望遠鏡で星を眺めたりして、都会の真ん中で文明に争うかのように暮らす父を見ると、「この人はアーミッシュを目指してるの?」と不思議に思ったりする。
なんでもかんでも倹約という訳でもなく、教育や旅行にはお金をかけてくれたが、父にとって「流行」は最も課金するに値しないものだったので、無料のテレビはOKだけど流行りの映画は行きたくないな、という感じだった。
金曜ロードショーまで待てばいいと言われて映画館にもほぼ行かなかったし、流行りの歌のCDもあまり買う家ではなかった。SPEEDの歌は同級生が歌ってるのを聞いて覚えた。
代わりに、音楽は父が好きなオールディーズ(1950-60年代の洋楽)が家でずっと流れていて、当時のヒットソングは聴けば大体わかる。その代わり、私にとってホットな音楽シーンは1969年で終わっている。
こう書くと、父が意図して現世的な情報を遮断してきたように思われるかもしれないが、父から流行のものを見るなと止められた経験もない。
私も私で大して流行に惹かれるタイプではなく、自然に心惹かれるのは古いものや普遍的なものだった。
10代のときに好きだったのは、坂口安吾、名画座、炭鉱、ドリフ、沢田研二、平山郁夫のシルクロードの絵。いずれも親は特に好きでなく、私が勝手に一人でハマった。(なおギリ平成生まれです)
そんなセピア色の人生だったので、流行に取り残されるのに全く抵抗がない。
無理して最先端of最先端に飛び付かなくても、すぐに足元が揺らぐ訳でないことは経験で知っている。私は私のペースで暮らしていけばいいんだ。
と思ってはいても、今回のClubhouseのように、世の中のオピニオンリーダーと呼ばれる人が一斉に騒ぎ出し、「感度のいい人はみんなやってるよね」「誰がアーリーアダプターかが可視化されたね」「乗るしかない、このビッグウェーブに」みたいな空気が押し寄せると、ちょびっと胸がざわついたりもする。
昔から、こういうのに飛びつくの苦手なんだよなぁ…。
コミュニケーションツールの栄枯盛衰は激しいから、マストになるか様子見してよ…。
って思ってたけど、いきなりなんなのこのマストな空気…。
お世話になってる人に招待されたら困るな…なんて断ろう…。
と不安に襲われ、みんなが配信したよーとかどの芸能人のを聴いたよーとか投稿してるSNSを閉じて、心を落ち着かせるためひとりで大分麦焼酎二階堂のCM集を観ていた。
なお、必死で断る理由を考えたものの、誰からも招待は来なかったw
流行が苦手な私なりの生存戦略
携帯が普及し始めたとき、スマホが流行りだしたとき、私は人より遅めに取り入れた。Clubhouseでも改めて「流行に乗れない」自分が浮き彫りになった。
「私、このままでいいの?」
「こういうスタンスだと淘汰される?」
という不安も少々あるものの、Clubhouseより二階堂が好きな自分もすぐに変えられるものでもないし、私には私のいい所があるはずなので無理に変えなくてもいいと思っている。
という訳で、“流行苦手”なりに私がどんな生存戦略をとっているか、とっていきたいか、整理してみた。
●トレンドより「好き」にこだわる
私のいまのライフワークは、「パラレルキャリア」だ。このテーマで、講演、イベント開催、執筆などを続けている。
主催者や編集部が用意してくださるリード文にはよく「トレンドであるパラレルキャリアを推進する慶野さんに…」「この数年で一気に注目度が高まった副業について…」といった、世の中の流行であるみたいな文言が加えられていることが多い。
活動が注目されるのは嬉しいが、思えば私はトレンドだからパラレルキャリアをはじめた訳ではなかった。
パラレルキャリアという言葉が浸透していなかった10年ほど前から、「複数の軸足を持つのはたぶんいいことだ」「こういうライフスタイルが好きだ」と思って、地道に活動してきた。
この数年でパラレルキャリアがトレンド化したので急に取材が増えたけれど、誰からも褒められなくても称賛されなくても、私は自分にとって必要と思える限りパラレルキャリアを続けたと思う。
たぶん私にとって、「トレンドだから」「最先端だから」「取り残されたくないから」という理由は行動のモチベーションにならない。
誰にも理解されなくても、「心底好きなもの」「内在的な価値を感じるもの」を、愚直に続ける。そういうやり方の方が合っている。
●普遍的でポータブルなスキル
最先端を取り入れることが有利に働く場面もたくさんあると思うが、そこで勝負していても「面倒だなあ」という気持ちが先だって、おそらく活動量も増やせずライバルに勝てないと思う。
最先端をすぐに取り入れる生存戦略が向く人もいるが、私はそうではなさそうだ。
その代わり、時代に左右されない普遍的でポータブルなスキルは、ゆっくり伸ばそうと思ってきた。
私にとっては、「読む・書く・聞く・話す」だ。
いやいや、スキルっていうか人間の基本動作やないかい!という気もするが、特にアウトプットの書くと話すはしっかり修練を積まないと伸びないものだと思う。かつ、書くも話すもどちらも得意、という人は意外に少ないので、どちらもできるとおそらく強みになる。
書くスキルは編集の仕事で、話すスキルは講演で、伸ばしていけたらいいなと思う。
それに取り組んでいる実感があるので、最先端が私の横を通り過ぎて行っても、どっしり構えていられるのはある。Clubhouse祭りで焦った人は、自分のポータブルスキルを振り返るとちょっと気持ち落ち着くかも。
●感度の高い友人に囲まれる
流行の末路は二つある。廃れるか、普遍的なスタイルとして残るか、だ。
私は流行に乗るのは苦手だけど、最初は流行だったものが一般的なスタイルとして定着するようだったら、積極的に取り入れることにしている。
淘汰される側にいつまでもいたら生き残れない。
だから、私は流行に敏感な人の投稿をなるべく見るようにしている。それがどんなものなのか、誰がどれくらい使っているのか、そして今後定着しそうなのか、読んでみて「こりゃ取り入れなきゃだめだな」と思ったらはじめる。
Clubhouseに自分が招待されないと、取り残された疎外感を感じがちだけど、酸っぱい葡萄理論でネガティブに捉えるのは損だとも思う。
流行を遠ざけすぎると、新しく定着するスタイルからも取り残される。
最先端をちゃんと試すみんなが、Clubhouseについて質の高い発信してくれるおかげで、私の心は悠久のシルクロードから現代に戻ってこられている。感謝。
あと流行がスタイルとして定着しそうなときは、詳しそうな人に「これ、今時やんなきゃダメかなあ?」とか相談したりもする。しかも、ツール好き・ガジェット好きな人って、なんか世話好きで解説がうまい人が多い気がする。教えてくれて感謝。
ごく一部「“俺たちイケてる界隈”ではやって当然だよね。あれー?まだ招待されてない人とかいるの?w」的なマウント投稿もあるけど、そういうのは無視!マウンティングをスルーするスキルは、マイペースに暮らしたい人の基本技術だから覚えとこう。
ちなみに、流行には微動だにしない父だが、長年の趣味は英字新聞を読むことと、去年からはまっているのがWordpressでホームページをつくることだ。流行には飛びつかないが、彼は「今後も永続的に使えそうなポータブルスキル」を見極めて地道に覚えるのは得意なのだ。ちょっと前までスマホも持ってなかったのに、ちゃっかりグローバリゼーションとIT社会に適応している。
私はたぶん今後も「流行」には遅れ続けるけど、「新しいスタイル」はちゃんと取り入れて、現役バリバリの60代を目指したい。
Clubhouse祭りに参加できなかった私だけど、これらの戦略で生き残っていこうと思う。
なお、こんなこと長々と書いてると意地でもやらない人みたいだけど、Clubhouseを使った講演依頼があったら2秒でインストールするので、お仕事のご依頼は歓迎です(笑)
おまけ
最後に、Clubhouseを率先してレビューしてくれたみんなに、私の一番お気に入りの二階堂のCMを紹介したい。
2001年、風の海峡。これがホント好き。この真っ赤な若戸大橋を見るために、福岡の外れまで行ったからね。ここに出てくる船も乗ったよ!
すぐに役立つ知識じゃなくてごめんね、でもすごい素敵だから!心が潤うから観てほしい!
これからも、感度の高いみんなは最先端担当、私は二階堂担当で、棲み分けつつ仲良くしてもらえたら嬉しいです。
二階堂のロケ地、炭鉱でありがちな事故、シルクロードのオアシスの話とかでよれけば、丁寧に解説しますので♪
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パラレルキャリア研究所代表 慶野英里名
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