見出し画像

Vol 11. 黒いエレガンス les sapeurs de kinshasa

  アフリカ大陸のど真ん中に広大で濃厚な密林が広がる。その中を、巨大な蛇がうねるように幅10キロメートルに及ぶコンゴ河が流れる。 そして、そのコンゴ川の下流に忽然と浮かび上がる熱気と混沌の街。それが人口約1000万人の大都会、大密林王国?の都、キンシャサだ。                この河を境に北がコンゴ共和国、首都ブラザビル。南がコンゴ民主共和国、首都、キンシャサと二つの国に分けられる。この両都市で”SAPE”という一大ファッションムーブメントが誕生した。サップ、”Sape"とは、“Societe des Ambianceurs est Perssones Elegant"の略で、雰囲気とエレガンスを愛する人々というような意味である。 ジャン ポール ゴルチエ、ヴェルサーチ、ヨージ ヤマモト、イッセイ ミヤケなどの高級ブランドを身にまとい、靴、時計、帽子、アクセサリーなどにいたるまで細かく気を配り、シックにお洒落をきめる。それだけならだたのブランド志向になってしまうのだが、そこはアフリカ人、彼らの天性の自由なインスピレーションや色彩感覚で、ヨーロッパの洗練されたエレガンスを、アフリカの真っ黒な野生美と人生を大胆に生きる心意気で着るのだ。                

 最近、日本でもメディアにも取り上げられようになり、やっと”SAPE"も知名度が上がってきたようだが、それはコンゴ共和国の首都・ブラザヴィルの住人達だった。しかし、キンシャサにもファッションにすべてをかける男たちがいる。 色彩鮮やかなスーツを着こなすブラザヴィルのサップとは異なり、キンシャサの彼らは、より自由で個性を光らせ、ちょっと反骨精神でパンクっぽいところもある。白と黒のような両極(いろんな意味で)を、お洒落にミックスチャーする。キンシャサのサッペール達は日本のブランドが特に好きで中でも、Yoji Yamamotoは絶大なる人気である。これは、PAPA WEMBAがこよなく、Yojiのブランドを愛していたと言う影響が大きい。

 サッペール(サップする人々)たるものは、自分に最高のものを身に装い、いつも胸を張って堂々として余裕を持ち、エレガントに振るまわなくてはならない。やる時はやる。やる以上は惜しみなく自分のすべてを賭ける。 そういった心意気、生きる姿勢でもあるのだ。          

 "黒いエレガンス"  とは、ただ単に肌の黒い人がエレガンスに身をまとうというだけの意味ではない。この歪んだ現代世界の闇の中から、自分を今に輝かせる。これこそが"黒いエレガンス”なのだ。 

 サップのキングと言われる”Papa wemba”のコンサートは、キンシャサでもパリでもアメリカでもどこでも、黒いサッペール達で会場は埋め尽くされる。もちろん 我々ミュージシャンは必須だ。 コンサート直前のリハーサルでのミーティングではPapaから”明日のコンサートには”Bien coffuer,bien perfume,,,   服装はかっこよく、いい靴を履いて、ヘアーは綺麗にカット、香水をかけて、ビシッとサップをきめてくるように”と言われる。   

パリに住むミュージシャン20数名は、正直、貧しく大変な暮らしをしていて、普通に考えたら、何十万円もする高級ブランド服なんて買える訳がない。しかし、サップで来なければステージには上がれないのだ。服を借りるなり、女に買ってもらうなり、パトロン見つけるなり、あの手、この手を考え、とにかく当日、サップをしてくる以外ないのである。                  

 そして、当日。ステージに、カッコよくサップをきめたミュージシャン全員が登場した!            金がないとか、余裕がないとか、奥さんに怒られるとか、なんだかんだとか、言い訳は一切関係ない。そう!実行あるのみ!

 

”言い訳は前に進むのに邪魔になる!” 



 どんな困難の中にあっても 希望を捨てず、自分の力で自分自身を輝かせ、ひたすら前向きに生き抜いて行く。その姿が美しいのだ。サップは自分自身に誇りと自信を持たせるためのポジティブな選択の一つだ。        状況を悲しみ、過去を嘆き、未来に怯えて生きるより、限りある人生という時の中で、大切なのは目の前にあるこの瞬間を最高に生きることだ。 これがサップのスピリットだ。 それがサップの美学だ。              この歪んだ不条理の現代世界の闇の中から、光を放つ! これこそが、”黒いエレガンス”だ。           


”俺たちが本気でやったら最高にカッコいいだろ?”                          新しい時代を創る担い手たちは、このアフリカンスピリッツを胸に今日も過酷なこの街でサバイブしてる。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?