「タニタの働き方革命」を読んで考えた。正社員→個人事業主になったときの給与面・働き方の違い

こんにちは、藏屋景子です。

タニタ食堂や体重計などで有名な株式会社タニタ。
そこでは斬新な働き方革命が!

手取り金額の向上と自由度を高めるために、今まで正社員として雇っていた人たちを個人事業主として業務委託契約を結ぶという施策。
その経過や制度についてまとめた一冊が「タニタの働き方革命」だ。
ものすごくおもしろかった。

要点をかいつまんで言うと、
・希望する社員は個人事業主となり業務委託契約を結ぶ。
・今年が3期目ですでに数十人が制度を利用。
・ほとんどが手取り額の3割近く増加

この制度を「日本活性化プロジェクト」と名付け、人生100年時代を生き抜くための戦略になるのではと、他の企業にも利用促進するためにも書籍としたのだ。

制度の概要

元々は優秀な人材をタニタで働き続けてもらうための計画だ。
個人事業主はビジネスに必要な経費を経費として計上することができる。
これを活かせば、手取り額を増やすことができるのではという発想からだ。
まさに「フリーランスと会社員の『いいとこどり』をする」という考え方。

個人事業主では、継続した仕事の受注が難しい。
タニタと業務委託をすることで、このデメリットは解消される。
正社員と個人事業主の間くらいに位置するイメージかな。

これは、現在正社員で働いてるが、将来、独立してフリーランスを考えている人にも参考になるのではないだろうか。

この制度もすべてがうまく機能しているわけではない。
だが、「まずはやってみて、やりながら変えていけばいい」という社長の考えからスタートさせたのだ。

では、正社員から個人事業主となることで、給与面や働き方がどう変わるのかをひとつずつ整理してみたい。


手取り額が増える理由

これは所得税の算出方法に起因する。
個人事業主・自営業の場合をまず考えてみよう。
収入から経費を引いた額が、所得となる。
八百屋さんなら、水道代・肥料代・機械のメンテ費用など経費をすべて控除する(引く)ことができる。
仮に収入が年400万円で、経費が100万円なら差し引き300万円が所得となる。
「所得=収入ー経費」ってことね。


収入税って言わずに、所得税って言うでしょ。

だから、税金は所得に対してかかってくるのよね。
この場合300万円に対して所得税がかかる(実際はここから所得控除が引かれるが分かりやすくするため割愛)。

だからもし経費が200万円かかっていたら、差し引き200万円が所得となる。
この場合200万円に対して所得税がかかる。

つまり、経費が多くて所得が少ないほうが、所得税が少なくなるのだ。



では、正社員の場合を考えてみたい。
基本、考え方は同じだ。
じゃあ、質問。
正社員の経費ってどうやって計算する??

八百屋さんなら経費は分かりやすいけど、雇われの会社員であれば何をもって経費とするの?ボールペン?ノート?

はっきり言って分からないよね。
だから、経費を収入によって計算式で決めちゃおうってなったのよ。
ちなみに正社員の場合の経費を「給与所得控除」と言う。
だから「所得=収入ー給与所得控除」ってなるんだ。

<給与所得控除額の計算式>
収入金額 → 給与所得控除額
180万円以下 → 収入金額×40%(最低65万円)
180万円超~360万円以下 → 収入金額×30%+18万円
360万円超~660万円以下 → 収入金額×20%+54万円
660万円越~1000万円以下 → 収入金額×10%+120万円
1000万円超 →220万円(上限)

では、正社員から個人事業主になって手取り額が増えるからくりは?

ずばりポイントは経費と給与所得控除

収入が同じであった場合、
所得が少ないほうが所得税は少なくなる。
=経費が多い方が所得税は少なくなる。

給与所得控除額よりも、経費が多ければ所得税が少なくなるのだ。
具体的に考えてみよう。
収入が400万円の場合。
給与所得控除額は、400万円×20%+54万円=134万円。
134万円よりも経費を多くすれば、所得税が少なくなる。
つまり、手取り額が増えるのだ。


個人事業主の場合、自宅で仕事をすれば電気代・家賃の一部も経費にすることができる。仕事をするうえで必要な書籍類も。
もし喫茶店で仕事をすれば、そのお茶代も経費にできる。
仕事上の付き合いのある人との飲み会も、交際費として経費となる。

意外と経費って幅が広いよね。

その分ちゃんと領収証をとっておいて、確定申告をする煩雑さはあるけども、相応のメリットは享受できる。



正社員の保証の手厚さをどうカバーするのか

正社員から個人事業主になるってことは、同時に正社員の保証の手厚さを手放すことになる。
さらにこれは自分だけでなく、家族にまで影響を与える。

具体的には年金休業時の保証だ。


年金:厚生年金から国民年金へ

会社員であれば、給料天引きされていた厚生年金が国民年金へ変更となる。
第2号被保険者から第1号被保険者へ変更となるからだ。

厚生年金は2階建て。
国民年金は1階建て。
と言われるように、厚生年金は手厚い。
2階建ての上乗せ分がなくなってしまうのは痛い

もちろん、今まで払ってきた分はちゃんと生かすことはできる。
しかし今後2階建て分が増えることはない。

そして、万が一のことが起きた場合。
家族に支払われる遺族年金の額まで変わってくる。

今まで天引きであった厚生年金が国民年金になり、自分で払うこととなるのだ。平成31年度の国民年金保険料は16,410円。
厚生年金支払額よりは減るだろうが、保証も減るのだ。


休業時の保証:有給休暇、傷病手当金、失業保険がない。

会社員でなくなるので、有給休暇制度もなくなる
そして、健康保険から国民健康保険へ変更となるので、健康保険で受けられた傷病手当金が受けられなくなる

傷病手当金については詳しくはこちらで記載している。

傷病手当金とは
同じ病気やケガで被保険者が働けず、連続して3日以上休業し、給料が支給されない場合に標準報酬日額の3分の2が休業4日目から給付される。支給期間は最長で支給開始日から1年6ヶ月。

要するに、会社員だけにかけてある医療保険のようなものだ。
病気やケガで長期に出勤できなくても、ある程度の金額を保証しますよってこと。

これがなくなるのは病気やケガの時に心もとない。

そして、失業保険もない
失業保険は雇用保険から払い出される。
正社員ではないので、会社とは雇用関係にない。
もちろん、雇用保険も払わない。つまり失業保険もないのだ。

こう考えると、個人事業主では、なんらかの理由で働けなくなった時の保証がほとんどないのだ。

単純に手取りが増えるからと言って、おいそれと起業できないのはこの保証の手厚さが大きいのではないだろうか。

そこで考えられた、タニタの対策がスゴイのだ。


保証を確保するための、タニタの対策!

まず、正社員の場合、会社は個人を雇うためにいくら支払っているのかご存じだろうか。

個人の収入を100とした場合。
実際に会社が払うのは115くらいになる。
個人に払う収入よりも多く会社は支払っているのだ。

これは社会保険料の労使折半による。

社会保険料とは各種の年金,健康保険,雇用保険などから構成されている。
これを会社と社員の間で、それぞれ支払うべき金額を折半して、会社にも負担させるしくみが労使折半だ。


簡単に言えば、社会保険料の会社員の負担を、半分以上会社が肩代わりしているのね。

健康保険は約5%ずつ折半していて、厚生年金は約9%ずつ折半している。
合計すると会社は15%ほど、個人のために払っていることになる。

そして、ここからがタニタのすごいところ。


この15%負担している分を、個人に支払うようにしたのだ。
そして、減った保証分は、民間の保険で各自で上乗せできるようにしたのだ。

十分な補償ができるような民間の保険をつけるために、アドバイザーも設置した。確定申告のために税理士も利用できるようにした。

ほんとうに、会社が個人のことを考えているのだなと感心した。


ファイナンシャルプランナーとしての私の意見と感想

人生100年時代を生き抜くための、企業側から提供できる政策のモデルケースになるのではないだろうか。

しかしながら、やはり注意したい点もいくつか存在する。
まず、

①これから子供を持ちたい女性には不向き

会社員であるからこそ、出産手当金や育児休業給付金が支給されるからだ。
しかも産休育休中は社会保険料が免除される。
この手当金と社会保険料免除のメリットはかなり大きい。
あるかないかで、100万円単位で額が変わる。

だが、育休後に仕事復帰した人にはアリだ。
復帰後は、子供の病気で予想外に休みが増える。
個人事業主であれば、自宅で対応したり早く迎えに行くために時間調整もしやすいだろう。


自分の経験としても、育休復帰後の今、時短勤務でそもそも勤務時間も短い。しかし、保育園からは熱が出たとしょっちゅう言われ(泣)。
早退遅刻もけっこうもらっている。
周りに対して申し訳ない気持ちが募ってくる。
そのへんを上手に気持ちの面でもクリアできそうだ。


自分に武器がないと難しい
会社名ではなく、自分の個人名で仕事がもらえないと個人事業主になるメリットが減る。個人で講演を受けたり、イラストを受けたりする例も実際にあるようだ。
ジェネラリストではなくスペシャリスト向きだ。


③追加業務と通常業務の線引きが難しい。
タニタでは通常業務と追加業務を分けて、追加業務には相当した給与が発生する仕組みだ。

どこからが追加業務なのか。そしていくらが妥当なのか。
仕事を振る方、受ける方どちらからそれを確認するのか。
このあたりが実際に経験者でも問題となっているようだ。

正社員と個人事業主が会社に混在することで、煩わしい一面もあるだろう。
これは今後の課題だろうな。

社長の言う「まずはやってみて、やりながら変えていけばいい」という考え方には賛成だ。やらないと課題も見えてこない。
そして洗練させていけばよりよい制度に変わっていくだろう。

台風中の盆休みで一気読みしてしまった(笑)。
みなさまにもおススメ。
特に独立を考えている人に。


ではでは。



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