見出し画像

1ヶ月のデザインプロジェクト|アクティブジャーニーを普及させるには?

こんにちは。イギリス(スコットランド)にある大学、The Glasgow School of Artでサービスデザインを勉強している大倉です。

先学期に1ヶ月のプロジェクトで、アクティブジャーニーや公共交通機関の利用を普及させる という課題について取り組みました。 ※アクティブジャーニー:車ではなく、徒歩や自転車での移動をすること

今回はそのレポートを書きたいと思います。デザインリサーチや、サービスデザインについて興味がある方や、イギリスへのデザイン留学に興味がある方のお役に立てば幸いです。

問い

環境汚染の要因である車の利用を減らし、健康やメンタルヘルスへのメリットもあるアクティブジャーニー、公共交通機関の利用をグラスゴーの人々に促進するにはどうしたら良いのか?

いくら徒歩や自転車の利用が健康にも環境にも良いとわかっていても、人々は楽な手段に流れてしまいがちです。一方で日々自転車利用を積極的に行なっている人もいます。その違いは何なのでしょうか?

今回は5人グループで行うプロジェクトかつ、1ヶ月のプロジェクトであるということも考慮し、エリアをグラスゴーに限定してリサーチをおこにました。

リサーチ・分析フェーズ

デスクリサーチや、公園でのゲリラインタビュー、Instagramでのインタビュアー募集などを通して現地に住む幅広い人々の話を聞きました。その中で以下のようなことがわかってきました。

一般的にアクティブジャーニーが普及しにくい理由

- 国によっては車がないと生活できない(アメリカなど)

- 公共交通機関は分かりにくく不便であったり、アクセスが悪いなどの理由から、使われにくい

- 車生活に慣れている人にとっては、アクティブジャーニーを取り入れるメリットが見えにくい。

グラスゴー内での問題(インサイト)

バスのシステムが分かりにくく、信用できない

時間通りに来ない、駅名と地図上の名前が違う、アナウンスがされないため、自分がどこにいるのか常に把握しないといけない、複数のバス会社がありそれぞれ異なるチケットを買わないといけない、高いなどの理由から、20年以上グラスゴーに住んでいる人でもバスを極力避けると話していました。

不親切なナビゲーション

ナビゲーションがわかりにくく、初めて公共交通機関を利用する人にとっては新しいことを試しにくい状況です。例えば、バスのシステムだけでなく、電車への自転車の乗せ方、シェアサイクルの使い方など、公共交通機関を利用するには、事前にシステムを知っていることが求められます。

公共交通機関同士のコネクションが良くない

自転車置き場が駅から離れた場所にある、地下鉄が山手線のように円形になっているため、中心街に行くとき以外はあまり利用できないなど。学生などはあることに慣れているものの、不便さを感じているようでした。

シェアサイクルの利便性が低い

シェアサイクルの駅はあまり多くない、自転車の台数がわからない、自転車が壊れているなど。実際これらのせいで会社に遅刻してしまったというストーリーを話す人もいました。

安全面への不安

自転車通勤をしたくても、サイクルレーンが整っていないなどの理由から安全性への不安がある、自転車が盗まれる話を良く聞く、夜道は怖いのでタクシーかUberで帰るしかないなど。安全面については年代や性別などを問わず懸念している人が多くいました。

コペンハーゲンの事例

続いては、アクティブジャーニーの成功事例を調査しました。自転車で有名な都市のひとつがコペンハーゲンです。コペンハーゲンはなぜ、多くの市民が自転車を利用しているのでしょうか?デスクリサーチの結果、以下のような理由が見えてきました。

- 自転車を最優先にするためのインフラが整っている。 - それが一番早くて便利な通勤方法である。 - 速度制限ごとに安全面を考慮した自転車用のレーンが整備されている。

リサーチ全体から見えてきたこと

コペンハーゲンの事例では、意外にも環境への影響や健康のため、という理由は1番には上がってきませんでした。それらは第一優先である、安全・利便性などが整った上で上がってくる理由であることが見えてきました。

本格的に車社会から自転車にシフトさせるには、コペンハーゲンが実施したような国の手厚い補助が必要かもしれません。でも、そのような方法ってすぐにできることではないですよね。

また、日々自転車を利用している人は、安全性が確保できる場所のみで利用、違う都市で自転車利用をしているため勝手がわかっている、健康やメンタル面へのメリットを実感しているということも見えてきました。ただ、移動手段の選択理由は人によって様々でした。

それでは、私たちのできる範囲で、人々に自転車や公共交通機関での移動をはどうしたら良いのでしょうか? 私たちのグループはこの2つの要素を解決策を通して届けることが大切だと考えました。

1. アクティブジャーニーを試したいけど手を出せていない、という人のためにトライするきっかけを作ること
2. 一度きりで終わらせない仕組みを作る。例えば、安全・利便性を高める方法を体験の中で伝えることや、日常にアクティブジャーニーを取り入れるきっかけを作ること

ソリューション

「アクティブジャーニーのコミュニティーを作る」

コミュニティー設立を解決策として考えました。私たちのグループはコミュニティーを通して行う取り組みを複数考案したので、それらを紹介します。

1. Meetupで街中を徒歩や自転車で廻るツアーを実施

グラスゴー内にある壁画を回るツアー、美術館を回るツアー、パブや地元のカフェを回るツアー、地元の人が知ってる隠れスポットを回るツアーなどのイベントを開催します。グループで街を探索する中で、安全に自転車に乗る際に気をつけること、自転車を電車に乗せる方法、シェアサイクルの利用方法など、人々が不安に思っている事項について教えながら、楽しく一緒に体験していくことで、日々の生活の中でアクティブジャーニーを取り入れやすくしていくことを考えました。

2. 特定のスポットに、徒歩、自転車、電車などで行き、クイズに答えることで景品がもらえる

複数の場所に徒歩や自転車で行く楽しみを見出すことを考えました。クイズも、その場に行かないとわからないような内容にし、景品も、アクティブジャーニーに関わる景品やコミュニティのロゴが入った景品などにすることを考えました。この取り組みは個人、グループやMeetupでも参加できます。

3. アクティブジャーニーガイドブックの作成

一人もしくは友人とトライしたい、時間的にミートアップでの参加が難しい、という人のために、安全、知っておくと良いことなどが記載されたガイドブックを作成することを考えました。

4. コミュニティーに参加することで、地元のビジネスをサポート

コミュニティーのグッズ購入を通して、地元のビジネスにチャリティーとして貢献できることを考案しました。また、地元の店舗の利用でポイントが貯まるスタンプカードも併せて考えました。自分がアクティブジャーニーを取り入れることで、地元にも貢献できる。そのことがアクティブジャーニーを続ける良い動機付けの一つにもなると考えました。

5. アクティブジャーニーを通して、地元のビジネスをサポート

アクティブジャーニーをアプリでトラッキングすることでポイントを得ることができ、そのポイントは地元の店舗での割引やグッズ購入に利用できます。このソリューションは、スマホアプリが使えて、かつトラッキングを許可している人限定となります。

個人的な学び

このプロジェクトは1ヶ月のプロジェクトだったのですが、長いようで短いプロジェクトでした。その中でも様々な学びがありました。

- 拡散と収縮フェーズの見極めの難しさ

アイディエーションや初期のリサーチ段階ではどんどん情報を拡散していくべきですが、解決策の決定や分析、テストのフェーズでは、収束させていくことが必要です。そのタイミングを見極め、適切なタイミングで発散と収束をさせていくことが必要だと学びました。

- 大量の情報を整理することの難しさ

リサーチを通して大量の情報を得ることができたのですが、それをどう分析し整理していくのか、そしてどう共通認識をチーム内で得るのか。そこに苦労しました。アイディエーションを実施する前に、しっかりと分析をし、解決策への制約を設けた上で、必要な要素についての優先順位をつけ、全員がその内容を理解することが必要だと学びました。

- 倫理的な問題やインクルーシブネスについて考慮すること

私たちのグループは、アクティブジャーニーを取り入れることで地元のビジネスに貢献できる一石二鳥な仕組みを作り、参加者のモチベーションを高める方法を模索していました。しかし、何を持ってアクティブジャーニーを取り入れたと判断するのか?と考えた時、短期間で考えつくソリューションはアプリのトラッキング機能を使う5のアイデアでした。一方で、そのソリューションはインクルーシブではなく、かつトラッキングを快く思わない人にとっては利用したくない手段です。

結果、平等に機会を提供するということを考えたときに、トラッキングを利用したくない人、利用できない人にはコミュニティのポイントカードやグッズ購入を通して地元のビジネスに貢献するという4の案を考えました。しかし、この部分については更に調査をしたり別の方向からアイディエーションをしたりできたらより良いアイデアが出てくるのでは...と思いました。

また「インクルーシブネス」という言葉の定義についても、皆が何かしらの施策に参加できる、ということなのか、スマホやインターネットの有無に関わらず、好きな取り組みに参加できる仕組みを作るということなのか?その二つで意見が分かれました。今回は前者の方を言葉の定義として合意しましたが、このような細かいニュアンスについてもしっかり話し合う必要性があることを強く実感しました。

まとめ

グローバルなチームでの共同作業は、言語だけでなく、物事の進め方や考え方、得意分野が異なるため、学びとなることや気づきも多い一方で、難しいことも多々あります。そんなことを学べたプロジェクトだったと思います。

また、もっとソリューションをスッキリさせられるのでは?という思いも残りました。そのためには、解決すべき問いの優先順位を見極め、そしてその問いの意図を全員が理解した上でプロジェクトを進める必要があると実感しました。

2学期は企業と取り組むプロジェクトがあるようです。その内容についても更新していけたらと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?