ハゲとるやないか!

おでこの生え際に十円ハゲができていた。

前髪で隠れるので、普通に生活している分には誰にもバレないが、
前髪をあげると、肌色の丸が見える。

丸く毛が抜けたふにふにの頭皮を触る。きもちいい。
ハゲた部分を、スマホで撮ろうとするけど、黒い髪のアップしか撮れなくてあきらめる。

実はもう10年くらい前から、十円ハゲができたり、治ったりを繰り返してます。
だから、もう、特に動じません。
ニキビがぽちっとできるのと同じくらいの感覚。
若干、嫌だけど、もうしょうがないか、って感じ。

はじめて十円ハゲができたとき、さすがにショックだった。
でも、どこか安心もした。

その当時、仕事も自分に合ってなかったし、友だちもいなかったし、
相談できる人も、気晴らしになることも、お金も、やりたいことも、なかった。
自分が何になりたいのかも、この先どうなるのかも、何もわからなかったし、考える努力もしてなかった。

特別ショックなことがあるわけでもないのに、毎日、気が重い。

そんなときに、十円ハゲができて、「そうか、私はしんどかったんだ」って、そのときやっとわかった。
特に何の努力もせずに生きてるくせに、しんどいと言っちゃいけないと思っていたけれど、
体が反応を出したことで、ちゃんと、しんどい、って思えるようになって、少し心が軽くなった。

おいおい調べてみると、
十円ハゲができる原因はいまだにわかってないようで、
ストレスという人もいるし、遺伝という人もいるし、ホルモンの関係という人もいる。

あの時、十円ハゲができたのはストレスのせいじゃないのかもだけど、
とにかく、私は自分の十円ハゲがそんなに嫌じゃない。

「私、こんなになるまで頑張ってたんだな」と
かわいそうな自分に浸る権利がもらえた感じ。
もちろんそれに浸りきるのは健全じゃないけど、
少しぐらい、自分のことを慰めてもバチは当たらないことを獲得できて、いろいろラクになった。

今では、本当に親しい人には、十円ハゲができたことを告白している。
最初はみんな、私のことを傷つきやすい繊細な心の持ち主として労わってくれたのだが、

あまりに頻繁に私にハゲができるものだから、
見せても何も言ってくれなくなった。

しまいには、そんなにハゲてないとまで言われる。
いや、めちゃめちゃハゲとるやないか!
と主張するのだが、あまり取り合ってもらえない。

ハゲができたのは10年前とは変わっていないし、悩みやすい自分も変わっていないが、
ハゲを見せられる相手がいることは、10年前とは大きく変わった点だ。

私は自分の十円ハゲが嫌いじゃない。

鏡でもう一度生え際を見る
いや、めちゃめちゃハゲとるけどな。

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