35歳のあなたと58歳のわたし
マッチングで出会った。
色黒の小柄な容姿…初めてのタイプ。
目をまっすぐに見てくる。
緊張しているのが伝わるが、嫌ではない。
少し話してみることにした。
プロフィールにはシャイと書かれていた。
わたしはどうも距離が縮まるまでに色々やらかしてしまう。
初めて泊まったホテルで地震が来て、相手を守ろうとするあまり
眠る相手めがけて大の字でダイブしたり。
優しくされることに慣れなくて、居心地たいそう悪くなり
相手の靴だけをずっと凝視していたり。
内緒話に呼び出され、舞い上がって手と足がタコ踊りのようになったり。
これ以上思い返すのはやめておく。
それは一瞬だった。
トイレに行こうとしたら相手が出てきて、
あ……と振り返った時には遠くのドアを出ていく後ろ姿が見えた。
はぐれてしまう…。
あせって追いかけて名前を呼んだ。
同じドアを開けた時にはもうどこにもいなかった。
相手にとっては初めての場所である。
あろうことかお互いに連絡を取り合う手段を持ち合わせていなかった。
私は本当に気が利かない。
迷子になったら動かないことが鉄則。
私が迷子になったわけではないがとにかくそこにいた。
不安で何人かに電話をした。
「そこで待ってるのが1番!」
「えぇ!なにしてるの!? 探しに行って!」
いろんなアドバイスをもらいながら、ふと見ると開いたドアから入ってくる
姿があった。
よかった!泣けるくらい嬉しく安堵した。
初めての場所なのによく土地勘があったと思う。
何も言わずに少しはなれた黒い椅子に座っている。
明らかに怒っていた。
プライドが傷ついたのだ。
不安と心細さもあっただろう。
「ごめんね、ごめんね。ごめんなさい…会えてよかった」
何も言わずに見つめる目。
目をまっすぐに見てくるのは、こちらのことを知ろうとしていることだと
思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「それ以上構うな。ここから先へは近寄らないで。」
マッチングからのトライアルは始まったばかり。
これから2週間、この5歳の黒猫は我が家で暮らすことになる。
人で言うと35歳。女性。
同性同士でも種が違っても愛は生まれ育まれると思うほうだが、
それはお互いの気持ちあってのこと。
58歳。人科。女性です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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