【読書感想文】 “帰る場所”の大切さを教えてくれた「巡礼の家」は心のバイブルとなった
はじめに、この本に巡り合わせて下さった「文春文庫」さんに感謝します。
「文春文庫プレゼント&ファーストレビュー募集」に応募しました。
本を選出する際「悼む人」という小説で直木賞を獲得した作家、天童荒太氏の長編小説「巡礼の家」に心ひかれ希望したのです。
応募多数の中から、当選するとは思っておらず、本が届いて驚きました。
読みかけていた本を片付け、早速まっさらなページをめくり、この本の巡礼が始まったのです。
涙で読めない
この小説は15歳の少女の心を通して、人としてどう人に寄り添い、生きるべきかという疑問を投げかけているようです。
そしてその答えを登場人物が、持ち前のキャラクターであたたかく、感動的に教えてくれます。
優しさにふれ、また真相が分かるほど、涙で文字が読めなくなりました。
死のせとぎわで「帰る場所はありますか?」と問われた少女は、声も出せず首を横に振ってこたえました。
その少女が最後の場面で、行き倒れた歩き遍路の女性に「帰る場所はありますか?」と問いかける。
人の優しさを受け止め、自分の居場所を見つけたことで、人はこんなにも成長するのだと教えられた気がします。
帰る場所を求める人々
この小説は不幸な運命にほんろうされ、逃げてきた「雛歩(ひなほ)」という15歳の少女を旧へんろ道で助けた、三千年の歴史を持つ「へんろ宿/さぎのや」の女将「美燈(みと)」との心の交流を中心に、少女がたくましく成長してゆく姿が描かれています。
また登場する周辺の人々も、それぞれの苦悩をかかえながら「さぎのや」に居場所を置き、人の心に寄り添うということを学んでいる様子に感銘を受けました。
人はだれもが「帰る場所」を求め、心の中の「さぎのや」を探しているようです。
舞台設定
舞台は四国最大の都市である愛媛県松山市、三千年の歴史を持つという道後温泉周辺です。
この温泉と同じ歴史を持つへんろ宿「さぎのや」の女将美燈は八十代目であり、その先々代の女将まひわが、不思議な魅力を持って主人公とからんできます。
この愛媛県松山市は著者の出身地であり、土地の細部まで表現が行き届き、読者のイメージに寄り添ってくるようです。
まだ訪れたことのない、道後温泉にも思いをはせ、読み続けることができました。
読み終えて
歴史書を読むかのような巻頭部分から、サスペンスを思わせる主人公の言動と行動に、どうなって行くのだろうとドキドキさせられました。
しかし主人公「雛歩」の少女らしい心の声が、ユーモラスであり可愛らしくもあって、よけいな緊張感を持たずに楽しむことができます。
本編では現代の様々な課題がちりばめられていて、考えさせられました。
自然災害に巻き込まれた人たちの苦しみ。
若者を自死から救えない現実。
子どもが介護をせざるを得ないヤングケアラーの問題。
その他にも読むものに、分かりやすく問いかけます。
今この時代を生きるものは、旅の途上の「巡礼者」であって、帰る場所を求めながらせわしく動いているような気がしてなりません。
できるなら、すべての人が「さぎのや」の住人のようになれればよいのに、と思いながら最後のページをとじました。
♬最後までお読みいただき、ありがとうございます。(^^♪
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