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ふるさと納税っていいの?〜ふるさと納税に潜む課題を考える〜

本シリーズは、新社会人となり、ふるさと納税に興味を持った筆者が「本当にふるさと納税っていいの?」という疑問に答えるために、1ヶ月間調べた結果をまとめたものである。

本記事では、「ふるさと納税の課題とは?」という疑問を解消していく。ふるさと納税は本当に社会を良くしている制度なのだろうか?

ふるさと納税について考えるきっかけになれば幸いである。


① 納税モラルの低下を招いており、当初の理念が達成されていない


ふるさと納税制度の理念の一つに「納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります(総務省)」がある。

しかし、現状では返礼品の充実度や魅力度によって、納税者の選択が左右される傾向が強まってる。納税者は仲介サイトを通じてお得な商品を選ぶことが一般的となり、地域への思いや貢献意識よりも、単なる物品の得失に焦点が置かれることが少なくない。

ふるさと”納税”仲介事業者のサイトのトップページ

これでは税に対する意識が高まるどころか、納税者が税金を「負担」ではなく「投資」と捉えるようになり、納税モラル全体の低下につながる恐れも否定できない。当初の理念が達成されているとは言えないだろう。

② 返礼品競争が激しくなることで、地方圏にも赤字自治体が生まれている

第1回の記事で解説した通り、2022年度は448自治体がふるさと納税の実質収支がマイナスになっている。

マイナス額のランキング上位には大都市圏の自治体や県庁所在地、政令指定都市が並んでいるのだが、ランキングの続きを見ると地方圏の中小規模の自治体でもマイナスになっていることがわかる。

後述するが、ふるさと納税は特定の条件が揃っている自治体が圧倒的に有利なゲームなので、財政的な支援を求めている地方自治体なのに、赤字になってしまい、基金を切り崩すことを迫られている自治体もある。

地域振興や自治体財政の健全化を目指すはずの制度が、逆に地方自治体の財政状況を悪化させる一因となっており、返礼品競争の激化により、一部の地域では持続可能な発展に対する脅威となっている。

③ 有利な自治体が勝ち続けるゲームであり、自治体間格差を助長している

見逃せないデータがある。2022年度、ふるさと納税受け入れ額上位1%の18自治体が全体に占める金額シェアは18.9%、上位10%のシェアは57.9%を占めているというデータだ。

出典:東洋経済

ふるさと納税は、寄付金の獲得をめぐる「自治体間の自由競争」のように見えるが、実際は人気の返礼品を用意できる自治体、すなわち競争力の高い一次産業を有している自治体が圧倒的に有利なのだ。

地方圏にはベッドタウンなど、競争力の高い一次産業を有していない自治体もあるため、ふるさと納税は「持てる自治体」と「持たざる自治体」の格差を助長していると指摘できる。

④ マクロ的には税収のロスが発生しており、しかも自治体への寄附手段としては非効率

ふるさと納税の創設当初は、各自治体のホームページにて寄付の受付を行っていたが、現在ではさとふるやふるさとチョイスなどの仲介事業者に業務を委託している。

そのため、ふるさと納税の寄付額の増加と共に経費も年々増加している。経費の内訳を見ると、「返礼品の送付に係る費用」と「事務にかかる費用、その他」が増加している。つまり、農家や漁師などの地元事業者に支払われる経費ではなく、仲介事業者に支払われる割合が増えているのだ。

出典:日本経済新聞
出典:橋本(2023)

ということで、本来住民税として自治体に納められるべきだった税収の一部が民間事業者に流出しているのだが、それが故に自治体の手元に残るのは寄付の半額程度しかない。

仮に、1万円を応援したい自治体に寄付したとしても、半分はふるさと納税運営の経費に使用されてしまうため、自治体の手元に残るのは5000円だけなのだ。これでは、応援したい地域への資金を提供する制度としては非効率的な制度といえるであろう。

出典:日本経済新聞

また、ふるさと納税の赤字自治体へのフォローとして、控除額の75%が地方交付税で補填される仕組みがあるため、国税の負担も増えており、周南公立大学の伊藤敏安教授の試算では2022年度のふるさと納税に伴う地方交付税による補塡は3639億円である。

このように、ふるさと納税によって地方税のロスが発生しており、そのロスを穴埋めするために国税の負担も増えている。しかも、自治体の手元に残るのは寄付金の半分なのだ。

次回は、ふるさと納税の使い方について考えてみる。


<前回までの記事>

<参考文献>
橋本恭之, 2023,「ふるさと納税制度の財政的な効果・影響の検証」, 日本都市センター.
末松智之, 2020, 「ふるさと納税の返礼率競争の分析」, 財務省財務総合政策研究所総務研究部.
伊藤敏安, 2022, 「ふるさと納税は地方交付税を どれほど毀損しているか?」, 修道法学.
日本経済新聞, 2024, 『データで読む 地域再生』, 日本経済新聞社地域報道センター.
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