見出し画像

出勤!中間管理職戦隊ジェントルマン 創作裏話

こちらは基本的にネタバレで埋め尽くされており、つまるところ読み終えてくださった方だけが楽しめるようになっております。ご了承ください。

🕶

連載やってみることにした。

逆噴射小説大賞2019から全ては始まりました。

膝の震えと戦いながら参戦したこのコンテスト。勇気を奮って5発の弾丸を放ち、3発が二次選考を突破したものの、2発は一次落選となりました。

なにを隠そう、このジェントルマンは一次落選した作品なのです。

コンテストのなかで、逆噴射先生はこのように述べておられます。

是非、最初の800字まで書いた作品の冒頭から続きを書いて、作品完成まで書き上げてください!

事実、連載中のパルプスリンガーの多くが、前回のコンテストから書き始めたのだそうです。それを知ったことにも背中を押されました。

続きを書くことにしたのです。

なぜ、5発の弾丸のうちジェントルマンを選択したのかは、単に「楽しんで書けそうだから」という軟弱な理由でした。でもそれこそ、創作の本質なんじゃないかなと思っていますが。


プロットを書いてみた。

それまでわたしは、プロットを用意せずに書き始めることが多かったのですが、物は試しとチャレンジしてみることにしました。

うわさには聞いていたものの、いざ真っ白なコピー用紙を前にするとなにも手につかず、単なる走り書きのメモが増えていくばかりでした。

手書きプロット

しかし試行錯誤を繰り返しているうちに、どんどん楽しくなってくるものです。荒削りだった設定がしだいに研磨され、リアルになってきました。

ビジュアライズしたほうが文章を起こしやすい、というのは建前で、この頃には単に設定を考えるのが楽しくてペンを進めていた、というのが正直なところ。


設定ができあがってくる。

阿佐ヶ谷研究所の基礎ができあがります。

阿佐ヶ谷研究所

初期設定では千堂さんがメガネをかけています。メガネキャラが多すぎるので、彼女には外してもらいました。空手審判員の免許をとった、という設定は使う機会がありませんでしたね。あとポニーテールなんですが、髪型というよりは、もともとのロングヘアを仕事と空手のときだけ束ねているという感じです。ひっつめに近いイメージです。

博士と千堂さんの年齢は、本編ではもうちょっと若くなっています。

元人事部長のジェントルマンは「アサリサカムシ」というコードネームでしたが「ア」で始まるとアゲダシドウフと混同しやすいので、トリカワポンズに変更と相成りました。この時点では、あんなに大活躍するとは思っていませんでしたが。

地下フロアを横断するアクアリウムの設定はこのときに生まれました。個人的にすごく気に入っています。

事件がないときは、基本的に手前のダイニングエリアでお茶すすってダベっているだけです。しかしそれでも給料が発生しています。博士は金に無頓着なので、それでいいんです。

🕶

ハイボール大佐のチームです。

ハイボール軍

大佐の服装なんですが、カーキ色のフライトジャケットという初期設定はまったく活かされませんでした。最終話ではなんかいきなりオレンジ色のウルトラライトダウンを着て登場してました。これには作者も驚きました。

あまり詳細に描写しなかった大佐のオフィスですが、パーテーションで三つに区切って使っています。メインは事務机とソファとテレビがある部屋です。小さいほうの手前の部屋はグルグルがある作戦ルームみたいなところ。もうひとつは大佐の私室です。家賃が負担になるので、住み込みなんですよ。大佐。

実は当初、このオフィスは阿佐ヶ谷研究所のビルの4階にある、という設定でした。大佐も博士もおたがいの本拠地を知らないまま戦っていて、ある日、博士がランチをデリバリーしたら、大佐がウーバーイーツ で届けに来たというプロットを考えていたんです。でもそれだとアクアリウムが反応しないのがおかしいのと、最終決戦地がビル内になってしまうので、お蔵入りとなったわけです。都内某所の雑居ビルということになりました。


必殺技を考える。

もっとも楽しく、もっとも苦しんだのがこれです。

必殺技

必殺技は、ジェントルマンそれぞれの前職にまつわるものになっています。

やっかいなのはアルケウスとの相性です。たとえば破壊欲の化け物は人事部長が解雇すれば済むのですが、経理部長や総務部長が倒すのはなかなかやっかいだったんです。経理部から受けるダメージといえば「これは経費で落ちません」が真っ先に思い浮かんだのですが、トドメを刺せるほどではないしなぁ……と頭を掻いていたら、ふっと出てきたのが「不渡り手形」だったりしたわけで。破壊力が高すぎてお蔵入りでした。経理部長自身が失業しちゃいますし。

ただ、ルビふり作業というか、ネーミング作業は楽しかったですね。
「HUNTER×HUNTER」における「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)」とか「TUBE(イナムラ)」みたいな感じで、このへんのウィットがうまくハマった時なんかは気持ちいいです。

個人的に好きなのは「年功序列(インモビリティ・ピラミッド)」と「24時間永久苦役(リゲイン)」です。リゲインはあれですよ。文字色を黄色と黒にしていたんですけど、気づきました?

一度は考えたものの「内部監査」「収支報告書偽造」など、結局使わなかったものもたくさんあります。


書く。書く。ひたすら書く。

わたしはMacユーザーなのでPagesというソフトを使っています。これはデフォルトで入ってる無料ソフトです。クラウド化されているので、iPadでもiPhoneでも続きを書くことができますが、キーボード入力しか自信がないわたしは、もっぱらMac本体でカタカタカタカタ書いてます。

Pages画像

実はジェントルマンは縦書きで執筆しています。

このPagesというソフト。横書き専門だったんですよ。2019年になってようやく縦書きに対応しました。縦書きの言語なんてほとんどないとはいえ、ずいぶん待たされたなという感じです。もちろん、できるようになったのは大歓迎なのです。


本編上に小ネタを散りばめる。

大小様々なネタを散りばめています。

🕶

第一話にさらっと名前が出てきた坂上二郎さんは欽ちゃんの相方です。持ちネタは「飛びます飛びます」

🕶

第三話でナンコツが言っていたWikipediaの「日本住血吸虫症」は、本当に名記事なので、お時間あったら読んでもらいたいです。ちょっと感動します。

同じく第三話から登場する「グルグル」は、衛藤ヒロユキ先生の「魔法陣グルグル」に由来しています。カタチが魔法陣っぽいからです。

あと、世界に数本しか現存しないゲームソフト「バッテラ・アイランド」は「HUNTER×HUNTER」に登場するグリードアイランドとその収集者の「バッテラ氏」を融合したものだったりします。決してサバ寿司のことではないです。

コレクションボックスを破壊された獲得と保持のアルケウスが、怒って撃ち出したギザギザの円盤ですが、あれはクリリンの気円斬のメタファーです。第三話の冒頭で、博士の「悟空さえいればクリリンは不要」という暴言が、一応前フリになっています。

それからナンコツが繰り出した竜巻旋風脚は、もちろん「ストリートファイター」のあれです。

🕶

第四話の「私立戴跋高校」の読み方は「しりつたいばつこうこう」で間違いありません。ええ。体罰が肯定されています。実在の学校がモデルではありませんので誤解なきように。

🕶

第六話で「大東京トイボックス」の七巻がちらりと登場します。この巻はちょうど倫理審査機構テミスが動き始めるころで、いわゆる表現の自由と自主規制の問題、そしてコンテンツがユーザーに与える影響が語られ、話の核心に近づいていくところです。ヒロシの発言が唐突にみえるのは、ジンが手に取ったこの単行本の内容を知っていて話しかけたからです。

同じく第六話。博士の「別に庭のプレハブに住んでないですから」は「高校アフロ田中」の主人公のエピソードに由来します。ちなみに主人公の名前は田中広(たなかひろし)で博士とおなじ読み方です。

🕶

最終話。警察署の場所を新宿区早稲田にしたのは、わたしが上京して最初に住んだ場所だからです(早大生ではありません)。早稲田鶴巻町の下宿屋さんの三階に住んでいました。山吹警察署はそこから歩いて数分の、山吹高校あたりをイメージして執筆しています。

同じく最終話。ビッグ・ザ・武道は「キン肉マン」の人気キャラです。

最終話ネタが続きます。パトカーに乗務中だった警官たちが話していた「トシモン」ですが、新井英樹先生の「ザ・ワールド・イズ・マイン」の主人公たちです。実は若い頃にこの作品を読んで、脳を殴られたんです。最初はキライだったんですよ。絵柄もストーリーも。暴力的で粗雑で。でも目が離せなくなり、毎週読むようになり、気がついたら単行本を全巻揃えていました。完全なるファンです。青森西署の襲撃シーンは圧巻で、警察署を最終決戦地に選んだときから本編で触れようと思っていたんです。オマージュとして。

大佐の右目の補助具を「シュトロハイム大佐に改名すりゃいいじゃないか」と博士がいじるシーンがあります。そうです。「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくるシュトロハイム大佐のことです。

🕶

エピローグの「北海道転勤は二度泣く」は、わたしが北海道へ転勤した直後に、喫茶店の女性マスターから聞かされた話です。リアルです。その喫茶店でパスタを注文したのですが、レトルトの味がしました。


必殺技画像をつくる。

これは本編の執筆とおなじようにPagesを使って作成しています。

必殺技画像

こんな感じでテンプレートを作っています。サイズやら色やら角度やらを調整し、なんと、枠線にあわせてスクリーンショットを撮るという手抜きをします。
noteの記事内に貼るだけなので、解像度は低くてもいいのです。

そして、次に大活躍したのはこちらのサイト。

その名のとおり、集中線を入れるのです。軽くて早くてシンプル。一瞬で完璧な集中線が入ります。めちゃくちゃお世話になりました。


本編で触れられなかったこともある。

第五話で天空橋駅に駆けつけた警察官に対して、博士が薬剤を使ったという説明が出てきますが、高校時代にジンに吸わせたエアロゾルと同じものです。たぶん。

最終話で、博士の運転するバンがアルケウスに激突するシーンがあります。最近の車には、センサーで障害物を感知すると自動でブレーキをかけて衝突を回避するあれが搭載されていますよね。にもかかわらず衝突したのは、相手がアルケウスだからです。濃密とはいえ黒い霧ですから。霧に反応していたら濃霧の中では進めなくなってしまいます。実は博士も自動停車すると思って遠慮なくアクセルふかしていたら、予想に反して……ということだったりするのです。

水槽部分を破壊されたグルグルがどうなったかというと、数奇な運命を辿ります。リサイクルショップへ持ち込まれたり、スピリチュアルな店のインテリアになったりし、最終的には札幌市西区にあるレトロスペース坂会館で、大事に保管されているのです。

アルちゃんこと、生き延びた保身と防衛のアルケウスですが、なぜ消えなかったかというと、それだけ欲が深かったということです。ただ、千堂さんたちに匿われていることで、いつかは保身欲が満たされて消滅するはずです。その日が来るまで、出目金のお世話係を仰せつかっているのでした。けけ。

ヘッダー画像がなぜ東京タワーなのか。中間管理職としてのキャリアを終えた三人が、それでもなお職業倫理に立脚して倒れずにいる。そんな姿を重ね合わせているというのは、考えすぎでしょうか。いえ、考えすぎではないのです。

画像のみ


書き進めていくと、たくさんの方々からファンレターが。

こんな嬉しい紹介記事を書いてくださった方々もいます。


書いてみてなにが変わったか。

読んでくれたみなさん。スキをつけてくれたみなさん。更新するたびにTwitterでシェアしてくだったみなさん。みなさんのおかげで完結まで走り抜けることができました。非常多謝!

蓋を開けてみれば足掛け6ヶ月間。文字にして10万文字以上におよぶ長編連載になりました。ある種のチャレンジとして書き始めた作品です。もちろん、書くからには手を抜かずに納得するまで向き合って、頭を掻きむしりながら一行一行進めていったわけですけれども、たくさんの人に読んでもらえたことは素直に嬉しいです。

そして、志をおなじくする仲間と出会えました。
彼らが、次の展開を予想しながらTwitterでわいわいやってくれているのは、素人ながらも物書きとして、幸せ以外の何物でもありませんでした。

さらには、素敵なファンアートまで頂戴して。
身に余りすぎて両手からぼろぼろと光栄が零れ落ちています。

たぶん、得られたものがとても多い連載だったと思います。ある意味で、昔の感覚を取り戻した部分もありますし、まったく新しい体験を積んだ部分もあります。

そしてなにより、ひとつの物語を完結させたという事実が、自分の背中を強く押してくれています。

また次の新しい物語を書きたいですね。

🕶


電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)