物的資本だけが競争戦略ではない~インビジブル・エッジ

本記事は「インビジブル・エッジ その知財が勝敗を分ける」を読んだアウトプットです。

企業の競争戦略を、知財の観点から読み解いた本。知財の重要性というのはまだ社会に浸透していない面もあるが「見えない刃」のようなものだ、と。

イノベーションによって市場を独占するジレットの「コントロール戦略」、オープンイノベーションによって利益を得る、社内のイノベーションを促進するなど、P&Gやトヨタの「コラボレーション戦略」、IBMの「単純化戦略」が取り上げられます。

また、製品の製造・販売は行わず、技術供与や知財ライセンスによって収益を得るという知財に特化したクアルコムなどの「サメ型企業」「パテントトロール」の話も。

学ぶことは色々とありますが、個人的には、規格をつくって市場の中心に行くということは戦略的に重要だということを改めて実感。欧米はスポーツやサステナビリティ、様々な分野でルール作りでまず日本に勝利する。それは知財でかつて国ごと痛い目を見たり(ゼロックス)、様々な企業の凋落があったりした歴史があったからなのかな、と。

知的資本の重要性

ロバート・ソローによれば、経済成長のうち労働と資本(物的資本)で説明できるのはわずか13%に過ぎず、残りは「技術進歩」に起因している。(この研究で1987年にノーベル経済学賞)

ローマーの理論によれば、生産性の向上=知的資本に関しては、技術進歩が重要である。
技術進歩とは「経済に投入する原料をどう配合すればいいか、より良い指示を出せるようになること」。
技術進歩は外生的な要因ではなく「市場のインセンティブに応えて人々が自主的に取る行動」の結果である。すなわち市場の力が直接的に生む内生的な要因。
“より良い指示”=新しいアイデアを考えだすまでにはコストがかかるが、そのコストは一回しか発生せず、あとは追加コストなしに何度でも指示を繰り返すことができる。

知的財産を多く持っている企業ほど時価総額が高い

特許取得を目指す研究開発にどれほど投資しているかは、その企業の株価の重要な決定因になる。
研究開発投資1ドルあたりの特許取得件数が多い企業ほど、時価総額は大きくなる。
特許の引用件数は、特許の重要性の良い指標となる。

知財は企業の利益を大きく決定する要素、シェア、価格、コストにそれぞれ影響を及ぼす

差異化ができれば売れるしシェアも拡大する。そうでない製品は何の特徴もないコモディティに成り下がる。特徴があれば価格を上乗せすることができる。賢い会社は、自社ならではの製品やデザイン性などの特徴を、会社そのもののイメージと結び付けてブランドを構築する。
コストを圧縮する方法として、製造プロセスの改善を通じて生産性を高めるやり方がある。

インテルは、IBM PCに採用されたことをきっかけに競合他社へのライセンス供与を打ち切ることで、市場で圧倒的な地位を築いた。
→その独占が技術競争を促進した。

ナイキの事業戦略は、全面的に知財を中心に組み立てられている。知財ポートフォリオは多彩で、自社製造は行わず、デザインと開発という最も利益率の高い事業に専念している。

HPは、特許によって他の業者が使用済みカートリッジにインクを再充填することはできない。また、他社のインクに特許取得済成分が使用されていないかどうかをチェックしている。

ライフサイクル・プライシング

値段に敏感な顧客には旧製品を割安に提供し、品質重視の顧客には高性能の新製品をやや高めに提供する。ジレットが採用したこのプライシング戦略は、イノベーションを業績向上に結び付ける有効な方法

コネクト・アンド・デペロップ方式

P&Gはアウトソーシングを進めることで、コア事業に集中し従業員は横ばいで売上高を40%増やした。
そして自社の研究開発費を削減し、社外と協力してイノベーションを生み出すようにし、社外へのライセンス供与を推進した。
3~5年後にはオープンになってしまうので、スピードが上がった。

戦略とは持続可能な競争優位の追及である。
競争優位はかつては製品であり、プロセスであったが、今はネットワークである。(イノベーションを独占することは難しい)

トヨタの成功はコラボレーション戦略にあり

アメリカが日本メーカーの後塵を拝し続けている原因は、組み立てメーカーの生産性とほとんど関係がない。
アメリカの自動車メーカーはサプライヤーと対立関係を続けてきた。自らの手っ取り早い利益のために値下げを要求してきた。
以下の条件をよしとするなら、これは合理的で正しい。
1.サプライヤーの技術水準はどうでもいい
2.サプライヤーの利益率が最低水準まで下がるのは結構なこと
3.個々のサプライヤーがプロセス改善のみを通じてコスト削減をする能力と意欲を持っている

→しかしながら、競争力はまったく反対の条件で生まれる。
1.競争力を支えるのは技術であり、イノベーションである
2.設計や生産プロセスの改善に投資するためには十分な利益を確保しなければならない
3.品質向上やコスト削減を実現するには各社ばらばらより全社の協調が望ましい

1.イノベーションを定量的に数字で評価することは可能
2.イノベーションはほとんどの製品で、価値の大部分を占める
3.知財へのアクセスが確保されることは重要

シンプルでエレガントに

少数のシンプルなルールによって、高度な戦略的選択肢に至るまで万事がおのずと決まっていくような仕組みになっているのが良いアーキテクチャ(戦略的設計)である。
知財戦略とアーキテクチャは切り離して考えるべきではない。

フェイスブックに学ぶ知財戦略

最後の章は、本書全体のエッセンスが詰まっている。

1)コントロール戦略
・独自の無形資産を持つ→差別化のために所有権を確保
・グローバルに考え、ローカルに行動する→無形資産の財産権はローカル。著作権だけがグローバル
・最も大切なものは知財で保護する
・未来の選択肢を確保する→将来はライセンス供与で優位に立つ戦略 等
・規模の拡大に走らず知財の拡大にも努める→将来他者の技術に依存することになった場合、何も取引材料がないと苦しい
・すべてに勝とうとせず、協力者を呼び込む
・自分で作れないときは、買う

2)コラボレーション戦略
・敵と手を結ぶ→世間の注目を集める大型提携の多くは、実際には知財をめぐる停戦協定であることが多い
・知財を活用してパートナーを呼び込む→P&Gのように、大手企業で自社のイノベーションを活かしきれない場合や市場開拓に行き詰まりを感じている場合には特許のライセンシングで利益を上げる手がある。機会も脅威もパートナーシップの誘因に。
・イノベーション・ネットワークを構築する
・ユーザーによるイノベーションを促進する
・信頼関係を築く
・共同出資を歓迎する
・知財プールを構築する

3)単純化戦略
・戦略をアーキテクチャに結びつける
・複雑さを排除する
・オープン・アーキテクチャを支持する
・コアの部分は所有する
・中心に移動する→関係性の中で中心になる
・標準争いで遅れを取らない
・破壊的な攻撃に注意する

↓以下の方の要約が秀逸です


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