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老いた男 (ハヤカワ文庫NV) | トマス ペリー, 渡辺 義久

 35年前にアメリカの工作員としてリビアに潜入した男が、その後35年間に渡ってアメリカ政府に追われる身となる。古典的でオーソドックスかもしれないが、手に汗握るアクションとサスペンスの連続するスピード感あふれる作品だ。

 実は、以前紹介した『発火点』を買おうとして、間違えて隣に置いてあったこの本を買ってしまったという経緯から読んだ1冊。

 間違って買ってしまったとは言え、これも何かの縁と読み始めたら、軽快な文章と、ストーリー展開の圧倒的な疾走力で一気に読み終えてしまった。

 この手の、スパイや工作員などが活躍する物語は数多いが、やはりそこに大事なのは、ストーリーに不可欠なアクションが生きる展開、スピーディな描写ではないだろうか。この『老いた男』には、その要素が過不足なく詰め込まれている。

 タイトルの『老いた男』という言葉からは、ややもするとゆったりとした老人の物語を思い起こすかもしれない。(何しろ、中身を全然知らないで買ってしまったのだから!)しかし、主人公の老いた容姿や日々の生活とは裏腹に、あっという間に日常がひっくり返ってしまうような事件が繰り広げられる。

 巨大な組織に追われる者の姿を描いたストーリーは、ディーン・R・クーンツの『邪教集団トワイライトの追撃』あたりを思い出した。常に先の一手を考えながら行動する主人公の魅力がいかんなく発揮されている。

 書店で手に取る本を間違えるなど、同じ本を2冊買ってしまうよりも間が抜けているんじゃないかと思うが、そのおかげで面白い小説と出会えたという話。たまにはいいんじゃないか。


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