見出し画像

推し、燃ゆ | 宇佐見りん

 「推し」はイチオシの「推し」だ。自分が一番プッシュする、ファンである対象のことを指す今風の言葉。「燃ゆ」は言葉通り、燃えること。ネットで炎上することだ。2020年下半期の芥川賞は、実に現代的なタイトルを持った作品が選出された。

 内容も、(たぶん)LD、学習障害を持った主人公の推しであるアイドルが事件を起こし、それがネット上で炎上していることをテーマにした物語。いかにも昨今の我々の日常にある事件である。

 SNSやブログも普通に登場し、その中で進行するコミュニケーションが、物語の軸になっているところも、世相を反映した展開と言える。ああ、そういうことあるよね、という感覚で読めるところに現代のリアルを感じる。

 推しのことをブログに書き綴り、それによって(一方通行ではあるが)自分とアイドルとの関係性を描いていき、そのことが主人公の心や生活に変化をもたらすという、ちょっと風変わりな手法が目を引く作品なのかもしれない。

 個人的には、もう芥川賞の選考基準とか、純文学の定義とか拡散してしまってよくわからないのだが、その中でまたひとつ、新しい形の芥川賞受賞作が出てきたなという感じはするのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?