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【映画】ヨルゴス・ランティモス旧作2本

『哀れなるものたち』が大変面白かったのでヨルゴス・ランティモスに興味を抱きましたが、ちょうどAmazon Primeでも見放題にあがってきたので最近になって2本鑑賞しました。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00GJ2YY1O/ref=atv_dp_share_cu_r

『籠の中の乙女』
子供3人を自宅の豪邸から一歩も出さず、与える知識や情報も極端に少なくしかも虚偽ばかりという異常な家族の話。
とにかく変なことばかりやっていて、コメディではあるのですが非常に不気味な世界です。
この自宅を完全に自分の世界につくりあげようとする父親の努力も相当なもので、わざわざデカい魚を買ってきてプールに放し、自分で水中銃で獲る……とか実に変テコです。
子供たちは立派な成人の姿なのですがそんな環境で子供みたいな知識と振る舞いを示しますが、自分の会社の女性に金を渡して息子の性の相手をさせるというあたりは特にグロテスクです。

『哀れなるものたち』の前半を思わせる設定でもあり、世界を自分の手で作り上げることに必死な父親、ランティモス本人のオブセッションが前面に出ているところはまさに共通。
大胆ながら即物的な性描写も『哀れなるものたち』に共通します。

独特の間がある演出や編集でだんだん眠くなってくるんですが、子供たちが外界のことを垣間見てイキイキし始め、そして……
極めて宙ぶらりんに終わらせるところは『哀れなるものたち』とは対照的な感じがありました。
すげー面白いとは思わなかったのですが、これ結構好きだなとは思いました。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B6T8ZD4C/ref=atv_dp_share_cu_r

『ロブスター』
リゾートホテルのような施設で45日以内に恋人を作らないと動物に変えられる、という素っ頓狂な設定で、公開当時SFマガジンでも紹介されていたので興味がありました。
施設内ではいろんな男女が相手を見つけようと必死になりますが「近眼」だの「鼻血が出やすい」だの身体的にネガティブな特徴で共通点を見出すことが、マッチングの最大のポイントになっていてこれも強烈な違和感をもたらします。
マスターベーションをするとトースターで手を焼かれる罰もあったりで、この歪んだ価値観の世界は『籠の中の乙女』的ですね。
清潔な施設でみんなで狂ったことをしている様子は「みんなでシャイニング」という趣もあり極めて面白いです。
「みんなで時計じかけのオレンジ」感もありますね……あのホテルのステージとか。
まともな人が出てこなくて、主人公のコリン・ファレルも結構おかしい人です。

そんなおかしい主人公も施設を抜け出し、自由を旨とする森の中のコミュニティに加わりますが、こっちはこっちで独身主義。
そんなルールがどこまで徹底されているかイマイチわからないのですが、最終的に恋人との逃避行に進んでいきます。
そうなるまでのプロセスも、異常な出来事ばかりで感情移入できなさがすごい。
それでもヒッピーコミューンみたいなところでお互いにあまり交わらず過ごしているのに比べると、前半の方が面白かったかなと思ったり。
でも、森や湖が映し出される映像が非常に美しいです。
人間が変えられたであろう動物たち(ラクダとか……)がいきなり背景に映り込んで物語に絡んでこない、独特の世界観描写も魅力でしたね。
彼らが行うテロのような行動も、なんじゃそりゃと思う変テコな、しかしながらこの社会の価値観の根幹を揺るがしてるんだろうなあと感じられるものでした。

やはりこの作品も、世界を作ること維持することに血道をあげる人々の物語ということで他の作品と共通します。
でも基本的に無理がある世界であり、作中でもそのことがあらわになる映画ばかりなので、監督は自分の作っている映画世界にこだわりがあるけど、そこに無理があることにも気づいてその綻びを放置できない……っていうやはり歪んだ自意識なのかなと思わされ、面白いです。
結末は『籠の中の乙女』に近いテイストでしたね。
性描写は少なくて、それが描かれる場面も、映画全体もその点では「生殺し」的でした(まさに……)。

というわけでまだキャリアの浅い監督で、あとは『聖なる鹿殺し
キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』『女王陛下のお気に入り』を観れば主要な長編映画はカバーできるのかな。
少なくとも『ロブスター』前半では「この監督、ものすごく好きかも」って思えたので、それらも観たいなって思います。

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