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【TV】THE DAYS

福島第一原発事故の映像化としては、同じ原作者の映画『Fukushima 50』がありますが未見。
NHKのスペシャルドラマで『NHKスペシャル 原発メルトダウン 危機の88時間』というのがあり、大杉漣&柄本明が防災服で対策にあたるという『シン・ゴジラ』そのもののビジュアルで思わず観てしまったものがありました。
もういかにも『シンゴジ』やりたいんだなあと思ったんですが、今調べると制作時期などはイマイチはっきりせず、果たしてそういう企画だったのか、確信は持てずにいます。

しかしそのドラマを見た時にも、政府や東電本社からの一方的な指示に翻弄されながら必死で原発を最悪の状態にしないための苦闘が印象的でした。
今回のNetflixドラマでは、吉田所長を役所広司が演じており、ドラマのクオリティは安定的に保証されており見応えは十分以上です。

現場の出来事をできるだけ事実に即して映像化する方針なので、ドラマは地震の直前から始まります。
正直なところ、毎回1回か2回は泣きそうになる、泣けてしまう場面があり、強く感情を刺激されました。
主な登場人物は東電職員というわけで、基本的にサラリーマンであるのに、被災者として身を守ること以上に、原発の暴走を食い止めるために必死の対処を強いられます。
警察消防自衛隊ならともかく、会社員としてそこまでしなければならないことを覚悟していたとも思えない人々が、躊躇なく危険に身を投じる様にショックを受け、涙を誘われました。

被災当初に亡くなった作業員の父親を演じる遠藤憲一、母親役の石田ゆり子も、見ていていたたまれなくなる思いでした。
母は息子が安否不明となっている不安に耐えきれず、ひたすら鶴を降り続けます。
東日本大震災以降、折り鶴は被災地にとって無駄どころか迷惑な存在といわれるようになってしまいました。
被災地に送られてもこまるのは当然ですが、この母が折り続けて大量になってしまった鶴にその思いが詰め込まれていて、複雑な思いにかられます。

ドラマとしては、その数日間にフォーカスしているために、原発や防災といった観点への知見は十分とはいえません。
作劇の都合で東電本社や政府が悪者扱いされ、現場にいる人の中に悪者的な人はいない人物配置となっています。
総理大臣役の小日向文代は終始苛立って周囲にプレッシャーを与え、挙句に現地にまで乗り込んではあまり役に立たないというヴィランとなっています。
しかし、曖昧な回答に終始し重要な情報をしめさない(ようにしているかに見える)東電幹部に豪を煮やし現地に入ろうとするのは理解はできます。

ではなぜ、首相と周囲、政府と東電の関係がそのようになってしまったのかはドラマはあまり語っていません。
当時の菅直人総理は「イラ菅」といわれ周囲に癇癪をぶつけることで有名でしたが、果たしてそれだけが理由なのか。
長年にわたる、政府と東電のいびつな関係が原因ではないのかと考えさせられます。
少し考えても、「安全な原発」という神話の維持のためだけに一緒に仕事してきたのが日本政府と東電ですから、それ以外のシナリオに対し極端に脆弱であり、トラブル時のプランが不十分だったであろうとは思わされます。
「想定外の津波」という原因自体がおかしいということも知っていますが、そうしたことをドラマが掘り下げてはいません。

そんなわけで、ドラマを見ることで、原発があってはならないとの気持ちを強く抱くには十分ですが、そこから「なぜ」「どうすれば」などの問いに対しては積極的な作品ではありませんでした。
そこから先は自分で知っていくことが必要、というタイプの作品です。
当時を思い出しながら、あの時こんなことがあったのだと生々しく感じることができ、あらためて原発や防災や関連政策に意識を向けることができ、非常に見応えがある作品でした。

それと、上で『シン・ゴジラ』について述べましたが、あの映画を観た2016年以降、TBSの『日本沈没』をみても、連休の渋滞の空撮映像をみても、今回『THE DAYS』をみても「シンゴジみたい」って思ってしまうことに驚きました。
『シン・ゴジラ』を観た時は、渋滞、震災、原発事故の映像を想起してそのリアリティに震えたわけですが、それらのビジュアルイメージがあの映画でいかに上手に活かされていたかということでしょう。
とにかく毎度、シンゴジの影響を思わずにいられず、すごいものです。

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