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シン・フォーメーション論で見るレアル・マドリード

こんにちは。

これを猛スピードで書いていたらオリンピックの3位決定戦を見逃すという大失態を犯してしまいました。かなり落ち込んでいます。RTやいいねで慰めていただけると嬉しいです。

今回はこれまでの試合のレビューや試合分析とは少し異なり、まず前半に本のレビューというか読書感想文というかそんなものを書いていこうと思います。そして後半に本の内容をふまえ昨シーズンのレアル・マドリードはどう解釈できるのか、また軽く今シーズンの展望を書いていこうと思います。本を読んでいない方でも後半部分は問題なく読める内容になっています(多分)ので、ぜひお読みください。

著者のプロフィール

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。twitter: @ryo14afd

footballistaから引用させていただきました。自分とは大学の直接の先輩にあたり昨シーズンまでは監督とテクニカルスタッフ(アナリスト)という関係性だったのですが、現在は水戸ホーリーホックのスカウティングアドバイザーをされています。


「システム思考」的なアプローチ

ここでいうシステムとは、いわゆるサッカーの[4-4-2]などのシステムとはまた別の意味のシステムです。複数の構成要素(選手、監督、ボール、ピッチなど)から成り、それらの間に相互作用が存在し、全体として単なる要素の総和以上の機能を見せるものを言います。システムを理解するには要素間の相互作用を理解する必要がありますが、いわゆる複雑系という、要素が多数存在するシステムに関しては、組み合わせ爆発じゃないですけれどモデル化や処理に限界がある。連続的な時間軸上で刻一刻と状態は変化するし、それに構成要素は各々がその一瞬一瞬で意思決定を行い、しかもその意思決定は必ずしも合理的でなく不確かさを含むとなれば、非常に難解な問題になるわけです。このカオスこそがサッカーの面白さでもあるわけですが。

上記のことに関してはもう一つの著書『「戦術能」を鍛える最先端トレーニングの教科書』にもっと詳しく書かれていますが、今回の本を読んで感じたこととしては「あの本の続きっぽいな」ということです。というのも、この意味での「システム」や「複雑系」というワードが何度も登場するわけではありませんが、サッカーをより深く理解するためのアプローチそのものが「システム思考」的であると思ったということです。このことについてネタバレしない程度に(いや、してます)内容に触れつつ詳しく説明していきます。

当書はサッカーにおける配置(フォーメーション)論を再考することを最終的な目標に据え、そのためにまず「サッカーとは何なのか?」を考えるところから始まります。その問いに対し「サッカーとはすなわち、ゲームである」という仮説を立てそれを複数の論文を根拠に証明しています。ゲームを定義付ける項目を挙げていますが、特にフィードバックや自発的参加のところの説明は深くなされています。仮説を立証した後は、「ゲームメカニクス」と呼んで5つの要素を含むゲームの構造を明らかにし、それを類似の構造を持つチェスや将棋、戦争にあてはめて特に自由度という観点から比較することによりサッカーの位置付け、理解を深めるということを行っています。

先に挙げた本では、「サッカーはシステム(の中の複雑系)に属する」と言っていました。一般にシステムには「同型性」が見られ、同型性とは主に科学技術など広い分野で、異なるものや現象に対して同様の法則や概念を適用できることを言います。有名な物理現象の例を挙げるとすれば、単振り子の振動とコイル・コンデンサの電気回路振動の関係性でしょう。これらが同じ形の方程式で記述できるということは高校物理で学習した方もいるかと思います。もっと身近な例として、いまだ世界中を脅かし続けている新型コロナウィルスの感染拡大と、新商品や新サービスの流行も基本的に同じモデルで記述されます。個別のシステムから抽象度を上げていってある分野の一般理論を議論した後、同型性を持つ複数のシステムに演繹的にその理論を適用し比較することで、個別ではわからなかった部分を理解することができます。その一般理論というか上位概念みたいなものが当書でいうゲームで、その同型性を持つ複数のシステムというのが、当書でいうサッカー、ラグビー、チェス、将棋、戦争であるということです。こうしたアプローチを特別に「システム論」だとか「システム思考」と呼ぶことがありますが、このアプローチの仕方こそ、専門用語っぽいものが多く一見難しく見える本にも関わらず、内容は非常に論理的で理解しやすくなっている大きな理由なのかな、と思いました。めちゃくちゃ面白いです。

オフサイドや、ルールの違いを用いて同じスポーツであるラグビーとの比較をわかりやすく解説し、さらに本格的なフォーメーション論に踏み込んでいきます。戦争ほどでないにせよ、チェスや将棋と比べたらはるかに自由度の高いサッカーではモデル化が難しいわけですが、それを少数の説明変数に落とし込みシンプルにしていく、ということをしています。個人的には選手22人の位置を「スペース」と「選択肢」に変数変換したところや、「スペース」の価値の高さを表した3次元図、フィードバックには階層性があり『スーパーマリオブラザーズ』との「同型性」を見出したところあたりでだいぶテンションが上がりました。

フォーメーションには階層構造があり、よりミクロなところの動的な配置構造を深堀りするため、いよいよネットワーク科学を用いたアプローチを行うのですが、このアプローチも本の中で例に挙げられている通り本来であれば全然違う分野で使われているものらしいのです。そんなところから引っ張ってきて、というかサッカーへの理解のために一見何も関係ないところから着想を得て、あらゆる角度から攻め立てる、というのが本当にすごい。ただ、ここまで考えてみて改めて、この着想の背景にははっきりと「サッカーはシステムに属する」があるんだろうな、と思いました。

さて、ここで終わってしまってはタイトル詐欺になってしまうので、後半はこのシン・フォーメーション論をふまえて昨シーズンのレアル・マドリードを振り返ってみようと思います。


レアル・マドリードの守備ネットワーク

まず、レアル・マドリードのフォーメーションの階層構造を確認します。当書では、戦術が高度化し、攻守など局面に応じて異なる構造に変化することが日常的となった現代において、フォーメーションの数字の羅列だけでそのチームの特徴や試合を言い当てることはもはや難しく、とはいえその数字の羅列が全く意味を成さなくなったわけではないということが繰り返し述べられています。ではどのように分析するかという新たなフレームワークとして、攻撃・守備それぞれの基底フォーメーションとそれらを結ぶ中間的なホームフォーメーション(上の階層)、ミクロなポジションチェンジなどの動的な配置構造(下の階層)を上から分析していく、というものが提示されています。数字の羅列としての有用性の低い動的な配置構造においても、各選手のタスクをポジションから想起させるという意味で、その数字には一定の価値があると述べています。

レアル・マドリードのホームフォーメーションは[4-3-3]と表記されることがほとんどですが、大きな異論はありません。仮にフォーメーション表記するとすれば、レアル・マドリードの守備の基底フォーメーションは[4-1-4-1]攻撃の基底フォーメーションは[2-3-5]あるいは[3-2-5]であり、それらを結ぶ中間状態としてわかりやすいからです。守備が優先されやすいことを考慮すれば、[4-1-4-1]としても問題はないでしょう。ネットワーク科学において、何をノード(構成要素)に、何をリンク(要素間の相互作用)にするかによってわかることが変わるということが述べられており、サッカーの試合においてはノードは各選手に固定されます。攻撃においては、パス本数をリンクとしたパスネットワーク図(パスマップ:以下の図)が有名ですが、守備におけるリンクは「ディアゴナーレの形成」とすることでより現象を理解できることが説明されています。

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まずディアゴナーレとは、中盤ライン、最終ラインなど同一ライン上で、ある選手がボールホルダーに出ていった際に隣の選手が斜め後ろに絞ることで空いたスペースを消したりパスコースを遮断したりすることです。当書では、同一ラインでは常にディアゴナーレを組むのでこれを「強い繋がり」とし、別々のラインの選手同士が状況に応じてディアゴナーレを組む場合、ここの繋がりを「弱い繋がり」としていました(ここで[4-3-3]と[4-1-4-1]という表記上の違いは実際何が違うのかという話題に関し非常に丁寧に解説しています)。これを元に、レアル・マドリードの守備ネットワークを表現すると以下のようになります。

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レアル・マドリードはブロック守備とハイプレスを明確に使い分けますが、ブロック守備はこのように[4-1-4-1]の形です。IH(インサイドハーフ)の片方が状況に応じてカバーシャドウ(背中でパスコースを消しながらボールホルダーにアタックすること)しながらCFと同一ラインを形成するのでここに弱い繋がりが存在し、また特に5レーンを埋めてくる相手に対してはSHの片方が最終ラインに吸収されます。昨シーズンはラ・リーガ前半戦のマドリッドダービーにおけるバスケスや、クラシコにおけるバルベルデなど、そのような相手に対し守備意識の高い選手をSHに起用する傾向が顕著でした。IHがラインを出ていく際に中央に大きなスペースができないよう、プレス開始位置は低く、縦に非常にコンパクトです。そして、最も大きな特徴として挙げられるのが両CBとカゼミーロの強い繋がりでしょう。コンパクトとはいえ、ライン間、Ac(アンカー)脇のスペースに縦パスを通された際CBが最終ラインを飛び出してでも捕まえにいくことが明確な原則として存在し、さらにそれとセットでカゼミーロがカバーリングに入ることが徹底されています(ちなみに、当書で述べられているAc脇というスペースは本来存在しないという話も面白いです)。このように中央をガッチリとプロテクトし、相手の攻撃をサイドに誘導してクロスやドリブル突破を対人に強い選手たちがはねかえす。これがクラシコやCLリバプール戦2ndlegを筆頭に強固なブロック守備を形成した所以でしょう。また、[4-4-2]との違いとしてカウンター時に両SHが比較的高い位置をとれることが挙げられますが、高確率でカウンターの起点となり絶大な存在感を発揮したベンゼマ、それを追い越していくヴィニシウスというパターンは何度も見られました。

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当書には「ボール(攻撃権の占有)の奪い合い」において、守備側の目的は「攻撃側のスペースと選択肢を奪い、ボールを奪う」ことであり、ハーフウェーラインより前の敵陣ではオフサイドによりスペースを制限できないことから、ハイプレスにおいて動的に配置を噛み合わせる(部分的なマンツーマンを採用する)チームが多いということが述べられています。簡単に言えばゾーンディフェンスはスペースの制限、マンツーマンは選択肢の制限であり、何を優先するかなどの違いは詳しく説明されています。レアル・マドリードも例外ではなく、むしろはっきりとハイプレス時には配置を噛み合わせ、これまでの記事でも何度か同じ表現を用いてきましたがオールコートマンツーマンに近いハイプレスをかけにいきます。2枚のCB+Acという構造でプレス回避を行うチームがほとんどですが、これに対しCF+2枚のIHで噛み合わせ、両SHが中央に絞ります。表記としては[4-3-1-2]が最も近く、ただし中盤の横幅を3枚という少ない人数で守ることになるため、サイドにボールが出たらSBを縦スライドさせてサポートします。また、CBも中盤まで迎撃に行くことが珍しくなく、この点は特徴的でしょう。これらをネットワーク図にすると上のようになるわけです。


レアル・マドリードの攻撃ネットワーク

次に攻撃ネットワークを考えます。まず、昨シーズンのラ・リーガ前半戦マドリッドダービーにおけるレアル・マドリードのポジションチェンジネットワークを見てみましょう。

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ポジションチェンジネットワークの詳しい説明は省略しますが、ピッチを横方向の5レーンと縦方向の3ラインで5×3に区切り、2部グラフの考え方を用いて、区切られたスペースのうち「同じスペースをよく共有する選手同士をリンク(図中の波線)で結ぶ」ということをしています。

この図から読み取れる情報は興味深いです。まずヴァラン、ラモスの両CBやカゼミーロ、ヴィニシウスなどはポジションチェンジに多く絡まず、特定のエリアで求められるタスクをこなす選手であるということです。クロースに関しては、左サイドの浅い位置に落ちるいつもの様子が表れていると言えるでしょう。一方で、ベンゼマやモドリッチはポジションチェンジの中心であり、それぞれのスペースで求められる能力を兼ね備えたユニバーサルな選手であることを示しています。彼らが相手の守備陣に認知の負荷をかけているのです。事実、この試合ではアトレティコ・マドリードはスアレスとフェリックスの2トップで[5-3-2]の守備をしており、彼らの守備貢献度が低く中盤の脇のスペースからモドリッチを起点にブロック内に侵入して相手を押し込むことに成功していました。図からは普段は左を好むベンゼマが右サイドの選手と頻繁にポジションチェンジしていることがわかりますし、試合内容と照らし合わせて見ても納得がいきます。

試合を見てカウントした際には主観的な要素を含みましたが、あくまで定性的な議論であることは当書でも断られており、今後GPSデバイスなどを用いてこうしたネットワーク図を算出できるようになると面白いです。

「ボール(攻撃権の占有)の奪い合い」ともう一つ、「ゴール(得点/失点)をめぐる攻防」において、攻撃側はより価値の高いスペースと選択肢にボールを運ぶ必要があります。まず、レアル・マドリードはこの局面において[2-3-5]あるいは[3-2-5]、つまり当書でいうところの①距離感/幅5レーンを埋めるタイプに分類できます。②後方の配置両CBと3枚の中盤(そこから主にクロースが最終ラインに落ちる)、前線は両SBを加えた5枚という構造です。③流動性についてはもう少し詳しく分析します。数字で表記したは良いものの、例えばチェルシーのように割と固定的で静的なスタイルではなく、選手にはかなりの自由が与えられており、カオスの度合いは高いと言えます。WG(SH)とSBの片方が幅を取るなら、もう片方がハーフスペースに侵入するなどプレー原則の存在は確認できますが、その先は完全に選手依存であるが故ベンゼマが離れてゴール前に人数がいないとかいう問題が生じます。それを補うためにカゼミーロを前線に送り込むなどジダンが試行錯誤していたことは伺えますが、そもそもSBを高い位置に上げていることもありネガティブトランジションのリスクは大きく、諸刃の剣でしょう。ちなみに、5レーンを均等に埋めるというよりかは、片方のサイドに密集+アイソレーションで崩すというパターンが多いです。


今シーズンの展望

さて、ここまで当書のフォーメーション論をレアル・マドリードにあてはめて分析してきましたが、さすがに長くなってしまったのでこれらの分析から最後に今シーズンについて書いて終わろうと思います。

【1】アラバがCBとして適応できるか

【2】特定選手への過度の負担を分散できるか

【3】最適なカオスの度合いを見つけ崩しの質を高められるか

簡潔に書くとこの3つに注目しようと思っています。まず【1】ですが、守備ネットワークの項で説明したように、レアル・マドリードが強固な守備ブロックを形成できたのは、結局のところ対人・空中戦に強い「4人のCB」がいたという側面が大きいです。そのうちの2人は退団が決定しました。ハイリスクで攻撃的なハイプレスはそもそも1シーズンを通して行うのはフィジカル的に不可能であり、ブロックを組んで臨む試合は必ず待っているわけです。アラバがその役割を全うできるのか。またそのハイプレスにおいても、CBが相手の攻撃陣を質で上回ることが必須です。昨シーズンは縦スライドしたSBの裏を使われての失点が目立ちましたが、そこのところもどこまでカバーできるか。

【2】について、ハイプレスでは2人とも最前線に駆り出され、攻撃では最終ライン付近に落ちビルドアップの絶対軸として振る舞うモドリッチ(35)とクロース(31)にこれまでと同じ負担を強いるわけにはいかないということです。ポジションチェンジネットワークでも示したようにモドリッチは崩しの局面でもカギを握り、またブロック時にチャンネルをカバーすることもあればネガティブトランジションで全速力シャトルランをすることもしばしば。明らかに負担は大きく、35歳でありながらハイクオリティでフル稼働した彼はもはや人間の常識を超えていました。層は決して厚いとは言えない中、バルベルデ、ウーデゴール、イスコだけでなく、ここにおいても配給マシーンであるアラバにかかる期待は大きいです。

【3】はこれまで他の記事でも繰り返し述べてきましたが、当書の内容で補足します。守備組織の急激な高度化が進んだ現在では、「自由なポジションチェンジ」や「選手のアイディアに任せた攻撃」は通用しなくなってきています。ロナウド移籍後の、個の質が不足し目に見えて得点力が落ちていること、ベンゼマへの依存、これらを解決するには「適度な制約と適度な自由」を選手たちに与え、意思決定基準を揃えることによりレジリエンスを保ったまま(リスクを抑え)、創発性を高める(バタフライ効果的に高い崩しの質を発揮する)ことが求められているはずです。プレシーズンのレンジャーズ戦を見る限りアンチェロッティはジダンのやり方を踏襲する方向なのだと思いますが、限られた戦力でどこまで戦えるか、いちファンとして応援していきたいと思います。


おわりに、ついでですが前回の記事を載せておきます(ただの宣伝です)。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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