『ヴィーガンズ・ハム(2021)』を観ました。
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こんなブラックジョークのキツいフランス映画をあんまり観たことがない、これはあまりにブラックすぎます。
日本語のタイトルが一番露骨にネタバレしているかもしれないです。『ヴィーガン』と呼ばれる人は卵・乳製品・はちみつも口にしないので、肉や魚を食べない『ベジタリアン』よりもっと制限が厳しいです。
そして、そんな『ヴィーガン』さんたちのハムのお話ですので、血肉が飛び散るような刺激が強い映像が苦手な方はお遠慮ください。
今作はフランス映画で、フランス語タイトルは『barbecue(バーベキュー)』です。次に英語タイトルは『Some Like It Rare(珍しいのが好きな人もいる)』で、さすがに英語でバーベキューだと日本語で『肉の丸焼き』みたいになるので避けたのでしょう。そして日本語タイトルは『ヴィーガンズ・ハム』です。
今作はお肉屋さんの夫婦が、『ヴィーガン』さんたちのハムを売ってみたら、お客さんが「この肉おいしいね」と言って、なんだか繁盛してしまったお話です。
だからって全然殺伐となんかしていないくて、明るいコメディーです。
私は観てて笑ってしまって、息を吸うのが追いつかないくらい笑ったところもありました。
まず今作は『ヴィーガン』や『ベジタリアン』への風刺が効いています。自分たちが肉を食べないのはいいとして、何故に肉屋を襲撃する必要がある? 肉を入れとくケースのガラスを割って、なんでペンキまでぶちまけるのだ? お肉屋の店主としては悔しさで泣けてきます。
崖っぷちに立たされた男の店主は「魔が刺した」みたいなことでやってしまうのですが、妻はそれを「飴と鞭(アメとムチ)」で絶妙に続けさせます。計算的とか罪悪感とかを遥かに超えたキャラクターの妻が最高です。自信のない夫と、尻を叩いて焚き付けるような妻の姿が、今の夫婦像という感じがします。
でもその面だけではなくお話を見ていると、肉を食べてる方の人の姿が、なにか滑稽に見えてくるので不思議です。もしかしたら、全方位に向けて風刺が効いている作品なのかもしれないです。
さすが風刺の盛んなフランスの映画で、「よくそんなことが言えたもんだな」と怒る人がいるであろうくらい、アメリカ、ドイツ、イスラエルまでもがポンポン軽快にネタにされている。
どちらかと言うと、フランス映画などヨーロッパの映画ってのは「なにを言いたいのかよくわからないです」という作品のイメージがあって、こういうわかりやすいブロックを積み上げていくようなお話は、アメリカ映画とかが得意のように思うのです(日本は「なんだか深刻な話を深刻に描いてて疲れます」の印象があります)。
わかりやすいブロックでありながら表面的だけではなく、結構内容の濃い色のブロックを、独特な積み上げ方をしていく。面白く一気に観てしまって、観終わるとなんだかズッシリ濃いものが伝わってきている。
いつでもリモコンのボタンで停止できてしまうサブスク配信時代の今では、こういう作品は強いかと思います。
私は今作に愛おしくなるキャラクターがいて、それは人を疑ったりしない素直なウィニーさんです(皮なしソーセージみたいな名前)。
『くまのプーさん』のことをフランス語では『Winnie l'ourson(ウィニーのデディベア)』と言うようです。なので日本語での「プーさん」は、フランス語では「ウィニーさん」になるようです。
「それがどうした?」とか言われたら、ちょっと困っちゃうのですが。
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