君は山田太一のドラマ『シルバーシート(1977)』を観たか!
寺山修二で人生が変わった私であるが、山田太一のドラマが特に好きであった。
そんな私は、だいぶ後になって寺山修二と山田太一はお友達同士であったのを知った。
寺山修二がアバンギャルド(前衛)というのは当然であるが、実は山田太一がとんでもない攻めた作り手というのは、みなさんご存知でしょうか?
『シルバーシート』は男たちの旅路(三話で1シリーズ)の中の一話であり、第三部の一話目のお話である。
(GayoやNHKオンデマンドの配信、GeoのDVDレンタルもあります)
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201200103400000/
今作の『シルバーシート』は国際空港からはじまる。
昔を懐かしんで話をしてくるので、警備員の中ではロンドンと呼ばれて煙たがられているお爺さんの本木(志村喬)が、空港警備の悦子(桃井かおり)と陽平(水谷豊)に話しかけるが、二人ははぐらかして話を聞かずに避ける。ある日お爺さんの本木が空港ロビーで倒れて、そのまま亡くなってしまう。
お爺さんのことが気にかかった二人の警備員は、亡くなったお爺さんの住所を尋ねる。すするとそこは老人ホームで、そこで空港で亡くなった本木の友人4人に会う。この4人の老人はある計画を実行する。それは『都電に立てこもって、都電ジャックをする』というものだった。
ここで登場する老人ホームの4人の老人が笠智衆さん、加藤嘉さん、藤原釜足さん、殿山泰司さんです。ここまでのレジェンドの老人をごくごく簡単に紹介。
このドラマがお茶の間の視聴者に投げたのは「保護されている側の老人は、迷惑をかけないように生きていかないといけませんか」というもの。
このテーマを1977年という、王選手がホームラン世界記録 756号を達成した年、ピンクレディーの渚のシンドバッドがヒットした年、日本赤軍による日航ハイジャック事件があった年に、お茶の間に投げ込んだのはとんでもなく攻めているし、よくこんな攻めた話を作れたものだと思います。
最初の空港のシーンで、二人の警備員に迷惑がられたところでお爺さんの本木が「そうやっているのも若いうちだけだ」と言う。
吉岡司令補(鶴田浩二)が「こんなことするべきじゃなかった」と都電から出てくるように説得しても、老人の笠智衆は「私たちはだだをこねて、押し入れに閉じこもった子供です」と言い切る。
さらには老人は「私たちが黙々と働いてきたあげく、使い捨てられたんだ。いずれあんたもそうなるんだ」と言う。
一般世間の人から見たら「身体が不自由だったり弱いという立場の高齢者のためにシルバーシートというものを特別に作ってあげているのに、そんな高齢者が反撃してくる」という。思わぬ人が思わぬ行動を起こしてくるというお話。
これって、描き方によってはホラーのような怖さすらありますし、このテーマでアメリカのA24 (尖った内容の映画を制作配給してる会社)あたりが作ったら、世界で受けそうなもの。
このお話をレジェンド老人俳優を揃えて作った山田太一という脚本家が、いかに先鋭的であったのかは、あまり評価されていないように思います。
山田太一=辛口ホームドラマみたいな表現をされることが多いですが、その程度の言葉では語り尽くせていないと思うのです。
この後山田太一は『男たちの旅路第4部:車輪の一歩(1979)』で車椅子の障がい者の話を書いています。
こんなに攻めた内容で描くテレビドラマ脚本家を私は知らないです。
寺山修二だけでなく、山田太一も実はアバンギャルド(前衛的、革新的、実験的)であったのだと思います。それなのに、まるでお茶の間に普通に座っているような扱いになっているというのが、どうも「実は違うんじゃないか」っていう気がするのでした。
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