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『月(2023)』を観ました。

このお話はフィクション(原作は辺⾒庸による小説『⽉』)ですが、実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした作品です。なので、最後には事件を実行しているところも描かれます。確実にしんどいのでそこは観る前に少し覚悟がいります。

脚本・監督は石井裕也(『舟を編む(2013)』とか好き)。
主演は宮沢りえ。共演はオダギリジョー磯村勇斗二階堂ふみといったキャストですが、一部障がい者の方々も出演しています。

障がい者殺傷事件というとてつもない『暗闇』を描くのですから、それにバランスが取れるくらいの『明るさ』がないと最後まで引きつけることが難しいでしょう。宮沢りえ、オダギリジョーの配役でそこを乗り越えたいところです。

しかし、主人公の洋子(宮沢りえ)はかつて小説で賞を受賞した小説家ですが、今では全然書けなくなってしまっていますし、夫の昌平(オダギリジョー)も部屋で人形アニメを作っていますが、特別注目を集めているわけではないです。
では、障がい者施設で働く洋子の同僚の陽子(二階堂ふみ)はどうかと言うと、(洋子と同じように)小説を書いてはいるがコンテストには落選続きで、自分は才能がないと悩んでいたりします。

何故か主要登場人物が皆んな、なにかをモノ(小説、人形アニメ、絵)を作る人だったりして、これでは作ったりしない人には感情移入しずらい(「才能があるかないかとか」知らんがな)のではないかと思いました。
こんなことでは『明るさ』が弱すぎて、圧倒的に『暗闇』に押されてしまいそうです。

しかも、洋子(宮沢りえ)は過去に昌平との子供を出産しましたが、心臓疾患があって3年で亡くなっています。
ここはみんなで力を合わせたいところなのに、陽子(二階堂ふみ)は家での飲みの席で、かつて賞を受賞した洋子の作品に「都合のいいキレイごとだけ描いて、闇を描いていない」などという指摘をわざわざ言う(作る人に言ったらいかんでしょう)。同じ同僚のさとくん(磯村勇斗)も「死刑の瞬間は糞尿を撒き散らすそうです」などと言い出して最悪な空気になる。
どうしましょう、こんなことでは最後に行き着く『暗闇』にかなわないかもしれません。

これで144分を乗り切るのはかなししんどいです。サブスクであったら3回は止めないと、最後まで観れないかもしれないくらいです。

あと、結構セリフで言うところが多くて、そこはできたら『言葉』ではなく起きる事を『動き』で見せてくれると助かると思いました。話を聴いてるよりも映像で見せて欲しいのです。
例えば、表面的には相手を受け入れてるようでも、深いところでは自分が一番正しくて他は間違っているような場合は、『言葉』と『動き』がチグハグになったりするようなこともあります。
一見まともに見えるが実はヤバい奴とかであれば、言っている言葉なんて、本当かウソかわからなかったりします。

ここまでの脚本にするのは想像できないほど大変な作業だったとは思いますが、内容がキツい作品であるので「なんとなく観ているだけでも、テーマが伝わってくるような描きかたができてたらよかったなあ」とか思ってしまいました(例えば『パラサイト 半地下の家族』なんかは観やすかったです)。

小説では障がい者施設で寝たきりになっている一人の独白という形式で描いているようで(すいません、まだ冒頭しか読んでいません)、かなり通常にない形式でありますが、そうでもしないとこの事件のとてつもない『暗闇』には向き合えないのかもしれません。

多くの人に観て欲しいとは思います。
でも、きっと興味のない人にはかなりしんどいことになりそうで、なかなか誰にでも勧めるのは難しい作品でもあります。

「多くの人が目を背けるような『暗闇』をどう描くか」これは大事なことだと思いますし、簡単ではないかもしれません。
私は「これは作るのは大変だったろうなあ」と思い、パンフ(1300円読み応えあり)も買ってしっかり読んでしまいました。

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