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環境白書は情報の宝庫 20230614解説

今年も環境白書が公表されました。毎年6月です。以前は閣議決定されてから、印刷物で書店・官報販売書などに並ぶまで1ヶ月ほどかかっていましたが、今はすぐにWEBで見ることができます。

「ネイチャーポジティブ」前面に、脱炭素など連携も 環境白書

今年の白書はこういうことですが、そもそも環境白書って、いつから発行されて、過去はどういう内容だったのでしょうか。

正式名称は「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」

元々は「公害」白書でした。それが「環境」、「環境・循環型社会」、そして「環境・循環型社会・生物多様性」と、だんだんと文字数が増えてきました。経緯は以下の通りです。

  • 公害白書:昭和44~46(1969~1971)年版

  • 環境白書:昭和47~平成18(1972~2006)年版

  • 環境白書・循環型社会白書:平成19~20(2007~2008)年版

  • 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書:平成21~令和5(2009~2023)年版

これは、基本法の制定や、環境庁の設置といった環境行政における画期を反映しているのです(実をいうと、基本法で、白書の発行を定めている)。

  • 1967年に公害対策基本法が施行➡公害白書

  • 1971年に環境庁設置➡環境白書に変更

  • 2001年に循環型社会形成推進基本法が施行➡循環型社会白書として独立して発行➡環境白書と合本して環境白書・循環型社会白書に

  • 2008年に生物多様性基本法が施行➡環境白書・循環型社会白書に加えて生物多様性白書も合本で発行=現在の形

大学生に、「環境問題を列挙してみて」と言うと・・・

私は2003-06年にかけて立教大学観光学部で「環境社会学」、2018-19年にかけて関東学院大学建築・環境学部で「環境マネジメント」の講義を担当しました。当時の立教大学生は、卒業後20年近く、40代前半くらいの年代ですから、中堅どころとして活躍されていることと思います。当時の関東学院大学生は、新卒3年以内くらいの若手です。

時期は離れていますが、6年間、初回の講義では必ず「自分が知っている・教わってきた環境問題を列挙してみて」という課題を出してきました。

すると、時期を問わず、上がってくるのは、温暖化、森林破壊、オゾン層破壊、砂漠化、等々の、いわゆる「地球環境問題」ばかりです。「もうない?」「ほんとに?」と聞いても、「もうないです」。

じゃあ、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭という、「典型7公害」は、こういうのもあるよね、と言って始めて、「あぁ~、そういえば」。これらの問題が規制され、対策がとられ、効果を発揮し、相当程度の改善がみられて以降に生まれ育った世代なので、仕方がないと思う一方、高校生までの環境教育は、ずいぶんと偏っていると感じました。

環境問題の歴史を勉強するなら、初期の環境白書を読むべし

日本の官公庁文書は、今は基本的にWEBで公開され、検索・閲覧・ダウンロードも容易ですが、2000年よりも前、20世紀時代のものになると、デジタル化されていなかったり、画像データでWEBに載っていてテキスト検索ができないものが多くなります。
そうした中、環境白書は初版の昭和44(1969)年版からHTML化されており、過去半世紀ほどの環境問題と環境行政の歴史を知るのに、もっとも信頼できる情報源の1つといえます。

たとえば昭和48(1973)年版の環境白書

ちょうど50年前ですね。
本文は、下記のように始まっています。サステイナビリティのルーツがここにあります。

環境汚染は、いまや人類共通の最大の課題となった。
 「われわれは、歴史の転回点に到達した。いまやわれわれは、世界中で環境への影響に対し一そう思慮深い注意を払いながら行動しなければならない。無知、無関心であるならばわれわれの生命と福祉が依存する地球上の環境に重大かつ取り返しのつかない害を与えることになる。」
 昨年6月、ストックホルムで開かれた国連人間環境会議は、その人間環境宣言で、このように環境汚染に対する挑戦ののろしをあげた。


「歴史の転回点に達し」てから50年たちますが、まだ転回しきっていない、というより、ようやく転回が始まったかどうかぐらいで、いよいよ「地球上の環境に重大かつ取り返しのつかない害を与え」かねないので、「Transformation」(2030アジェンダ)が必要とされたわけです。「転回」を今風に表現すると、SX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)とかトランジション(移行)、というわけです。

また、資源・エネルギー制約についての問題意識も明確でした。白書の発行は5月でしたが、この年の10月に第一次オイルショックが始まり、その問題意識が(戦争をきっかけとする形でしたが)すぐに現実化したのです。ちなみに、白書発行時の環境庁長官は三木武夫さんで、翌年、総理大臣としてオイルショックに立ち向かうこととなりました。

 人間活動の拡大にとって不可欠の要素である資源消費の増大は、環境問題の発生と密接に関連しているが、近年環境問題の重大性が認識されるようになるにつれて、資源の利用のあり方そのものを変えることによって環境問題に対処しようとする動きがみられるようになってきている。
 こうした対応の第1にあげられるのは、環境汚染をもたらさないような資源利用への転換である。(略)
 第2はクローズド・プロセス技術の採用、資源の再利用の動きである。
 資源の生産から消費に至る過程から汚染物質を出さないようにすれば、環境との摩擦を引き起こさずにすむ。また、資源の再利用は、資源の消費量そのものを節約することとなり、さきにみたような資源消費の増大からくる環境問題の発生をなくす方向に作用する。(略)

これ、サーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方そのものです。1977年生まれのエレン・マッカーサーが、サーキュラーエコノミーに取り組み、その概念を世界に広めたのは21世紀になってからのことですが、彼女が生まれれる前から、考え方としてはそりゃそうだろうという話だったのです。エレン・マッカーサーは、いわば「中興の祖」といえるでしょう。

というわけで、最新版だけでなく、むしろ過去の環境白書ほど、学びが多いと思います。

おまけ:環境省五十年史もよい史料ですよ

解説者紹介

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  • 1回目:キーワード解説集として読む。基本的に、1キーワード3論点でまとめてあります。問題は解かずに、解説を読んで内容を理解する。それから、「どこを問題にしたのかな?」と問題文の選択肢と、解説文を見比べる。そして、不正解肢はどれで、解説文のどこをどう変えたかを確認する。

  • 2回目:知識の定着度を確認するために、問題を解いてみる。そのときに、1回目の思考のプロセスを思い出す。

  • 3回目~:実際に銀行業務検定試験を受ける方は、全問正解になるまで繰り返す。