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プラスチックの外部不経済 20230606解説

今年の世界環境デーのテーマはプラスチック汚染の撲滅。日常生活でも、日常生活からは見えない産業活動においても、とても便利なプラスチックですが、その利用に伴う「外部不経済」が思いのほか大きく深刻であることがわかってきました。

「プラスチック汚染の解決策」にちなんだクイズ

40年ほど前、フロンの利用に伴う「外部不経済」として、オゾン層の破壊が明らかになり、速やかに対策がとられ、目に見える成果が確認できるようになってきました。
一方、同じく40年ほど前から、化石燃料の利用に伴う「外部不経済」として気候変動(人為的温暖化)が、仮説ではなくて現実に進行しているという科学的証拠が確かになってきましたが、こちらは対策はなかなか進まず、そうこうしている間に、「いよいよ待ったなし」の状況になっています。

プラスチックは、どちらの道のりを歩むことになるのでしょう。

さて、プラスチックが発明されたのは150年ほど前。日本でいうと明治の初めのころ。当然、それ以前はプラスチックごみは存在しませんでした。
様々なプラスチックが開発され、様々な用途で大量に使用されるようになったのは、第二次世界大戦後。せいぜい60-70年の歴史です。
日本のごみ組成分析のデータをみると、清掃法時代(1954-1970年)に、プラスチックごみが劇的に増加しています(粗大ごみも、急増しています)。
ごみ収集ルートに乗ったプラスチックは、燃やせば高温すぎて焼却炉を傷めるし、埋め立てればかさばって最終処分場の寿命を縮める厄介者で、自治体は対応に苦慮しますし、結果、自治体ごとに可燃ごみになったり不燃ごみになったり、対応が異なりました。
そして、観光地でも商業地でも住宅地でも、散乱ごみの問題が顕在化します。散乱ごみといえば、空き缶、吸い殻、プラスチック製容器包装が目に浮かびます。ごみ収集ルートに乗らなければ、散乱ごみになるわけです。
陸上の散乱ごみが河川を通じて海に流れ込むと、海洋プラスチックとなり、それが再び陸地に漂着すると、漂着ごみとなります。1990年代から、これに着目した研究が行われ始めましたが、社会的な注目を集めるのにはだいぶ時間がかかりました。
2010年代になって、海洋プラスチックごみの問題が世界で注目を集めるようになりました。
2050年には海の中の魚よりプラスチックの方が多くなるというエレン・マッカーサー財団による報告、鼻にプラスチックストローが刺さった海亀の動画、そして5mm以下の微小なマイクロプラスチックの実態が明らかになってきたことなどによります。
環境中のプラスチックは、単に散乱ごみ・景観上の問題というだけでなく、生物・生態系に大きな悪影響を及ぼし、マイクロプラスチックは魚を食べることを通じて人間も摂取していることがわかってきたので、健康問題の観点からも関心が寄せられています。

さらに、マイクロプラスチックは、化粧品類の成分や肥料カプセルなどの製品そのものに由来していたり、洗濯から生じていたりもするので、散乱ごみ対策の範疇にはおさまりません。

そういうわけで、ここ数年で、脱プラスチック(プラスチック使用禁止・削減、代替素材への転換)の流れが怒涛の勢いで進んでいますが、一方で、解決策として期待されるリサイクルが、かえってマイクロプラスチックを増やしている!とか、生分解性プラは実際の環境(海)の中では分解されない!といった報告も出てきています。
パリでは1日50kgのプラスチックが降る!のだそうですが、そうであれば、世界のほかの地域でも、面積当たり同じくらいは降るのでしょう。つまりプラスチックは海だけでなく、大気循環・水循環に乗って、環境中に拡散しているわけです。
そうなると、やっぱり「元を断たなきゃダメ」だろうということで、生産規制も俎上にのっているプラスチック条約、2024年中の制定を目指して交渉が進められています。
個人的には、一度経済活動に入った樹脂は、その中で可能な限り循環させ続けるという点で、一度モノマーに戻して(ライフサイクルで高まった「エントロピー」をリセットして)樹脂として再生するケミカルリサイクルが、そのコスト(お金とエネルギー)をどれだけ低減できるかに期待しています。
・・・
遠い未来に地質学者がいて、その頃には地下深くになっている現代の地層は、放射能エイジ、コンクリートエイジ、あるいはプラスチックエイジ、あなどと考えるのではないかと思っています。白亜紀末の5回目の大量絶滅のときには、隕石由来のイリジウムという元素が地層に特徴的に含まれていました。未来の地質学者は、6回目の大量絶滅をもたらしたのは放射能か、コンクリートか、プラスチックか、それとも、それらすべてをもたらした謎の生命体がいたのか、などと頭をひねるのではないでしょうか。

プラスチックの歴史

プラスチックごみの なにが問題なの?

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202102_07.pdf

プラスチックを含む海洋ごみ(漂流・漂着・海底ごみ)対策

2050年の海は魚でなく、プラスチックで溢れかえる

【動画】鼻にストローが刺さったウミガメを救助 南米コスタリカ沖で研究者が発見

「海の砂漠」は、世界有数の透明度の高い海域“ブルーオーシャン”だった

洗濯時にマイクロプラスチック放出を防ぐ、7つの方法。アースマンスにチェック!

プラスチック被覆肥料の被膜殻の流出防止について

プラスチックをリサイクルする過程で、大量のマイクロプラスチックが放出されている:研究結果

生分解性プラスチックが海の中で分解されないことが判明

「今日のパリの天気は雨ときどきプラスチック汚染」、初のプラスチック予報でパリには1日50kgのマイクロプラスチックが降下するとの予測

「世界のプラごみ、40年までに80%削減可能」 UNEP報告書

11月までにプラ条約草案作成で合意も、各国の隔たり大きく

産官学協働で複合プラスチックのケミカルリサイクル技術の開発と実用化を加速 -「複合プラスチックからのモノマー回収液相プロセスの開発」がNEDOの委託事業に採択-

国連事務総長のメッセージ「今行動すれば、プラスチック汚染は撲滅できる」

UNEP「プラスチック汚染撲滅実践ガイド」

https://www.worldenvironmentday.global/get-involved/practical-guide

解説者紹介

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  • 増補改訂作業に入りましたので、一時的に販売停止しています。

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