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しろやぎさんのてがみ くろやぎさんのことば 20230908解説

沸騰ワード

グテ―レス国連事務総長の、気候変動問題に対しての「言葉」が沸騰しています。「地球沸騰」に「気候崩壊」。政治家ならではのキャッチ―な言い回しを連発。まさに沸騰ワード。
しかし、冷静に考えると、地球は沸騰していないし、(46億年前に形成された頃や月が生まれたジャイアント・インパクトの後を除けば)沸騰したことはないでしょう。
異常気象が激しくなっていますが、異常気象を生む気候のメカニズムが異常をきたしているわけではなく、振れ幅が大きくなっているだけで、自然の摂理を超えて気候が崩壊しているわけでもありません。
科学的にいえば、「地球沸騰」も「気候崩壊」も、いい加減すぎるというか、限度を越えた煽り文句のレベルかもしれません。
しかし、ようやく期待されてきた役割を、政治家が果たすようになってきたのではないかと私は思います。

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SPMとは?

環境の世界でSPMといえば、浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter)のことです。粒径が10μm以下の、とても微細な「すす」のようなもので、大気汚染物質です。

政策決定者向け要約

しかし、気候変動問題の文脈でSPMといえば、「政策決定者向け要約」(Summary for Policy Makers)です。政策決定者というのは、ざっくりいえば政治家や行政官ですし、広くいえば気候変動問題に影響力を行使できる組織のリーダーということになります。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、1988年に設立された政府間組織で、気候変動に関する最新の科学的知見について評価を行い、定期的に報告書を作成しています。
「気候変動に関する最新の科学的知見」というのは個々の研究者・研究グループ・研究機関が発表した科学論文で、それを多数の科学者チームが網羅的に分析することで、気候変動について、その時点で科学的にもっとも可能性の高い結論を報告書にまとめる作業を行っているわけです。

その報告書は当然のことながら、科学者により専門的な用語で書かれているので、科学者でない一般人がすいすい読んで理解するのは容易なことではありません。

また、IPCCの報告書は、そもそもが、最新の科学的知見にもとづいて、現実世界を変えるための行動、すなわち政策に影響を与えることを意図しています。

政策決定者向けの要約(SPM)は、通常は科学者でない一般人である政策決定者に、少しでもわかりやすく情報をインプットするために作られています。

しかしそれでもわかりづらいので、「要約の解説」資料が作られています。たとえば、最新のIPCC第6次評価報告書のSPMの解説資料では、スライド1枚で、下記のようにまとめています(要約の要約ですね)。

■気候変動の影響・適応・緩和の現状・見通し
○ 既に1.1℃の温暖化:人間活動により既に1.1℃の温暖化。人為的な気候変動は広範な悪影響、損失と損害をもたらしている。
○ 今後短期のうちの気温上昇とその影響:GHG排出は発展段階や所得水準によって大きく異なっている。一方、開発が遅れている地域や人々は、気候ハザードに対し脆弱性が高くなっている。
○ 不釣り合いに温暖化影響を受ける地域:今後10~20年内に1.5℃に達する可能性が高い。温暖化の漸増に伴い、気象・気候の極端現象が拡大。温暖化の進行に伴い適応オプションが制限され、損失と損害が増大。
○ 残された排出量:気温上昇を1.5℃までに留めるために残されたカーボンバジェットは500GtCO2。2050年までにCO2ネットゼロの実現。
○ 進展とギャップ:AR5以降、緩和・適応のための対策・政策には幅広い進展が見られる。但し、要求される水準との間にはギャップが存在する。

■ 気候にレジリエントな開発・ネットゼロ排出の実現に向けて
○ 気候にレジリエントな開発:気候にレジリエントな開発を促進する経路は、緩和策と適応策の統合に成功し、持続可能な開発を促進させる開発の道筋。持続可能な未来を確保するための機会の窓は急速に狭まっているが、まだ実現の経路は存在する。私たちが今取る選択と行動は、何千年にもわたって影響を与える。
○ 大規模展開が可能な短期オプションの存在:短期の対応は損失・損害を軽減し、遅延は実現可能性を低減。緩和・適応ともに短期的に大規模展開可能なオプションが存在する。
○ 統合的・包摂的な取組:統合的(緩和・適応・SDGs)かつ包摂的(衡平性、公正な移行)な取組は、リスクの低減、変革への支持を深めることに繋がる。
○ 「可能にする条件」の強化:ガバナンス、政策、ファイナンスなど「可能にする条件」の強化は適応・緩和オプションの大規模展開の実現可能性を高める

https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000130186.pdf

ここまで枝葉を落として要約するのは大変な作業ですが、それでも、これを一読して、ポンと膝を打って「あー、なるほど、そういうことね、じゃあ、私ら政策決定者はこうすりゃいいってことね」って理解するのは難しいですね。

「既に1.1℃の温暖化」の意味

気温上昇1.5℃に抑えるのが国際的合意ってことはご存知と思いますが、この1.5℃っていうのは、今から1.5℃ではないんですよ、もう1.1℃上がってるので、残り0.4℃しかないんですよ。そこんとこ、勘違いしないで、ヨロシク。

「持続可能な未来を確保するための機会の窓は急速に狭まっているが、まだ実現の経路は存在する」の意味

もうかなり手遅れで、気候変動による被害も出ているし、これからも増えてしまいますが、あきらめないでください、今ならまだ間に合います。やり方はあります。

「私たちが今取る選択と行動は、何千年にもわたって影響を与える」の意味

あなたに、全人類を子々孫々末代まで祟ってやる、ってつもりはないと思いますが、今のままだと、そうなりますよ。今行動を変えないと、何千年にもわたって将来の人々から、「こうなるってわかっていて、何であの時やってくれなかったんだ」って、あなたが恨まれますよ(人類が存続していれば、の話ですが)。

・・・
ざっくり平たくいえば、SPMというのは、科学者から政策決定者向けのこういうメッセージが書かれたお手紙なんですが、科学の言葉で書いてあるので、わかりにくい。

やぎさんゆうびん30年・・・

そういうわけで、1990年の第1次評価報告書以来、つまり30年以上前から、科学者から政策決定者へのお手紙であるSPMは書かれてきたし、届いてもいたわけですが、中味は伝わらなかったのです。

結果、しろやぎさん(科学者)から届いたお手紙(SPM)を、読まずに食べたくろやぎさん(政策決定者)は、さっきのお手紙何だっけ??
ああもう、って、しろやぎさんは、くろやぎさんに、新しいお手紙(SPM)を書くのだけれど、、、何度も同じことの繰り返し。

それを見ていて業を煮やした少女に「あんた、何やってんの!」って怒られても、くろやぎさんは相変わらず。

しかしついに、しろやぎさんの手紙の中味が読まれたのです。苦労は報われました。

すると、読んだくろやぎさんの口から出てきた言葉は、しろやぎさんがけして使わないような言葉でしたとさ、というわけです。
しかしそれにより、しろやぎさんが自分でいうより、圧倒的に多くの人に、しろやぎさんが伝えたかったことが伝わるようになりました。
グテ―レス事務総長は、まさにスピーカー(演説者)としてスピーカー(拡声器)の役割を積極的に果たしているといえます。

言葉の次は行動、すなわちトランジション(移行)

日本でも、2020年10月、菅総理時代のカーボンニュートラル宣言が、大きく潮目を変えました。以降、脱炭素に向けての政策・予算の総動員が始まりました。たった3年前のことです。

日本経団連も、1997年には、過度な温暖化対策は国民経済を成り立たなくするとまで言っていました。

規制的手法や経済的手法によって経済的に合わない投資を強いることによって、さらに大幅な削減をしようとすれば、日本企業は生産の縮小あるいは海外への生産移転を余儀なくされ、雇用への深刻な影響を引き起こし、国民経済が成り立たなくなることも有り得よう。

それが、25年後の2022年には180度うって変わって、GXに投資して2050年にGDP1000兆円!となっています。GDPほぼ倍増計画です。

ポイント・オブ・ノーリターンというのは、そこを過ぎるともう元には戻れない地点のこと。ポイント・オブ・ノーリターンの前で、舵を切りましょう。

「地球沸騰化」は多くの研究者が事前に警告していた: すでに臨界点を越えたのか

解説者紹介

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  • 1回目:キーワード解説集として読む。基本的に、1キーワード3論点でまとめてあります。問題は解かずに、解説を読んで内容を理解する。それから、「どこを問題にしたのかな?」と問題文の選択肢と、解説文を見比べる。そして、不正解肢はどれで、解説文のどこをどう変えたかを確認する。

  • 2回目:知識の定着度を確認するために、問題を解いてみる。そのときに、1回目の思考のプロセスを思い出す。

  • 3回目~:実際に銀行業務検定試験を受ける方は、全問正解になるまで繰り返す。