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日本のアニメ映画の中国展開(1):二度も歴史を動かした「ドラえもん」

中国人で日本エンタメ大好きなKeiです。
最近、ぼくにとって、2つ非常にうれしい出来事があった。

一つは、デジモン映画「デジモン Last Evolution」の中国公開が発表され、
2020年10月30日から全国の映画館で上映される。

中国にいる友達にも、デジモンの映画を観てもらえるのは非常に嬉しい。

もう一つは、「鬼滅の刃 無限列車編」がようやく日本で公開された。
自分も早速観に行って、大満足でした。
初日の興行がなんと10億円超えで、非常に順調のようです。

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(図:「デジモン Last Evolution」の中国版ポスター)

私も日本のアニメ映画のファンで、
毎年、映画館で数多くの日本のアニメ映画を観ている。
また近年、
ますます多くの日本アニメ映画が中国でも上映されるようになっている。
中国の映画市場が早いスピードで成長し、
何十億の興行収入を達成した日本のアニメ映画も続出する。
なので、今回は、日本アニメの中国展開の話もしてみようと思った。

日本のアニメ映画の中国展開の歴史を振り返り、
その流れと、歴史を動かした作品たちを紹介したい。

1.黎明期:最初の上映作品「龍の子太郎」

日本アニメ映画の上映は、1979年まで遡られる。

1972年日中国交正常化、1978年日中平和友好条約が結ばれた以降、
東映アニメの作品「龍の子太郎」が、
上海電影訳所(中国語名:上海电影译制厂、海外映画の翻訳を担当する機関)によって中国語ローカライズされ、中国で公開された最初のアニメ映画となった。「龍の子太郎」は、1979年中国で映画館でも上映され、1980年に中国の国営テレビ(CCTV1)でも放送された。

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(図:「龍の子太郎」のポスター)

その後、同じ東映アニメの作品「白鳥の湖」は、
1981年9月に中国で上映され、1982年に中国のテレビ(CCTV1)で放送された。ただし、当時中国で映画とテレビまだが普及されていないというのもあり、劇場かテレビでこれらの作品を見た人がかなり限られていた。

その後21世紀に入る長い年月において、日本アニメ映画についても多少動きがあった。1989年から1992年にかけて、ジブリの3つの作品「天空の城ラピュタ」、「となりのトトロ」「風の谷のナウシカ」がローカライズされ、限られた映画館で上映された。

ただし、中国の映画関連のビジネス・インフラがまだついていない、外来文化における規制も強く、日本のアニメ映画は、なかなか広範囲の公開に踏み出せなかっか。

2.模索期:「銀髪のアギト」、「ドラえもん」と「名探偵コナン」

時間が2006年になる。年初早々、一つ大きな発表があった。
日本アニメプロダクションGONZOの作品「銀髪のアギト」が、中国でも上映されるという。「銀髪のアギト」は、中国電影集団とその子会社の中国電影動画が製作協力に加わり、日中共同製作の作品でした。
「銀髪のアギト」の公開決定は、当時規制の強い環境の中で、大きなニュースになったそうです。「銀髪のアギト」が先陣を切ることに、業界の注目があった。

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(図:「銀髪のアギト」の中国版ポスター)

ただし、うまくいかなかった。

予定の公開日の2006年3月1日になっても、上映されなかった。その後、学生たちにも観てもらうため、夏休みの6月20日にスケジュールを調整したという公式発表があったが、新しい公開日になっても、公開の動きがなかった。それ以降、一部のメディアから、2006年年内で上映できるという情報があったが、公式発表がそれきりだった。今日に至っても、「銀髪のアギト」の中国公開が果たせていない。

ただし「銀髪のアギト」が、中国での公開を果たせなかったが、
日本アニメ映画に対する注目を集め、
一部中国の映画会社は、可能性を手探りはじめた。
そういう意味で、
「銀髪のアギト」の試みは、大切な意味があった。

まもなく、朗報があった。
「ドラえもん のび太の恐竜」は、「北京年恩長影文化伝播有限会社」という会社が中国でのライセンシーとなり、中国での劇場公開が発表された。
2007年7月20日、「ドラえもん のび太の恐竜」が中国全国の映画館で公開され、はじめて中国で広範囲の公開を果たした日本のアニメ映画となった。2170万人民元(約3億日本円)の成績で、当時の中国映画市場からみると悪くない成績だった。
「ドラえもん」が、歴史を作った。

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(図:「ドラえもん のび太の恐竜」の中国版ポスター)

その後の何年間も、ドラえもんシリーズの映画が公開され、
そして2010年、2011年、名探偵コナンシリーズの映画も中国で公開された。2011年公開の「名探偵コナン 沈黙の15分」は、3060万人民元(約5億日本円)の成績で日本アニメ映画の記録を刷新した。

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(図:「名探偵コナン 沈黙の15分」の中国版ポスター)

3.停滞期:政治紛争による上映停止

2012年以降も、日本アニメ映画が中国で徐々に展開していくと思いきや、
一つ大きな事件があった。

2012年、釣魚島(日本では尖閣諸島)の国有化を発端として、
日中関係が一気に冷え込んでしまった。
日本の商品・コンテンツへ対する規制が強まり、
映画も例外じゃなかった。
もともとすでに上映が決まったコナンの映画などが公開中止となっていた。


その後の何年間も、日中関係が緩和されず、
日本アニメ映画の劇場公開も完全にストップされた。
その後、日中関係が緩和されたが、
日本映画の上映再開の目処がなかなか立っていなかった。
その背後で、
日本のアニメ映画へ投資することに疑問の声がある。
もともと大して売れていないのに(実質、損失を出す可能性もある)、
中国の厳しい審査をクリアする労力もあり、
それに加え政治事件が大きなリスクとなる。

4.転換期:「STAND BY ME ドラえもん」と「君の名は。」の大成功

時が三年後の2015年になる。
日本のアニメ映画の中国進出に対する懐疑的な見解を一変した一つの作品があった。
それは、「STAND BY ME ドラえもん」だった。
(また「ドラえもん」だった。)

ちょうど子供時代で、
中国のテレビで日本テレビアニメに親しい1990年代生まれの中国の若者が、
映画の主な消費者に成長した。
その世代をメインターゲットに、
中国側の配給会社が、
非常に適切なメッセージ作りしてプロモーションし、
かつ人気の俳優・女優を声優として起用し、
中国の映画市場で火をつけた。

5.3億人民元(約83億日本円)、
それは「STAND BY ME ドラえもん」の中国での興行収入だった。
四年前「名探偵コナン 沈黙の15分」が作った3060万人民元記録の、17~18倍もあった。

その驚異的な数字で、
日本のアニメプロダクションも、日本・中国の映画会社も、
自信を取り戻した。
それどころか、もう躊躇いなく、市場が大きく動き出した。

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(図:「STAND BY ME ドラえもん」の中国版ポスター)

一年後の2016年に、
日本のアニメ映画は9作も中国で上映されて、「ナルト」、「ワンピース」などのビッグタイトルが含まれ、
めでたくどちらも1億人民元(約16億)以上の成績をおさめた。
そして2016年12月2日に、「君の名は。」が中国で上映され、
最終的に5.75億人民元(およそ90億日本円)の成績で、
「ドラえもん:Stand by Me」の作った数字を再度更新した。

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(図:「君の名は。」の中国版ポスター)

5.これから:次の大記録が近いかも?

2016までに、いわゆる日本の国民的なアニメというレベルでないと、
中国に進出できなかったところから、
2017年以降、
中国で上映される日本のアニメ映画がますますジャンル・数が増え続けている。
さらに、「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」という旧作も中国で公開され、それぞれ1.5億人民元(約24億円)、4.4億(約69億円)の興行収入を得ている。

ただし、「君の名は」の5.75億人民元の成績には届かなかった。

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(図:「千と千尋の神隠し」の中国版ポスター)

むろん、中国の映画市場は、まだまだ成長しているし、
アニメ映画へ対する需要・理解もますます高まっている。
2019年、中国のアニメ映画「哪吒之魔童降世(英題:Ne Zha)」の興行収入が、50億人民元(約787億日本円)を超えていました。
そういう意味で、
日本のアニメ映画の、5.75億人民元という記録は、
まだまだ十分伸ばせる余地がある。

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(図:中国のアニメ映画「哪吒之魔童降世」のポスター)

2020年は、コロナの影響で一時期中国すべての映画館が封鎖されていたが、現在は、人々が映画館に戻り始めている。
「デジモン Last evolution」の中国公開の発表も、
話題になっていた。
「デジモン」は、「ドラえもん」と同じく、
中国でもテレビ放送されて、
中国の20代にとって非常に懐かしい作品である。
「デジモン」は果たして、
「STAND BY MEドラえもん」と同じような成功を達成できるか、
もしくはそれ以上の成績を取れるか。

ほかにも、まだ公開情報が発表されていないが、
「STAND BY ME ドラえもん2」も、「鬼滅の刃 無限列車編」も、
中国でも公開されるという噂が出ている。
その二つの作品も、中国で新記録を作り出す可能性が大いにある。

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(図:「STAND BY ME ドラえもん2」のポスター)

「STAND BY ME ドラえもん」の2015年から、五年が経っている。
この五年間、中国の映画市場がますます拡大している。
そういう意味で、
「STAND BY ME ドラえもん2」は、大ヒットになる可能性が十分ある。


そして、もう一つの有力候補は、「鬼滅の刃 無限列車編」である。
「鬼滅の刃」のアニメは、日本のみならず、中国で非常に人気で、
「Bilibili」という動画サイトで5.3億回も再生され、
日本アニメの中で歴代1位となっている。
(2位の「ジョジョの奇妙な冒険」の3.2億回と、だいぶ差をつけている)
また、中国の「ウェイボー」というソーシャルプラットフォームで、
「#鬼滅の刃」のメンションのビュアー数は、
66億回を超えている。
「鬼滅の刃 無限列車編」の日本公開という情報も、
中国で多くの媒体に取り上げられて、
「ぜひ早く中国で公開してほしい」という声が多い。

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(図:「鬼滅の刃 無限列車編」のポスター)

次に中国で大ヒットになる日本のアニメ映画は、
中国人の20代にとって懐かしい「デジモン」か、
中国でも大人気の「鬼滅の刃」か、
それともまた、歴史を動かした「ドラえもん」か?
もしくは、「名探偵コナン」、その他?
まだ答えが分からないが、一つはっきり言えるのは、
「君の名は。」の5.75億人民元の成績が超えられるのが、
もはや時間の問題である。

6.おわりに

もっと多く優秀なアニメ映画が中国で上映されるのを期待しつつ、
個人として、
その誕生を見守りたい、
そして、可能であれば、関わりたい、
と思っている。
日本のアニメ業界・映画業界の皆さまにも、
自信を持って、中国の映画市場に踏み込んでいただきたい。

ここまで来て、
この文章では、たくさん「光」を見せていたが、
実は中国の映画市場で「闇」もたくさんある。

中国では、
きびしいコンテンツ審査と海外映画の上映制限があり、
なかなか公開まで漕ぎ着けない作品が多くある。
上映できたとしても、売れる保証がない。
中国独自の文脈で、
売れやすい作品と売れにくい作品の明暗がはっきり分かれている。
きちんとしたプロデュース・プロモーション手法が必要になってくる。
そして、全部うまくいって、作品が売れたとしても、
ビジネススキームと会社の力関係で、
結局日本の映画会社・アニメプロダクションに入るお金がほんのわずか、
ということもしばしばある。

なので、ローカルの知識・理解が必要だし、
「ビジネス」の視点で注意深く、粘り強く進めることが、
成功のポイントだと思われる。
またいつか、そのあたりの話をしよう。


*参考資料
「1 黎明期」「2.模索期」については、
「Bilibili」の「E9L」の「一部日本动画电影是如何进入国内电影院的?」から部分引用、翻訳する。
リンク(中国語)
https://www.bilibili.com/read/cv7895553/

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