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京都の美術印刷所・サンエムカラー訪問譚

こんにちは。
書店フロアの原口です。
先日、『日本写真史 写真雑誌1874-1985』を軸にしたトークイベント”写真”って何だろう?を開催いたしました。
非常に好評をいただき、第二回も検討中です。

当日のアーカイヴといたしまして、サンエムカラーの若きプリンティングディレクター・中島風美さんが、記事にまとめてくださいました。
資料などは公開が叶いませんが、会のアーカイヴとして、ぜひご一読くださいませ。

おまけとして、拙文ながらサンエムカラーさんへ打ち合わせに参じた際のことも訪問譚として記事にしてみました。
お時間ありましたらお付き合いください。

〜 サンエムカラー 訪問譚 〜

今日は楽しみにしていたサンエムカラーさんへの訪問の日。
五時起きで準備し、待ち合わせの1時間前に到着。駅に隣接する公園で壁画などをじっと見つめ過ごすことしばし、「こちら到着いたしました。」と、メール着。コンクリート屏に出していた荷物を急いで鞄にしまい、いざ駅へ。
出迎えてくださったのは、プリンティングディレクター(以降、PD)として、写真集や図録のほかに、アート作品や文化財複製のプリントディレクションも行う大畑政孝さん。そして若きPDの中島風美さん。
「今日はよろしくお願いいたします!」
持参した資料を小脇に抱え、後部座席へ乗り込みます。
さぁいよいよ、サンエムカラーさんへ。
車内では早速、印刷にする話やイベント当日に向けた話で盛り上がりました。面白い職人さんや一代でサンエムカラーを築き上げた会長さんのお話など、親しみやすく信頼ある現場であることが伝わるエピソードの数々はとても楽しい時間でした。
そうこうしているうちに大畑さま方々の仕事場へ。
先ほどまでの朗らかな空気と打って変わり、非常に精密な仕事に従事されている方々が揃い作業している風景は緊張感がありました。

壁面には手がけられた印刷物が掲示されていた。

また作業場では所狭しと納品予定の印刷物や印刷資料が並んでおり、古い印刷物のようなものから大判の写真プリント、プラスチックや凹凸のあるオブジェ等、様々な印刷手法による印刷物の数々に目移りいたしました。
サンエムカラーさんのお仕事で、書店員として身近にある印刷物だと、なんといっても写真集や美術図録が挙げられますが、サンエムカラーさんのオフセット印刷が一般的なそれと一線を画するは、「高濃度」、「高彩度」ということ。これは印刷機の性能、技術者によるチューニングで色域の広さを可能としているということです。

印象的だったのは、大畑さんのお話のなかにありました光の話。
「光というものは、非常に多くの情報を用いているもので、特に太陽光の持つ色域や情報は非常に高度で豊かなもの。それに比べると印刷技術というのは再現性という点においては、デジタル画面などには適うものではない。
だけれどそれ故に、可能性豊かで技術を注ぐ意義を感じる。」ということ。
印刷物は印刷物としての良さがあり、必ずしも再現率が優先されることばかりではなく、目的や用途において必要な技術が用いている状態であることが大事なのだというお話でもありました。高性能な機械も、扱う人間の手腕に大きく左右されるとのことで、この機械と人間の技術による精度の高いICCプロファイルにより、飽和を限りなく無くした印刷が、写真集や美術作品集印刷に支持される所以なのでしょう。

工場見学ではインクを準備している所も見せていただきました。
刷りたての印刷物の中には、京都の老舗和菓子屋さんの包装紙なども発見。

他にも国宝・重要文化財の高精細複製など扱っておられ、その独自技術は燦・エクセル・アートと呼ばれます。
従来のオフセット印刷の33倍もの細かい点描で「彩度」、「明度」、「濃い濃淡」を実現するもので、通称1000線と呼ばれているそう。
わかりやすく言えば印刷における8Kプリントだよと教えてくださったのですが、こちらは世界初の印刷技術とのことです。
8K⁈
思わず声が出ました。先ほどオフセット印刷による色域の話をしたばかり。その色域を広げることがどんなに難しいことなのか聞いたばかりです。
印刷の機械もいろいろなものがあり、いろいろな印刷手法があるのだそうで、こういった機械はハイクオリティで厳密な管理が要求される為、技術者が存在する事が如何に重要かのお話も印象的でした。
中島さんと共に深く頷くきました。
ただデータを機械に送信して終わりではなく、用途にあった機械やチューニングが必要なこれらの印刷について、書店員として預かり知らぬことばかりで、文字情報だけで本が売れる時代でなくなってきている昨今、こういった印刷手法やこれからの表現の現場を知ることは非常に大事なことのように感じました。

また現在では現代美術家の大型レンチキュラー作品の印刷も多く手がけるようになったそうで、1枚の写真で複数の画像が入れ替わる「レンチキュラー」という印刷技法に加え、印刷で凹凸を表現するUVプリントや支持体を選ばない印刷など積極的に技術躍進に努めていらっしゃいます。
そして、現場の技術者の方々は、現役で現場に登場する創業者である会長の言葉や技術に対する理念について、ただ従うだけでなく対話として通し考え深めているとのこと。

グラフィティが施された瓦礫のように見えますが、こちらは印刷によるもの。
印刷するものにより適切な網点を指示することで、色斑や印刷の不備を防いでいるとのことです。機械を適切に使い、最大限の効果を生むために印刷技術者が存在しています。

此度は平凡社より刊行の『日本写真史 写真雑誌1874-1985』を発端にしたイベントでしたが、写真文化歴史と切っては切れない複製技術について、現在の印刷について、非常に意義深い会となりました。
サンエムカラーさん、多大なご協力をありがとうございました。

左より大畑政孝さん、戸田昌子さん、吉田亮人さん。
ご登壇ありがとうございました。

第二回についても検討中です。
個人的には「写真集の読書会」なるものなど、どうかなぁ?と思っています。そこに何が写っているのか、どうして写ったのか、光やモチーフ、史実や表現について、読み解きの面白さがありそうな気がしませんか?
リクエストなどありましたら教えてくださいね。

それでは、またの機会をお楽しみに!

担当:原口

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