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21年菊花賞を振り返る~23年の時を越え発現したDNA~

失敗は成功の母、そんな言葉がある。小学生でも習う言葉だ。

マスクは設定上4ちゃいだから、まだ習っていない。親から聞いた体で書かせてもらうぜ。

日常生活で失敗することなどいくらでもある。事実マスクは家庭内で失敗を繰り返し、我が家を統べる総裁閣下の逆鱗に触れ続けている。

時速60kmの馬に乗って、馬と呼吸を合わせながら1頭ちょっとのスペースを突いたりする競馬なんて、俺の家庭内とは比較にならないくらいミスが増える。過去にさかのぼって取り返すこともできない。

なんか以前、マスクはすぐ騎手のせいにするって書かれたことがあるんだけど、そりゃ明らかにミスっていたら指摘するよね。でも競馬においてミスなんて当たり前だとも思ってるから、その後しつこく書き続けることはそうない。

それこそ同じようなミスを何度もやってたら、それがミスと思っていないわけだから疑問を呈すけど。誰とは言わないけど、中京ダート一周で外回しに行く、そういうのね。

トップジョッキーたちは凄いもので、一度ミスっても、似たようなシチュエーションで間違えない。上空から見てるのですか?と思うような進路取りをしてくる。

でも彼らも競馬学校卒業後、いきなりトップジョッキーになったわけではない。多くのミスを経験して、振り返って、自らの血肉として上に上がってきて、今がある。失敗からいかに多くを学ぶか、それはジョッキーに限らず、どの業種の成功者においても同じことが言えるのではないかな。


今年の菊花賞、最大のポイントは阪神開催だったことだろう。もう40年以上京都開催。阪神の菊花賞を、現役騎手は誰も乗ったことがない。阪神大賞典とは条件もまた異なるからあくまで参考記録だ。

しかもダービー馬がいない。皐月賞馬がいない。そもそもGI馬もいない。大混戦と言われる状況で、展開の形が見えてこない。ジョッキーも、スタッフさんも、買うこちら側も、みんな手探りと言っていい状況だった。

そんな中、勝負を制したのは、前走の失敗に学び、手探りの状況下で先頭に立って、攻めに攻めた若者だった。

若者はなぜ攻め、なぜ頂点に立ったのか

今回の振り返りはこのテーマに沿って、進めていこう。過去最長13300字でお届けする。

●菊花賞 出走馬
白 ①ワールドリバイバル 津村
黒 ③タイトルホルダー 横山武
赤 ⑤レッドジェネシス 川田
紫 ⑥セファーラジエル 鮫島駿
青 ⑦ディープモンスター 武豊
水 ⑧エアサージュ 藤岡佑
黄 ⑩モンテディオ 横山和
緑 ⑪ディヴァインラヴ 福永
橙 ⑭ステラヴェローチェ 吉田隼
灰 ⑰ヴィクティファルス 池添
桃 ⑱オーソクレース ルメール

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スタート直後。赤レッドジェネシスが両サイドに挟まれているのがお分かりだろうか。

ゲート自体も若干遅かった。まー、トモがパンとしていない分、ゲートを出る時の踏ん張りが足りないから、どうしても他馬とスタートでコンマ1秒くらいの差ができるのか仕方ない。

ただほんのちょっとだけ遅れた後に両サイド、特に左のセファーラジエルが寄ってきたのが痛かった。これで挟まれる形になってしまい、後方から。

租界でも指摘しているが、今日のレッドジェネシスはパドックでもちょっとテンション高め。返し馬では若干発汗が見られた状態。スムーズに回ってこれたら良かったものの、スタート直後に挟まれたことで、川田は後方で折り合いに専念しないといけなくなってしまったんだ。

川田も3000mずっとスムーズに運べるとは思っていなかっただろうが、いくらなんでも不利が早過ぎる。これで後方で折り合いに専念する戦法しかなくなってしまった。一気にレッドジェネシスが不利条件となる

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前に目を移そう。黒タイトルホルダーがガッシガシと追ってハナを切りに行ったんだよ。

タイトルホルダーは弥生賞を逃げ切った馬。ただ皐月賞で2番手からの競馬ができたことから、ダービーも2番手以下に控える形を取っていた。そういう競馬もできる馬だからね。

ただダービー、セントライト記念に関しては、番手に控えたことで後半、上手くいかなかったのもまた事実だ。

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これはダービーの3コーナー。茶バスラットレオンが逃げて、その後ろの2番手を確保した橙タイトルホルダーだったが、ペースが上がりきらなかったことで、外から馬が上がり、周りを囲まれてしまっている

そのタイトルホルダーの真後ろで影響を受けてしまったのが白エフフォーリア、横山武史さ。武史は橙タイトルホルダーが邪魔で進路が開かず、最内から後手に回ってしまうシーンがあった

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こちらは次走、タイトルホルダーの秋緒戦となったセントライト記念だ。今度は武史に乗り変わっている。

黄タイトルホルダーの武史はスタートから少し出していって、青ノースブリッジの隣、外の2番手につけた。

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ところが道中、橙ルペルカーリアが早めに動いて先頭に並びかけていって、黄タイトルホルダーは周りを囲まれてしまった。

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その後の展開はセントライト記念の回顧にしっかり書いたから、今更詳細を記さなくてもいいだろう。

セントライト記念を振り返る~若武者が嵌まった展開の罠~
https://note.com/keiba_maskman/n/nfcec5b7e0359?magazine_key=m7842050bb22c

囲まれて、詰まって、最後は接触までして、散々な内容の13着に終わってしまった

たぶん多くの人間が、「なんで武史はもっと積極的に2番手をキープしなかったのか」と思ったかもしれないね。ただわざわざそうしなかったのにも当然理由はある。

菊花賞のレース後、武史が「前走がひどい競馬だったので、取り返したい思いがあったので結果が出せて良かったです。個人的にはこの距離はタイトルホルダーにとって長いかなと思ったのですが」と話しているのがそれ。

確かにタイトルホルダーは母が2600mのオープン丹頂Sを勝っているし、姉のメロディーレーンは菊花賞5着など中長距離実績も豊富。一見距離は持つように見える。

ただ武史がその後「この馬は真面目すぎるところが長所でもあり欠点でもある」と話しているように、ちょっとオンオフがつかないところがあるんだよな。

真面目ってのは褒め言葉のように見えて、そうでもない。走ろう走ろうとする気持ちが強過ぎる=掛かる。だからこそ道中折り合いをつけてリズム良く運ばないといけないわけで、外からルペルカーリアに来られた時に抵抗しようとしてリズムを崩してはいけない。

長い距離だとどうしても慎重な騎乗になってしまうんだよな。それがダービーであり、セントライト記念だったんだ。

仕方ないとはいえ、セントライトで見た目にも酷い騎乗となってしまった武史としては、ポジショニングに対する後悔と共に、馬を信じきれなかったことに対する後悔も強かったと思う

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だいぶ横道に逸れてしまった。話を菊花賞に戻そう。

今回は更に800m距離延長となるタイトルホルダーを残すには、これまで同様、2番手以下で慎重に運んではここ2走の二の舞になる。そうなると思い切った競馬をする必要があり、前走、馬を心の底で信頼できなかった武史が出した答えが『押して押してハナ』だったんだ。

特に今回は自身の内に逃げたい白ワールドリバイバルがいた。3コーナーまでにハナを主張しておかないと、内にいるワールドにハナを切られる可能性がある。

だからこそ武史は多少オーバーアクション気味にでも押してハナを取りに行ったんだろうね。

自身の外には、こちらも逃げて実績を残してきた水エアサージュがいる。こちらが強引にハナを切りに行く可能性もあったが、ジョッキーは藤岡佑。強引にハナを切りに行かないタイプ。武史が主張した分、早くもハナに行くのを諦めていた。

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一旦は白ワールドリバイバルが外の2番手に切り換えそうとしたんだけどね。外から水エアサージュや黄モンテディオが上がってきたことで、内に押し込められてしまった。

まー、ワールドの津村はレースを壊さないタイプ。阪神3000というタフな舞台設定を考えて無理しないという選択肢に至ったのだろう。この時点でタイトルホルダーの単騎がほぼ確定したと言っていい

その後ろを見ると、真ん中より外枠だった緑ディヴァインラヴ福永がもう内ラチ沿いにいる。その後ろを見ると、⑦番を引いていた青ディープモンスター武豊さんがいる。

さすが、長距離巧者の二人だよ。内回り1周目3コーナーに入る前に、もう内ラチ沿いを確保している。混戦だからこそロスなく運べばチャンスはより増える

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これは1周目3コーナーだ。逃げた黒タイトルホルダー武史の斜め後ろに、黄モンテディオがつけている。

モンテディオのジョッキーは横山和生。ここに阪神電鉄横山ラインが開業した。

和生としてはタイトルホルダーが単騎なら、距離が長いことを考慮して中盤緩めて逃げるという予測があったんだと思う。タイトルが真面目過ぎて折り合いに不安があることを和生も知っていたろうからね。

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ただここで和生に誤算が生じる。

●21年菊花賞
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

阪神3000mの1周目3コーナーから4コーナーはこの部分。ペースが速すぎたのだ。

●過去5年 良馬場の阪神大賞典の前半1000m
・17年 61.5
12.8-11.8-11.6-12.7-12.6
・18年 60.1
12.8-11.4-11.7-11.8-12.4
・20年 62.6
13.2-12.2-12.3-12.2-12.7

・21年菊花賞 60.0
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8

長距離慣れしている馬たちが集まる古馬の阪神大賞典と一概に比較してはいけないんだが、前半1000mを見ると近年の良馬場の阪神大賞典よりも速い。1分フラットで入ってきた。

和生も理詰めでよく考えるタイプのジョッキーさ。体感で速いなと感じていただろうし、ポジションを少し下げた。だから上の写真で、黒タイトルホルダーと黄モンテディオの差が広がっている。

これが2番手がワールドリバイバルやエアサージュなら話は違ったかもしれない。この2頭はどちらもハナに行ったほうが数字も内容も良くなる。

しかしモンテディオはそれまで中団から差して好走歴もあるように、別に強引にハナに競りかける必要がない。ここで、タイトルホルダーが完全に単騎、主導権を握ることになった。

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1周目の直線だ。緑ディヴァインラヴ福永の真後ろに青ディープモンスター武さんがいる。

今年の菊花賞は我々予想する側、購入する側だけでなく、乗る側も難しいレースだっただろう。

というのも、散々回顧に書いてきたように、強い馬の真後ろというのは一番レースがしやすい。ついていくだけで勝手に進路が開くからね。

では今回の菊花賞はどうだろう。GI馬は不在。皐月賞を勝ったエフフォーリアはいない。ダービーを勝ったシャフリヤールもいない。2歳GI勝ち馬ダノンザキッドもいない。大混戦という言葉通り、『ターゲット』がいなかったんだよ。

もしエフフォーリアがいたら、エフフォーリアの真後ろは大人気スポット、渋谷駅のハチ公前のごとく混雑したと思う。

ターゲット不在となったことで、ちょっと力が落ちる馬は『誰の後ろに入ればいいか分からない』。抜けて強い馬がいないことから、力が落ちる馬たちのターゲットは自然と『長距離が上手い人』の後ろになる。

長距離で若手騎手と武さんの後ろ、どちらに入りたいと思うだろうか。100人中100人が武さんの後ろに入りたがるだろうね。武さんがハチ公となるのだ。

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改めて1周目直線を見てみると、青ディープモンスター武さんの後ろに馬が何頭もいることが分かる。真後ろのロードトゥフェイムなんかがいい例だ。後方のインで待機している馬たちは完全に武さんを当てにしている

逆に言えば武さんが動かなければ、後ろは動けない。前のタイトルホルダーは飛ばしているわけだから、馬群が縦長になってしまう。

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では外はどうか。それまで掛かりに掛かっていた紫セファーラジエルが、ついに我慢できず外から上がっていった。

セファーラジエルの内にスペースが開いてるだろう。あえて他馬から離して折り合わせるという、たまに回顧に書いてる手だ。ペースが流れているのに我慢できずに外から上がった時点で、セファーラジエルの菊花賞は終わった。

その内に桃オーソクレースがいる。阪神3000mでオーソクレースが直線一気で差し切れるとは思えない。ルメールとしては次第にポジションを上げて、好位で勝負所を迎えたかったはず。

ただルメールの前にいるのが灰ヴィクティファルスなんだよな。予想にも書いたように、この馬はハーツクライにガリレオとスタミナ血統ながら、いい脚が一瞬というタイプ。早めにまくり上げられるタイプではないし、道中じっくり脚を溜めていきたい。

そう、ヴィクティファルスとオーソクレースは対極みたいなタイプなんだ。これがオーソクレースの後ろにヴィクティファルスなら話は違ったと思う。ただこの並びだとヴィクティが動かないし、ペースが速い分、オーソクレースも早めに動いていけない

オーソクレースもせめて10番とかなら話は違ったんだろうけどね。大外だと並びを選べない。この時点でだいぶ不利。内は前述したように武さんが動かない分動きがないし、後ろは構える形になってしまった。これも今年の菊花賞の大きなポイントの1つと言っていいだろう。

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このレース最大のポイントと言ってもいいところまでやってきた。

これは2周目の1コーナー。前述したことが絡み合って、黒タイトルホルダーと黄モンテディオの差が離れたまま、1コーナーに入った。

このまま1コーナーから2コーナーを見ていってくれ。

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2コーナーの終わりにかけて、逃げた黒タイトルホルダーと、黄モンテディオの差が大きく詰まっているだろうか。

若干差が縮まったのは間違いないと思う。かといって、大幅に詰まっているわけでもない

左上の時計のカウンターを見てほしい。1:36~1:49となっているね。

●21年菊花賞
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

今回のラップでいうと、ちょうどこのあたり、太字にした部分なんだよ。ラップを見た時に14.3??と思った人間は多いはず。

マスクもこの部分が緩んだのは体感で分かったが、13秒後半くらいだと思っていた。14.3まで落ちたかというのが率直な感想だ。

ではこの14.3-13.1と、黒タイトルホルダーがこのレースで一番ペースを落とした部分で、後続の黄モンテディオと差が大きく詰まっているだろうか?

もちろんセファーラジエルとの差は詰まっているが、掛かってもう勝負になっていない。全体的に見て、タイトルホルダーと後続の差が詰まっていないのだ。

このタイトルホルダーが息を入れたところもまた、ポイントの1つ。

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14.3-13.1というのは阪神内回りだと1コーナー半ばから向正面入ってすぐのところ。ここ、平坦だろう?

予想にも書いたのだが、阪神内回りは残り1100m付近から下り坂が始まってペースが速まり、ロングスパート勝負になる

仮に下り坂で緩めようとしてもペースは簡単に緩められない。人間だってそうだろう。タイトルホルダー武史がペースを落としたのは、下り坂が始まる本当に直前、ギリギリ平坦な部分だったんだよ。

タイトルホルダーが14秒を刻んだとしても、後続はタイトルと差を詰めるには13秒を切るくらいのラップが必要になる。この後内回りは残り1000m手前から下り坂。勝手にラップが速くなるのに、その前に動けない

タイトルホルダーがペースを落とした区間は実に絶妙だったんだ

武史が「ペースは落とせるようならもう少し落としてもいいかもと思いましたが、馬がやる気でしたし、馬とケンカしてまでペースを落とすぐらいなら、リズムよく運んだ方がいいと思い、ペースはそれほど気にしていなかったです」と話していたように、最初からプラン通りここで14.3を刻んだのではないだろう。

ただ武史が『もう少し落とそうとして』、14.3-14.0みたいなペースを刻んでいたら、さすがにもっと後続は差を詰めていただろう。続く1200m→1000mでも13秒台にしていたら、下り坂に入っている区間だから後続はもっと差を詰めていただろう。

タイトルホルダーとのリズムを崩さないためにこの部分だけ落とした武史の判断は、実は大正解だったのだ。

逆に言えば後続はこの時点でタイトルホルダーを圧倒的有利な立場に立たせてしまった。だって緩んだところで前と差を詰めてないんだもん

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●21年菊花賞
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

太字の部分は下り坂。このラップは逃げたタイトルホルダーが刻んだものだから、後続はこれ以上のラップで走っていかないとタイトルホルダーを捕まえられない

12.6-12.4-11.7と刻まれれば、ここで後続が差を詰めるには12.0-12.0-11.5以内くらいのラップを刻まないといけないだろうね。

先ほどの話を覚えているだろうか。『今年はGI馬が不在の大混戦』。こんなラップを出せる馬など限られてしまう。

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しかも向正面を正面から見ると、内の青ディープモンスターは前にいる白ワールドリバイバル、水エアサージュが動かないことで、動けるわけもない状況。

外を見ても灰ヴィクティファルスが動かない分、桃オーソクレースは簡単に動けない。自力で外から動いたら、ベースアップ区間で外々を回ることにもなるからね。

更にその後ろにいる橙ステラヴェローチェも同様。隊列が大して変わらないまま今度はベースアップ区間に入ってしまった。

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その結果2周目3コーナーでも、大して隊列が変わっていない。まだ前と後ろの差はある。

●21年菊花賞
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

太字にした部分は3コーナー。隊列が変わらないまま3コーナーに入って、武史が再度ベースアップし始めた。いくら下り坂で走りやすいからって、後ろの馬は12.4-11.7より速いタイムで走らないといけないんだから大変。


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しかも隊列がまた難しかった。

●菊花賞上位人気馬
1番人気 赤 レッドジェネシス
2番人気 橙 ステラヴェローチェ
3番人気 桃 オーソクレース

みんな内に入れていない。外を回りながらこのラップを早めに上がっていくのはさすがにしんどい。

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外枠の受難はまだ続く。

3コーナーから4コーナーに入るところで、桃オーソクレースと緑ディヴァインラヴの進路の差はこんな感じ。

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当然橙ステラヴェローチェは勝ちに行く競馬をするしかないから、大外を強引に上がっていこうとするよね。

ステラヴェローチェに絞られてしまうと、桃オーソクレースは進路がなくなって終わる。内から抵抗するしかない

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桃オーソクレースが内で抵抗すれば、橙ステラヴェローチェはより外に飛ばされてしまうよね。

だからこそステラヴェローチェは早めに捲りきりたい。ただオーソクレースもそれまでヴィクティファルスの後ろで脚を溜めに溜めているから、末脚の残存量は多い。抵抗するには十分なくらい脚が溜まっている。

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当然桃オーソクレースと橙ステラヴェローチェが外から上がろうとすれば、更に内にいる灰ヴィクティファルスが張る。

池添だってただ締められて終わりたくないし、終わるわけがない。この2頭に動かれて締められたら、ヴィクティは進路がなくなるからね。

この3頭がゴリゴリ削り合えば、自然とその後ろの青ディープモンスターの武さんのポジションが恵まれる。3頭の脚の使い合い、削り合いを真後ろで見られるわけだからね。

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問題は青ディープモンスターがかなり不器用な点なんだ。これは以前から予想や回顧で触れている。おかげでコーナーで前との差が詰まらない。加速が遅い。

もしディープモンスターが器用な馬で、コーナーで加速できるような小脚を持っていたら分からなかったね。3着以上はあったと思う。

でもそんな器用だったら広いコースばかり狙って使わないんだよな。たぶん武さんも4コーナー回りながらもう少し器用なら…と思ったろうよ。

一方その前の集団を見ると、灰ヴィクティファルスが抵抗したことで、桃オーソクレースと橙ステラヴェローチェが更に外に飛ばされている。ルメールも隼人も上手いからロスを最小限に回ってきてるが。

緑ディヴァインラヴとの差は歴然だよね。オーソクレースはせめてヴィクティファルスと逆、外を飛ばす側だったら話は違ったろうが、大外枠では厳しい

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こうして迎えたのが直線だ。橙ステラヴェローチェは一番苦しいところを回って大外。桃オーソクレースも灰ヴィクティファルスに抵抗されたまま回ってきてしまった。

だいぶ前に書いたように、ヴィクティファルスの使える脚は一瞬。本来だったら池添もギリギリまで脚を溜めたかったろうが、仮に張らずに待っていたら進路がなくなる。動くしかない。当然脚は残っておらず、伸びない。難しい形だ。

道中ラチ沿い、4コーナーでも内から抵抗されなかった緑ディヴァインラヴと、その外では負荷に差があり過ぎる。

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阪神芝にはラスト200mのところで急な上り坂がある。下り坂があればどこかに上りはあるよな。この坂のおかげで、一瞬2着もありえたステラヴェローチェは最後に止まってしまった。内に抵抗され、大外を回ってしまっては最後止まるのも仕方ない話さ。

隼人はレース後、「正直今の状態を考えれば頑張ったと思います。稽古でもこれほど動けないのかという感じでしたが力がありますね」と話しているように、今回はパドックから元気がなかった。見た目に分かるほど。

裏話でも『今週は隼人が追い切りに乗ったんだが、併せたヴェローチェオロがステラを待ってもステラが追い付けない事態になってしまった。「おとなしくなってると聞いてましたが、むしろ元気がないような気もしました…」とこぼすほど』と、ステラヴェローチェの不安話は書いている。

逆に言えば、そんな状況下で大外を抵抗されながら回って、3000mの最後の最後まで頑張るのだから実力はある。ディープモンスターほどではないがこの馬もレースがそんなに上手くない。こういうレースで内を捌けないからどうしても2、3着は増えるが、立て直されて道悪のワンターンなんかに出てきたら当然上位

この馬は道悪がいいのはもちろんなんだけど、道悪って直線の入口でうまいここと馬群がバラけるんだよね。だから進路ができやすい。前走の神戸新聞杯もそう。不器用な分バラける道悪はいい。


一方、ステラヴェローチェに最後先着したディヴァインラヴは福永の立ち回りの上手さのおかげでもある。そんなに内枠ではなかったものの、早めにラチ沿いに入って脚を溜めて、3、4コーナーで外に弾かれなかったのも大きい。

もちろんそんな理由だけで、タフな阪神3000、しかもタイトルホルダーが前半飛ばした流れを乗り切れないからね。心臓がいいだけでなく、牝馬ながら囲まれても抜けてこられる気持ちの強さがある。厳しい流れになった時のエリザベス女王杯でも侮れない。今のままだと賞金足りなくて出られないけど。

2着オーソクレースも厳しい形だっただけに、よく2着まできた。馬のタイプ的に最内とかでも困ったろうが、さすがに大外は遠すぎる

しかも違うタイプのヴィクティファルスが前にいたことで、隊列のかみ合わせも悪かった。これがせめて、⑰オーソクレース、⑱ヴィクティファルスならまた状況は違ったのだろうが、希望出して枠順変わるわけではないからね。

ルメールがレース後「良い競馬をしてくれましたが3、4コーナーの反応が遅かったです」と話しているように、血統的には小回りができても、現状緩くて反応も鈍い。この緩さがすぐ改善するとは思えないが、順調に使っていけば4歳秋くらいからいい感じにはなりそう。

調教で不真面目に走ったり、体は緩かったり、心身共にまだまだ。逆に言えば伸びしろもある。折った個所が悪かった割に幸い能力減退はなさそうだし、順調に育ってほしい。

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5着ディープモンスターはこれに尽きる。上は1周目直線。下は2周目直線。序盤こそ内ラチ沿いで運べていたが、4コーナーで加速しきれず、最後はこんなに外まで出されてしまった。

とはいえ内にいても加速しきれない馬。こちらもオーソクレース同様心身ともに幼く、持てる能力を100%出し切れていない。100%どころか70%も出せてないんじゃないかな。

長距離ができることは分かった。現状この不器用さがすぐに改善されるとは思えないが、いずれ中京2200、東京2500、阪神2600のオープン、重賞なんかで出番がありそう。

道中まったく触れていないが、6着ヴェローチェオロはちょっと難しいな。胴が詰まって、見た目は長距離馬に見えないが、今日の反応の鈍さを見ていても中距離以下で走る馬でもない。ちょっとしたジレンマがあるからこの先2、3着が増えそう。

ずっと抵抗していた10着ヴィクティファルスも、条件を考えるとよく頑張った。来ているかどうかは置いておいて、この馬の一瞬の脚を考えるともっと内枠が欲しかったね。中山含め小回りの仕掛け待ちレースで強いのはもう分かっているから、いずれ洋芝の1800~2000のオープン、重賞なんかで見たい馬

13着レッドジェネシスは、レース後川田が「道中はリズム良く走ってくれていましたが勝負どころで全く動くことができず、レース前から苦しさを感じる返し馬でしたので、調整段階で感じなかった前走の疲れが競馬場に来て出てしまったのかなという印象です」と話している。

確かにパドックのテンションはこれまででトップクラスに高かった。返し馬でも発汗していたし、レースに100%の状態でもってこれなかったのは間違いない。

動き自体は良かったし、スタッフさんの感触もなかなか良かった。ただ精神面が最後崩れてしまったのだろう。正直こういうパターンは難しい。心身共にMAXの状態でゲートに入れるって本当に難しい作業。ゲームではないからね。

これまでの戦績から見ても上がりが掛かる舞台がいいのは間違いない。来年は京都開催がなく、主に阪神と中京で分散して開催されるのはこの馬にとってプラスだろう。どちらも上位の中長距離は上がりが掛かるレースが多い。

まだトモが緩くてゲートのスピードが遅いが、この馬、トモがもっと完成されて中団より前でレースできるようになったらもっとやれる馬

前半1000m60秒フラットで逃げたタイトルホルダーについていった先行馬は当然展開面で厳しい。14着モンテディオは控えて運んでほしかったかな。

まー、これは結果論だし、ズブいところをカバーするための先行策だから和生の作戦が間違ってるわけではないと思う。目黒記念の内枠とかに入って欲しい馬。


さて、勝ち馬のタイトルホルダーを後回しにしていた。いつも勝ち馬を後回しにしてしまうね。構成面で仕方ないとはいえ、毎回構成が一緒だからって話もある。

結果から言ってしまえば、武史が馬を信じた結果に他ならない。武史が言うように、この馬の真面目過ぎるところを考えれば本質的に3000mは長い。現状こなすには今回のようにハナに行って、ハミを抜いてペースをコントロールするしかなさそう。ハナだと3000をこなし、2番手以下だと3000が長い、というタイプなんだろう

ハナに立てばハミが抜けて走れるということで、勇気を持ってハナに立った武史が賞賛されるべき騎乗だし、落とすべきところでペースを落とし、上げるところで上げる、緩急ある走りができたタイトルホルダーの競馬センスも褒められるべき

仮にこれが、セントライト記念で外の2番手で運んで、ルペルカーリアにまくられずにそのまま無難に走り切っていたとしたらどうだろう。今回、こんな勇気を持って、ゴリゴリ押してハナを切っていただろうか。少なくともここまで強気なペースは踏んでいなかったと思う。

そういう意味ではセントライト記念がケガの功名に近い形になったのではないかな。あの13着で武史の腹は決まっただろうし、伏線がセントライト、そしてダービーにあったのは間違いない。

加えて今回の調整パターン。馬のテンションを上げないように最終追いをあえて坂路でやって、金曜に阪神に輸送する陣営の作戦が大当たりだった。栗田師は柔軟に色々講じてくる人だけど、さすがだよね。ジョッキー、調教師始めスタッフさんみんながタイトルホルダーという馬を理解して、信じたからこそ獲れたタイトルだと思う。

現状の気性のままなら、阪神3200はハナに立たないと折り合えなさそうだし、3200は外回り→内回りで最後に止まりそう。有馬記念でスロー逃げができれば面白そうだが、さすがに何かほかにもっと速い逃げ馬がいそうな気もする。

今後2400m以上ではメンバーを問うだろうし、長距離のほうがメンバー、展開を選ぶという珍しいタイプの菊花賞馬と言っていい。本質は血統面とは違って中距離馬なんじゃないかな。もちろん気性が成長すれば話は違うが。いかにして自分でレースを作れるかが鍵になりそう。


武史は凄いと思うよ。まだ23歳。エフフォーリアで皐月賞を勝って、タイトルホルダーで菊花賞を勝った。皐月賞の回顧を見てもらえれば分かると思うが、どちらも馬を信頼した勝ち方。早めに動く武史のスタイルは強気そのものだが、その根底には『馬への信頼』がある。

武史が生まれたのは98年の12月。この年の菊花賞をセイウンスカイで逃げ切ったのがパパ、横山典弘。ノリさんはタンスの裏にも実は収納があることを見抜いちゃう人で、武史はまだそこまでの域には達していないだろうが、このまま順調にいけば、『違ったスタイルの横山典弘』になりそう。

横山典弘のDNAを感じたのが今回の菊花賞のラップだよ。

●98年菊花賞(京都) セイウンスカイ 横山典弘
13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0

●21年菊花賞(阪神) タイトルホルダー 横山武史
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

京都の外回りと阪神の内回りだから、本来だったらラップの落ちるところが異なるはずなんだ。実際細かい部分は違うし、改めて見てもノリさんのセイウンスカイ逃げはエグい

ではこのラップを3分割するとどうなるか。

●98年菊花賞(京都) セイウンスカイ 横山典弘
13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0
前半1000m…59.6
中盤1000m…64.3
後半1000m…59.3

●21年菊花賞(阪神) タイトルホルダー 横山武史
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2
前半1000m…60.0
中盤1000m…65.4
後半1000m…59.2

前半1000mと後半1000mがほぼ同じ。中盤も1秒差があるだけなんだよね。これ、Twitterに載せたら何人か勘づいてリプしてきた人間がいる。

今回、武史は23年前に世界レコードで逃げ切った父親の伝説的騎乗と似たようなペース配分で逃げ切ったんだよ。それでいて武史は「父の競馬を見て淡々と逃げるイメージはあったし、参考のひとつにしていました」としているが、今回は「ペースはそれほど気にしていなかった」と言う。これが体内に宿る横山家のDNAってやつかもしれないね。

ノリさんのセイウンスカイ逃げも、セイウンスカイに全幅の信頼を置いていたからこそ前半から飛ばしていって、中盤絶妙に緩め、後半再び速めて後続を完封した。この時の逃げ方も、坂の位置を考えると恐ろしい騎乗なんだけど、それについて触れていくと20000字超えてしまうからまた別の機会で。


前に武史が上手い勝ち方をしたことがあってね。武史に「あれはノリさんも絶賛してくれたんじゃない?」と聞いたことがある。そうしたら武史は「全然。オヤジめったに褒めてくれないもん(笑)」と笑っていた。厳しいんだよな、あのオヤジさん(笑)

目指してほしいところがとにかく高いし、自分が何百回も修羅場をくぐってきたもんだから、褒めるハードルがメチャクチャ高い

ノリさん、今回は息子さんのこと、褒めていいんじゃないでしょうか?


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