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セントライト記念を振り返る~若武者が嵌まった展開の罠~

正直言ってしまえばレースの当たり外れなんて時の運だ

だってそうだろ。普段で遅れていない馬が偶然どこか向いた時にゲート開いたり、直線で何か物見してヨレたり、これってもう運だろう。

なら予想はいらないかというと、そうではない。細かい部分は運ゲーとなるが、ある程度のところまでなら予想で読める。運が味方すれば当たるところまで予想を持っていくのが重要なんだ。

今回のセントライト記念というのは『運の差』が勝負を分けた部分が大きい。だから仮にタイトルホルダー本命で外しても、ソーヴァリアント本命で当たっても、そこには紙一重の差しかなかったと思うのだ。

何より今年のセントライト記念の異例な点は、『何度も隊列が変わった』こと。出たり入ったりと目まぐるしい展開変動の影響で、レースは細かな位置取りの差が勝負を分けた

●セントライト記念のペース
16年 36.1 61.0
17年 35.8 61.8
18年 35.6 60.9
19年 35.6 59.8
20年 37.2 62.6

21年 36.3 60.5

これだけ見ると例年と大きなペースの差はないように見える。

そこで今回のラップを見てほしい。

●21年セントライト記念
12.3-11.8-12.2-12.2-12.0-12.2-12.2-12.0-11.5-11.7-12.2

道中、ほとんど一定のペースであることが分かるだろうか。極端に息を入れるところがない。

この一定に刻まれたラップに、今年のセントライト記念の本質がある。

●セントライト記念 出走馬
黒 ②アサマノイタズラ
赤 ③ヴィクティファルス
青 ⑤ノースブリッジ
黄 ⑦タイトルホルダー
緑 ⑩オーソクレース
橙 ⑪ルペルカーリア
白 ⑫ソーヴァリアント
桃 ⑬グラティアス
茶 ⑭ワールドリバイバル

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スタート後まず注目したい点がある。赤ヴィクティファルスの動きだ。

ヴィクティファルスは3番枠を引いてきた。なのにスタートから内ラチ沿いに寄せず、スタート後外に持ち出そうとしていることが分かる。

土曜に台風がやってきたとはいえ、中山芝はまだインも走れた状態なんだ。イン差しで勝った馬も何頭かいる。それでも池添が外に持ち出したのは、今日の午前中の芝のレースで、外が動いて勝っていた点が頭に残っていたからだろう。

加えてこのレースは先行馬が何頭かいた。前の馬が下がってくるところを捌いている間に、外からまくり上げられると困るという思考から、外へ動いたのではないかな。

なんでこれがポイントかって、池添レベルの名手が『外も走れる』と判断した馬場だという事実が残ったんだよ。馬場自体は内外フラットであることを頭に入れたい。

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最初の直線の先行争いだ。青ノースブリッジがハナ、外の2番手に黄タイトルホルダー、桃グラティアスが外の3番手。

ノース逃げのタイトルホルダー外2はレース前ある程度予想された展開だったと思う。ここまでのタイトルホルダーの動きは理想に近いものだったと思うよ。

タイトルホルダーを逃がして弥生賞を勝っている武史は、この馬の持続力を生かせばいいことをよく分かっている

ただ問題としては、タイトルホルダーがパドックでやけに気持ちが入っていたことだ。休み明けの分もあるか、だいぶ気持ちが入っていて、それについてはTwitterでも指摘している。

武史としてはあれだけ気持ちが入っていたら、最初に取ったポジションで折り合いをつけてリズム良く運びたいという考えだっただろう。

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そう簡単な競馬にならないのが重賞だ。1コーナーで、外から茶ワールドリバイバルがハナを奪いに行ったんだよ。

●21年セントライト記念
12.3-11.8-12.2-12.2-12.0-12.2-12.2-12.0-11.5-11.7-12.2

この太字にした部分が中山芝2200mの1コーナー部分だ。中山というコースは直線の上り坂が目立つのだが、実はこの上り坂は1コーナーまで続いている。本来、上り坂だからペースが遅くなる部分さ。

ところがここでワールドリバイバルがハナを取りに行った。2F目がそんなに速くならなかったこと、ワールドはハナのほうがいいからこその津村の判断だろう。別に驚くことはない。

ただここで津村が早めに動いたことで、本来緩む部分でしっかりペースが緩まなかった

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1コーナー過ぎ。茶ワールドリバイバルが動いて先頭に立った。それまでハナにいた青ノースブリッジが下がる。

内ラチ沿いの馬は1頭分ずつ後ろに下がったことを考えれば、赤ヴィクティファルスがスタート後ラチ沿いを捨てたのは大正解だよね。たぶんここで内にいたらポジションを下げていた。こういう勝負勘が池添の武器だと思う。

ワールドリバイバルがハナに立ったとはいえ、黄タイトルホルダー外2番手、桃グラティアスの外3番手は変わらない。タイトルホルダーの武史としてはまだ余裕があったと思う。

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さすがにこれで隊列が固まるかなと思ったら、今年は更に展開が動いた。橙ルペルカーリアが外から動いてきたんだよ。

タイトルホルダーといい、ルペルカーリアといい、パドックからちょっと気持ちが入り過ぎなんだよなあ。キチンと引っかかってくれた。

ルペルカーリアが行きたがるのは今に始まった話ではないし、兄エピファネイアなんかもそういう馬。前に壁がない以上、どうしても行きたがるのは仕方ない。ギリギリ折り合わせようと福永も努力していたが、相手は1馬力だからね。

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これは2コーナーの地点。

●21年セントライト記念
12.3-11.8-12.2-12.2-12.0-12.2-12.2-12.0-11.5-11.7-12.2

ちょうどこのあたりだね。全然ペースが落ちてない流れで、外から次々に馬がやってくるんだから黄タイトルホルダーと桃グラティアスは困ってしまう。これでもう外から来たのが2頭目だ。

ちょうど向正面にあたるところで、黄タイトルホルダーのポジションが1列後ろに下がってしまったんだよ。

ならここでポジションを上げれば良かっただろうか?

それは厳しいよね。ラップを見れば分かるが、全然ラップが落ちないんだもの。1F12秒を切るかどうかのラップが続いて、息をしっかり入れられていない

ポジションを上げるには1F11秒台の脚を使わないといけないが、まだ1000m以上距離があるのに、そんなところで脚は使えない

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ラップが極端に落ちないという話をしたが、ハナに立っている津村、2番手福永共に上手い。2人ともちょっと速いなとは思っていたはず。

特に橙ルペルカーリアの福永は掛かっていた分、抑えにかかる。そうすると、その真後ろにいる黄タイトルホルダーが影響を受けて、1頭分後ろに下がってしまう

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そうなるとこのような形になるわけ。橙ルペルカーリアが抑えたことで、桃グラティアスと並ぶような形になる。これで黄タイトルホルダーが周りを囲まれてしまう状況が生まれた

まー、タイトルホルダーにとっては難しいところだ。強引にでもグラティアスを弾いて進路を確保する手もあるが、そもそもパドックから気持ちが入っていてリズム良く行きたいのに、自分から接触しにいってはテンションが上がってしまう。無理に進路を開けづらい。

賢かったのは白ソーヴァリアントの戸崎。黄タイトルホルダーが橙ルペルカーリアの影響を受けて下がった際、影響を受けないよう1頭分外に出して、桃グラティアスの後ろに入っている。

この動きがこの先非常に大きい意味を持ってくる

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このように黄タイトルホルダーが囲まれてしまっている。橙ルペルカーリアと桃グラティアスを突破しなければいけないのが分かるね。

その後ろ、白ソーヴァリアントは黄タイトルホルダーの後ろから離れたことによって、前が桃グラティアスだけという状況になるから、進路は作れる。ここで大きな差ができてしまった。

緑オーソクレースは前の馬たちが動く中、道中ずっと我慢していた。本来だったらここで白ソーヴァリアントを締めないといけないわけだが、締めに行けていない。つまりまだ本調子ではない。

これがもしオーソクレースが本調子であれば、ルメールはゴリゴリに締めてくるタイプだけにソーヴァリアントが簡単に外に出させてもらえなかっただろう。戸崎にとっては少々ラッキーな局面だった。

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これが4コーナー手前の勝負どころ。

進路ができた白ソーヴァリアントが外から上がっていく。序盤に書いたようにフラット寄りの馬場だから、4コーナー外目からでも上がっていける。

締めるように上がっていくから、桃グラティアスが抵抗できない分黄タイトルホルダーの進路がない

その後ろを見ると、赤ヴィクティファルスがいかにも外に出したそうにしているのに、緑オーソクレースにブロックされて外に出せない

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正面から見るとこんな感じ。黄タイトルホルダーが上がっていけないことで、赤ヴィクティファルスが巻き込まれ事故を起こしている

緑オーソクレースのルメールが左手にムチを持って内を締めているから、オーソとタイトルの間のスペースにも入れない。

せっかく内枠スタートから外に出そうとしたのにね。こればかりは展開もあるから仕方ないけど、もったいないことになっている。

レース後池添は「少し追い出しを待たされましたが、前が開いてからはスッと反応してくれました。もう少し自由に運べていたら結果も変わったと思います」と話しているが、それがこの部分だ。展開のアヤ。仕方ないな。

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4コーナー出口が近づいても、黄タイトルホルダーの前は一向に開く気配がない。

これが桃グラティアスが上がってくれれば、その後ろについていくだけでスペースが生まれるのだが、序盤息を入れたいところで外からワールドリバイバル、ルペルカーリアに来られて息をつけず、すでにかなり厳しい展開。伸びていく体力はない。

橙ルペルカーリアも道中掛かってポジションを上げるところがあった。すでにスタミナ面が怪しい。

この2頭の後ろに入ってしまっている黄タイトルホルダーはもう詰みが見えてきている。武史としてはもう、「頼むからルペルカーリアかグラティアスどっちでもいいから下がってくれ」という感覚だっただろうね。

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もう直線はかわいそうだったよ。

黄タイトルホルダーは直線に入っても進路なし。白ソーヴァリアントと似たようなラインにいたのに、ほんの1頭、外にグラティアスがいたおかげで外に出せず、タイトルホルダーは内でもがいている。

対してソーヴァリアントは進路が1頭分あった。これはもう展開のアヤ。最初からこの展開、並びを予想するのは正直難しい。ソーヴァリアントがタイトルホルダーのようなことになる可能性だって十分ありえた。運と並びの差だ。

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泣きっ面に蜂って言葉を考えた昔の人は凄いなと思うよ。絶妙な例え、ワードセンスだと思う。

今回の武史もまさにその言葉がぴったりだ。

前にいた橙ルペルカーリア、桃グラティアスはどちらも伸びる気配がないし、この2頭の間は1頭分もない。暗黙の了解で1頭分以下のスペースは突けないから捌きようがない。

しかも桃グラティアスの松山が左ムチ入れてるんだよね。もう手応えがなくなりつつあるグラティアスにムチを入れる必要があったのか何とも言えないが、疲れているところに左ムチを叩くとどうなるか。

当然馬は叩かれた方向とは逆の方向に動く

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こうなる。

桃グラティアスに外からアタックされた黄タイトルホルダーはこれでジ・エンド。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだろう。

武史がどうすれば良かったのか、これはちょっと難しい問題だ。スタート後、外からやってくるワールドリバイバルやルペルカーリアを意地でも止めて外の2番手を確保し続ければ、前が詰まることはなかっただろう。

ただ譲ってもこのペース。譲らず主張していたらハイペースとなって、どっちにしても下がっていたと思う。

かといって最初から抑えて運んでいたらキレ負ける。キレ負けないように先行しているわけで、当初の作戦とは逆行した動きになってしまう。テンションが高かったことを考えると、今回は取りうる選択肢が少なすぎたことが敗因だと思う。だからこそ詰まり、終わってしまった。

レース後、武史は「マークされる立場で厳しい展開になってしまいました。直線も進路がありませんでした。上手く導いてあげられませんでした」と話している。このコメント通りの内容だったことは、ここまでの回顧を見てもらえれば分かるだろう。

タイトルホルダーのいいところはポジションを取れる競馬センスと持続力だろう。ただこれがテンションが高かったり、外から来られると、時には脆いことが証明されてしまった。明確な弱点が分かったレースだったと思うよ。

「なんで武史は先行しないんだ」とか「先行しないとこの馬の良さが生きない」って声をネット上で目撃したが、先行させて持続力を生かしたほうがいいことは武史が一番よく分かっている

今回に関しては仕方ない。競馬が多頭数で、生き物によって行われている以上展開も生き物だ。武史のミスにカウントされると思うが、こういうレースを経験してポジション取りが更に上手くなる。人馬共に課題が見えたレースだったのではないかな。


逆に同ラインにいたソーヴァリアントは、書いたように外隣にグラティアスがおらず、うまいこと進路を確保できたことが好走要因。春よりスタートが出るようになったことで、競馬が上手くなっている

夏の札幌利尻特別でレース上がり5F12.0-12.0-11.3-10.9-10.9という意味不明ラップで勝ったように、もう重賞を何個も勝てるレベルには到達したのではないかな。いい馬だ。更に成長する。

では菊花賞はどうか、となるとまだ枠次第になるとしか言えないな。戸崎がレース後「1、2コーナーでゴチャついてしまい、気が入ってハミを取ってしまいました。押し切れるかと思ったのですが、最後は切れ味のある馬に負けてしまいました」と話しているように、接触すると気が入ってハミを噛む面が抜けていない。

菊花賞はGI。最初のコーナーまでにポジション取りが激しくなるから接触は当然ある。そこで気が入ってしまい掛かると、3000mが持つのかという不安はあるよ。

3着オーソクレースは道中自力で締めにいけていないように、まだデキ8割だったと思う。見た目も8割。正直厳しいと見ていたが、周りが動く中ルメールがポジションを堅持したことで、その分3着まで上がれた。ルメールのおかげで3着を拾った内容だ。

こんな馬ではない。もっとやれる馬だ。この程度の仕上がりで、展開が向いたからとはいえ3着なら使っていくと楽しみだよね。なかなか使い込めないだけに、無事に行ってほしいよ。

4着カレンルシェルブルは悪くない内容だ。確かにスムーズに運べた、馬場がフラットだったとはいえ、外外を回りながら4着は立派。前走もロンスパ戦を好位で立ちまわって勝っているように、持久力勝負に不安がない点は強み

古馬相手の重賞ともなればもう一段階の成長は必須だが、この馬がまだ2勝クラスに出られるのはズルいな。成長が楽しみな馬だよね。

5着ヴィクティファルスは書いた通り。こちらもまた、タイトルホルダー同様、だったらどうすれば良かったのか明確な答えがない。レースの流れの中での負けだから仕方ないね。

7着ルペルカーリアは現状2200が長いが、身体能力、競走能力の高さから京都新聞杯のように2200mもこなしてしまう。ただここから本質的な部分が出てくるから、いずれはマイル~1800m付近の馬になりそう。2000はこなせるくらいの感覚になりそうだ。

毎日杯でハイペースを踏ん張ったように、現状ワンターンで切れ負けしない時が狙い時ではないか。一周だと少しペースが流れたレースの内枠がいいと思う。今日は枠も良くなかった。

馬は本当にいい。調教のフットワークも素晴らしい馬で、兄貴たちを超えるかというと難しそうだが、重賞何個か獲る素質がある。

9着グラティアスはちょっと何とも言えない。今日は出入りが激しい展開で最後余力がなかった。このレースだけで2200mは長いとは言い切れない。京成杯のように内を使うレースのほうが向いていそうで、2000mの内枠で狙い直したい


さて、ここまで一切名前を出さず、お前は勝ち馬をなんだと思っているんだと言われそうなくらい、アサマノイタズラについて触れてこなかった。

先に結論から書くと、ラッキーだった。

誤解のないようにしてもらいたいのだが、ラッキーだけで重賞は勝てないから力があるのは間違いない。いい馬だよ。ただ今回に関して言えば、ラッキーという面が大きかったと思う。

・スタート後の直線

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・1コーナー出た後

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・向正面

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お分かりだろうか。ポジションが一切変わらないことに。道中勝負どころまでずっとインの後方で待機している。

前の馬たちがどうなったかはここまでの回顧で分かったはず。前があれだけコロコロと隊列が変わる中、じーっと後方ラチ沿いで死んだふりの競馬ができていた。道中リズムが崩れていない。

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4コーナーも持ったまま上がってきて、前にいたのは緑オーソクレースのルメール。いい馬の後ろに入ることができた。ここまで不利なく上がってこれている。

タイトルホルダーがあれだけ詰まったのに対してだよ。もちろん田辺が焦らず、早めに動かなかったのは田辺に色気がなかったからだと思う。

レース後田辺が「どうやって権利を取るか、賞金を加算しようか考えていたので勝ち切ってくれるとはびっくりしました」と話しているが、本心だろう。権利を取るために道中おとなしくして、ラストだけ伸ばす乗り方をしている。

その後「ポジション取りで行きたい馬が多く、そこに参加するにはこの馬がムキになると思い、マイペースを保ってリラックスさせてリズムを守りました。先行集団が団子状態になって消耗が激しかったです」と話しているのだが、この『先行集団が団子状態になって消耗が激しかった』というのが大きなポイント。

前が何度も隊列が変わる条件の中、最後までリズムを守ったのが最大の勝因だし、これもし勝ちに行った場合はリズムを崩して乗るわけだから最後甘くなっていた可能性がある。

権利獲り狙いで後方で溜めたからこそ巡ってきたチャンスだったと言えるし、スプリングS2着賞金しかないことで権利取りに専念することになったのもプラスだったと思う。

確かに仕上がりはまだ甘かった。パドックは良かったけど、いつもいい感じに見せる馬だからまだ9割くらいかなというところ。その中で勝ち切ったのだから価値はある。

ただ一線級相手に、自力で動いて勝てるとは思えない。たぶん菊花賞でも似たような、後方待機策を取ってくるはずで、そうなると前が止まらない限りは届かないレースになってしまうのではないか。

今後古馬重賞で勝ち負けするにはもう一段階成長が欲しい。福島記念あたりで出番があるだろう。あとは道悪の中山記念。『他の馬が苦にする条件』で狙いたい馬だ。

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