24年宝塚記念を振り返る~捲りのずれが生んだ襟裳の夏~
歳は取りたくないものだね。宝塚記念の話だよ。
京都開催の宝塚記念は珍しい。そりゃ元々阪神のGIだからそうなんだけど、それこそ阪神が使えなくなる機会なんて天災か改修だけ。珍しいのも当然さ。今回は18年ぶりの京都開催になる。
06年、ディープインパクトが勝った年の宝塚はよく覚えているんだが、今から18年前という事実を改めて考えると、もう18年経ったのか?という感想しかない。
考えてみてくれよ。ディープの宝塚の頃に生まれた子が、もうまもなく高校卒業するんだぞ。18年一切精神面が成長していないマスクからすると驚くべき話だ。
そんな18年前の京都開催宝塚記念も雨だった。未だにあの時の京都が稍重だったかマスクは疑問で仕方ないのだが、泥も撥ねて、ゴールする頃にはディープインパクトの武さんの勝負服にもだいぶ泥がついていたのをよく覚えている。
この06年を始め、宝塚記念は時期的にどうしても雨に当たりやすい。
☆14年~23年 中央GI 稍重~不良の回数
1位高松宮記念 10回中7回
2位宝塚記念 10回中4回
2位秋華賞 10回中4回
2位皐月賞 10回中4回
5位中山グランドジャンプ 10回中3回
菜種梅雨にあたる高松宮、台風シーズンにあたる秋華賞、そして梅雨時の宝塚の道悪の回数はどうしても目立つね。
今年もそう。金曜の京都競馬場は午前中なかなかの量の雨が降り、土曜も夕方から雨。日曜も一日雨の予報が出ていた。重馬場の巧拙について頭を悩ませたファンも多かったと思う。
加えて今年は例年の阪神ではなく、京都開催だった。阪神開催の場合、基本的に6月1週目、鳴尾記念の週に開催がスタートして、宝塚記念が開催4週目にあたる。
京都の場合、4月半ばのマイラーズC週からスタートして宝塚記念が連続開催10週目になる。使い込んだ馬場に雨が降れば当然馬場は変わりやすい。
今年の宝塚記念は能力だけでなく、10週目、雨が降る馬場に対応できる力が問われる年だろうという見込みは簡単に立った。
外ラチに向かって目一杯追え!
まずは芝の伸びどころの話をしていこう。これは土曜の京都10R、3勝クラスのストークSの模様だ。
☆土曜京都10R ストークS(外回り1400m)
1着 青 ⑦ジョウショーホープ 西村淳
2着 赤 ⑤ビヨンドザヴァレー 松山
3着 橙 ⑭ピピオラ 田口
見て分かるように、土曜は完全に外という状況だ。コーナーでも外目を回った馬が上位に食い込んで、直線も大きく内は空いている。10週目らしい馬場と言えるだろう。
土曜の夕方から日曜にかけてずっと雨。これが晴れたりして乾く環境が生まれればまた話は変わってくるが、10週目の馬場で雨が降り続いていれば内が復活することはない。日曜は同じように外伸びになることが予想できる。
☆日曜京都8R 木屋町特別(内回り2000m)
1着 桃 ⑧バッデレイト 岩田望
2着 赤 ③ハイディージェン 菅原明
3着 緑 ⑥ナムラエイハブ 松山
これは宝塚記念の3つ前のレース、木屋町特別のパトロール。赤ハイディージェンがコーナーで内を使えていることが分かる。
これは馬場が内有利になったのではなく、内回りだから使えているところが大きい。
直線が短く差しがその分入りにくいこと、京都芝は内回りと外回りがあるため、内回りの使用頻度がそこまで多くないことから、内回りだとまだコーナーだけ内がギリギリ使えたんだ。
まー、それでも直線、ハイディージェンの明良が大きく内を開けているように、直線の内は完全に終わっている。内回りでこれなんだから、直線がより長くなる外回りは更に外。
☆日曜京都9R 瀬田特別(外回り1400m)
1着 緑 ⑪クランフォード 西村淳
2着 橙 ⑮マイネルティグレ 戸崎
3着 桃 ⑱シンプリーオーサム 岩田望
実際外回りとなった9Rの瀬田特別は更に外。コーナーで内ラチ沿いを走っていた馬は全て4着以下となり、コーナーで外目を通り、直線も外を通っていた馬が上位を占めている。
内枠4番を引いた人気のソンシが11着だったように、内枠は相当大変だっただろう。この時点でもうハンデ戦のようなものだ。公平な条件かというとそれはない。まー、公平な条件の競馬なんて存在しないんだけどな。
通常年の宝塚記念は阪神の『内回り2200m』なのだが、今年の舞台となる京都だと『外回り2200m』となる。名伯楽よろしく「外ラチに向かって追え」と言いたくなるレースになる可能性は高かった。
みんな同じことを考えるのが競馬
今回の宝塚記念の単勝オッズを見ただろうか。1番人気ドウデュースはそれはそうとして、2番人気がジャスティンパレス、3番人気がブローザホーンだった。
大阪杯でワンツーしたべラジオオペラ、そしてローシャムパークより、天皇賞で2着だったブローザホーンのほうが人気になっていたんだよね。
もちろん能力面を評価されているところはあるだろうが、単純にこれまでの道悪実績が評価されていたことは間違いない。
道悪が問題ないことは週中から多くのメディアで取り上げられていたし、この舞台の不良馬場・烏丸Sで2着に5馬身差をつける圧勝劇を見せていた馬。天気予報を見てこの馬から買いたくなる気持ちはよく分かる。
つまり何が言いたいかというと、『購入側はみんな同じことを考える』のだ。これだけ内が悪い馬場を見せられれば、ファンが外伸びだと考えると同時に、ジョッキーも外伸びだと考える。
より考えさせられたのは内枠の馬たちだろう。内が悪いのはもうみんな分かっている。なるべく外に踏み込んでいきたい。
今回1番人気の支持を集めた青ドウデュースが引いたのは内の4番枠だった。頭数が少ないとはいえ13頭立て。外伸び馬場で内枠を引いただけに、武さんからすると早めに馬場がまだマシな外に出したい。
悪くないスタートを切ったドウデュースを、武さんは馬場を踏まえてゆっくりと外目に誘導していったんだ。ここまではいい。
しかし内枠には限界がある。外に持ち出そうとしたところ、水ヤマニンサンパにブロックされる形になってしまった。これはもう内枠を引いた時点で仕方ない。
外枠を引いた馬としては、せっかく外を引いたのに内の馬に張り出されてポジションを取られてしまうと、更に外を回されてしまって距離を大きくロスしてしまう。当然内を閉じ込めにいく。
本来であれば青ドウデュースの武さんは最低限、橙ローシャムパークの後ろに入りたい。しかし水ヤマニンサンパが壁になってこれ以上外に持ち出せない。
対して桃ブローザホーンは8枠12番を引いたから閉じ込められることがない。フルゲート16頭の16番ならまだしも、12番だから内との距離もより詰めやすかった。
同じような現象が前でも発生していた。赤べラジオオペラのポジションの問題だ。
今回の宝塚記念を考える際、たぶん多くのファンが『逃げ馬の不在』について頭を悩ませたことだと思う。メンバーを見渡すと、ここ最近逃げた馬はゼロ。
こうなると大阪杯で2番手につけていたべラジオオペラが、内目の枠を生かしてハナに立つ可能性が高い。実際赤べラジオオペラの和生はいいスタートを決めた後、押してハナに立とうとしていた。
ただ逃げ馬がいないことはファンが思っている時点でジョッキーも分かっている。こういうメンバーだと色気を持って逃げようとする馬が出てくるのが競馬だ。
緑カラテが逃げる素振りを見せてきたんだよ。まー、和生もいくら13頭立て、先行馬が少ないからって、簡単にハナを切れるなんて思ってはいなかっただろう。
レース後「今までいろんな形の競馬をしてきましたし、この馬のペース以上の動きをしてきた馬を行かせて運びました」と和生が話している。つまりカラテはべラジオオペラのペース以上の動きをしてきたわけ。
2枚目の写真を見ると分かるが、赤べラジオオペラの和生は少し外のほうを見ている。緑カラテを行かせて、外の2番手に切り返そうとしている。
しかし後ろの馬視点からすると、赤ベラジオオペラに楽に外の2番手に入られたくない。緑カラテがハイペースで逃げることもないだろうし、オペラにスローの2番手なんて取られたら自分が負けてしまう。
オペラの動きを察知したのが黄プラダリアの池添だ。緑カラテがハナを切ってからモタついている間に、一気に赤べラジオオペラにフタをしにいったんだよ。
ジョッキー視点だとこんなところ。これは1コーナーだが、黄プラダリアの池添に外からガッチリフタをされている。
カラテがハナを切った後にちょっとモタついたのもあるが、外のプラダリアにフタをされた上に、スローと読んだルージュエヴァイユの川田が早めに進出した結果、べラジオオペラは4番手となってしまったんだ。
正面から見るとこう。赤べラジオオペラは最初好スタートを決めてハナというプランまであったのに、そのまま4番手までポジションを下げてしまった。
これもまた『べラジオオペラに楽な競馬をさせると危ない』と他のジョッキーが考えたから発生した現象だよな。外伸びであることを考えると、悪いインに押し込められるのは当然いいことではない。
後ろを見ると青ドウデュースがまだ水ヤマニンサンパが邪魔で外に行き切れていない。内枠の上位人気たちの1コーナーの入りはお世辞にもいいとは言えないもので、このあたりに内枠の難しさが出てしまっている。
前述したように通常の宝塚は阪神。6月開催の4週目にあたる。雨が多い開催だから外伸びになることも多いが、晴れ続きなら内が持つ。
今年は6月に入ってから雨の中の開催はそうなかっただけに、阪神開催のままなら内で我慢して脚を溜めるやり方はむしろ正解だった可能性があるし、外に出す動きなんてしなくて良かったかもしれない。10週目の京都開催が勝負を分けているシーンさ。
外に出したい38年目、締めたい6年目
冒頭に記したように、今年の宝塚記念は18年ぶりの京都開催だった。今年18歳を迎える人間にとって、京都の宝塚を買うのは初めての経験さ。いや、馬券は20歳から買えるものだ、間違えた。
その前に京都で宝塚記念が行われたのは1995年ダンツシアトルが勝った年。阪神大震災の年だ。その前が91年、メジロライアンとメジロマックイーンで決まった年。
当時ライアンに騎乗したのが横山ノリさん、マックイーンに騎乗したのが武さん。91年といえば今から33年前だが、33年前にGIでワンツーしていた人たちが今も普通に活躍しているんだから凄い。
宝塚記念の裏の東京メイン、パラダイスSでは50歳台のジョッキーによるワンツースリーだった。本当に元気な方々だ。
武さんもあれだけ若々しくてももう38年目。ありとあらゆる競馬の形を経験し、競馬のセオリーを知り尽くしていると言ってもいい。
青ドウデュース武さんのプランニングとしては、完全に外に出せなかった以上橙ローシャムパークの後ろについていくのがベストだったろう。
覚えている人間も多いと思うが、ローシャムパークは前走の大阪杯でマクっていた。今回も想定されるペースはスロー。ペースが落ちたところでローシャムパークが動いていく可能性は十分ある。
その後ろに亀田トレインよろしくついていけば風除けにもなり、楽に外目のいいポジションまでついていける。
と、武さんが考えていることは、桃ブローザホーンに騎乗する6年目の明良も分かっている。仮にブローザホーンとドウデュースのポジションが逆であれば、明良はローシャムの後ろについていきたかったろうし、武さんは外から明良を締めただろう。
自分の内に人気馬がいる場合、外から締めるというのは競馬の鉄則だ。レースにおいてもちろん自分の力を出し切るのは当然のこととして、相手に実力を出し切らせないように乗るのも重要な要素になってくる。
向正面。桃ブローザホーンの明良が橙ローシャムパークの真後ろを取り切り、外から青ドウデュースを締めているのが分かる。
武さんとしては外に出してローシャムパークの後ろをついていきたいところだがね。簡単に出したらブローザホーンが更に外を回されてロスが増す。
外に出たい38年目、出したくない6年目。向正面で静かな探り合いが行われていたのが今年の宝塚記念だった。
一応内も見ておこう。逃げた桃ルージュエヴァイユの川田が内を開けながら逃げている。
川田は馬場をよく読むタイプ。実際目をこらして見ると、桃線を引いた部分より内が蹄跡で荒れて、桃線より外のほうが見た目がいい。ギリギリのところを走らせていた。
その真後ろに黒ジャスティンパレス。ルメールもこういうところがソツがないよな。ギリギリのラインの上を通りながら、なおかつ上手い騎手の後ろのラインに入っているあたりさすがだ。
ではそのラインの内にいるジョッキーは何も考えていないかというと、これは違う。当然内が悪いことくらい分かっている。白シュトルーヴェはそもそも最内枠を引いてしまい外に出しきれていない。
緑カラテはこのメンバーの中でも道悪適性は上位。ギリギリのラインのちょっと内を通って、少しでもロスを削ろうとしている。
黄ヒートオンビートの瑠星はもう割り切って、ラチ沿いをロスなく回って体力を温存しにいったんだろう。見た目は荒れていてもラチ沿い1頭分だけはマシというのはよくある話。ヒートオンビート自体道悪が苦手。消耗を少しでも防ぎたい意図が伝わってくる。
平坦の毛皮を被った京都競馬場
この前、X上で誰かが函館競馬場と札幌競馬場を平坦コースだと言っていた。誰が言ったかは忘れた。たぶんえなことかそのあたりだったと思う。記憶違いかもしれない。
特段触れなかったが、マスクとしては正直何を言っているんだろうと思った。札幌はほぼ平坦だが、函館は起伏があるコースだからだ。しかしイメージから、函館は平坦として扱われることが意外と多い。
福島もそうだよな。直線に坂があるのに平坦にカウントされることが多い。もちろん中山などに比べれば坂は緩やかなんだが。
京都コースを『平坦コース』と呼ぶ人間もたまに見かけるのだが、本当にそうか?といつも思う。
上は通常宝塚記念が行われている阪神の内回り。下は今年宝塚記念が行われた京都の外回り。
ご覧のように『平坦』と呼ばれやすい京都は3コーナーを頂点に上り坂と下り坂が存在する。まー、これは有名な話であって、今更細かく書くことではないだろう。
もちろん直線最後に急坂がある阪神のほうがよりしんどいのは間違いないが、京都は『平坦』ではなく『直線が平坦』と書くのが正しい。
なんでこんな民明書房発行の正しい日本語の使い方講座みたいなことをしているかというと、今回の宝塚記念に少し関連してくるからさ。
☆24年宝塚記念
12.4-10.9-12.3-12.7-12.7-12.9-12.2-11.4-11.7-11.3-11.5
600m通過 35.6
1000m通過 61.0
ラスト1000m 58.1
今年の宝塚記念のラップを見た時にまず目につくのが、残り800mから11秒台が4連発になっているところだ。
京都外回りは残り800m手前から下り坂に入るため、どうしてもこういうラップになりやすい。問題は今回の宝塚記念が『重馬場』で行われていること。
下り坂が11秒台になるのは分かる。その後、重馬場なのに後ろが全部11秒台が並ぶのはなかなか速い。
☆24年宝塚記念 重
12.4-10.9-12.3-12.7-12.7-12.9-12.2-11.4-11.7-11.3-11.5
600m通過 35.6
1000m通過 61.0
ラスト1000m 58.1
今年の宝塚は中盤が牝馬限定GIより緩んだことで、息がだいぶ入ってしまったんだよ。馬場を踏まえても今年の中盤は緩んだ。その分下り坂からゴールまでが速い。
ここで思い出してほしい。メンバーの中にマクる馬がいただろう。そう、ローシャムパークだ。
橙ローシャムパークがマクっていって、ローシャムから買っていた人間は喜んだかもしれないが、マスクはレースを見ながら違和感を覚えていた。そこでマクるか?とね。
☆24年宝塚記念 重
12.4-10.9-12.3-12.7-12.7-12.9-12.2-11.4-11.7-11.3-11.5
上の画像3枚は大体このあたりだ。確かに今年の宝塚は中盤緩んでマクりやすいペースだったのだが、一番緩んだのは向正面の12.7-12.9のところ。
ローシャムパーク戸崎が動いたのは一番緩んだところの『少し後』なんだよ。しかも一気にマクるでもなく、ジワジワと先頭に並びかけるタイプのマクりだ。
戸崎の迷いが出たと見ている。画像を見ていただければなんとなく分かると思うが、向正面で橙ローシャムパークが引っ掛かっていた。VTRで見ると分かる。
レース後「もう少しリラックスして走ることができたら、もう少し我慢できたと思います」と戸崎も話している。ローシャムパークは乗り難しい。これに関しては仕方ないところがある。
掛かった馬を、この重たい馬場で早めに動かしたら脚が上がる。と、戸崎も考える。そのため動きが少し遅くなる。
それにより、マクりきりかけたところで下り坂に入ってしまったんだよ。マクる馬にとって一番困るのは、マクっている時に全体がペースアップしてしまうことだ。そうなるとマクりきるまでに余計に脚を使ってしまう。
京都外回りは残り800手前から下り坂があるため自動的にペースアップする。戸崎もそれを知らないわけはないだろうが、迷っているうちに中途半端なマクりになってしまった。
「捲り切る事も視野に入っていましたが、内目の馬場が悪く、マクっていって内に行かないとなると他馬に牽制されると思い、徐々に押し上げる形を選択しました」とレース後語っているように、その気持ちは分かる。内に行くと馬場のよりいい外から食われるからね。
しかし諸々考え過ぎた結果、中途半端なマクりになって、後ろからついてきた馬たちを助けるだけで終わってしまった。
マクった橙ローシャムパークの後ろは楽なもんだ。ローシャムが前を潰しに行ってくれたし、ついていけば過度に外を回されることもない。
具体的には桃ブローザホーン、水ディープボンド、緑ソールオリエンス、大目に見て青ドウデュースあたりが恵まれるポジションになる。
逆に言えば、マクられる側である赤べラジオオペラがしんどい。この重たい馬場だ、よりギリギリまで仕掛けを待ちたいところだが、仕掛けを待っていると外からマクられてしまう。
こうなるともうべラジオオペラはローシャムパークのマクりを止めないといけないんだよね。勝ちに行くならマクりきられないよう、自分からペースアップするしかない。
「ローシャムパークに動かされた分最後にしんどくなりましたが、よく頑張って走ってくれたと思います」
これはべラジオオペラの和生のレース後のコメントだ。まー、そうだよなという思いしかない。
しかも馬場が悪かった。3コーナー出口を正面から見ても、赤丸で囲んだ部分を大きく開けて、黄プラダリア、赤べラジオオペラが回り、更に外を橙ローシャムパークが回っている。
これだとローシャムはただ外を無駄に回っているだけだし、ベラジオは自分から動かないと勝てないから苦しいよな。
桃ルージュエヴァイユの川田は確かに内を開けているが、2頭分空けているかどうか。前半出した9R瀬田特別のコーナーの画像を見ても分かるが、この川田の通った部分はまだ通れる。
黄プラダリアの池添がもっと内も通れるのに、念を入れたか、より外を回ったこともあって、これでローシャムパークは終わった。
正直中途半端なマクりだし、そもそもそうなったのは前半の掛かった分だし、乗り難しいところがダイレクトに敗因として出てしまった形だ。
折り合い面を考えれば2000のほうが良さそうだし、動けるコースのほうが良さそう。マクりが嵌まりやすい札幌記念を使ってほしい。ぜひマクってくれ。直前輸送がない分テンション面もよりマシになると思うのだが。
Don't Deuce
今回評価が分かれたのはドウデュースだろう。道悪は過去2回走ってどちらも4着以下だが、どちらもフランスでのもの。
日本の道悪なら走れる可能性があったし、どこまで道悪をこなすのか、悩んだ人間は多かったと思う。マスクもそのうちの一人だ。
向正面。外から橙ローシャムパークが動いていく。桃ブローザホーンがその後ろからジワジワと上がっていく。
問題はここで最後方まで下がってしまった青ドウデュースの武さんがドウするかだ。外から動くブローザホーンたちについていくのか、それとも馬群の真ん中を通すのか。
武さんが選択したのは後者のほうの作戦だった。橙ローシャムパークが外からマクる中、青ドウデュースの武さんは馬群の後ろでまだ我慢している。
ここで注目したいのは水ヤマニンサンパの真後ろにいることだ。もう口からタコを食べたいレベルで書いてきていることだが、有利なポジションは強い馬の後ろ、上手い人の後ろ。
ヤマニンサンパが弱いというわけではない。ただこのメンバーの中で、客観的に見て力が上かというとそれは違うだろう。そんなことは武さんも百も承知。なのにヤマニンサンパの後ろで我慢している。
前述したように今年の宝塚記念は向正面でだいぶペースが緩んでいた。正確にラップを把握してくる武さんも当然分かっている。このペースだといくら外伸びでも、更に外を回せば届かない可能性が出てくるわけ。
京都9R瀬田特別を見ても、勝った緑クランフォードの通ったところが内から2頭目。外回りのコーナー部分の内から2頭目はまだ通れる。
武さんは内目を通してはいるが、内ラチ沿いは通っていない。ヤマニンサンパの後ろから白シュトルーヴェの後ろに入り込んで、距離のロスを削ってきた。確かに橙ローシャムパークや桃ブローザホーンに比べればロスはない。
しかも道悪になると4コーナーの出口の馬群はバラける。バラければ詰まる可能性は低い。これは道悪あるある。
白シュトルーヴェのレーンが外に持ち出される中で、青ドウデュースの武さんはその内から上がってきた。
馬場が最も悪いのは、内回りとの合流点からゴールまでの内、青丸で囲んだ部分だ。
極端な話、芝がそれまで50Rやったとして、25Rが内回りで25Rが外回りなら(そんなことはないが)、内回りも外回りも3、4コーナーはそれぞれ半分しか使わない。
逆に合流点からゴール前までは全部の芝のレースで使われている。青ドウデュースはこの一番悪い合流点の内の部分を回避しているんだ。考えられた作戦だと思う。
ただ青ドウデュースの武さんが右ムチを叩いて外に、外に進路を取りに行っても、当たり前の話だがその部分はもうすでに誰かが走っている。
桃ブローザホーンの走っている部分はそれこそ返し馬と、帰る誘導馬くらいしか使っていない部分。どちらが状態がいいかといえばブローザホーンの走っている部分だろう。
馬場のせいだけにはできないだろうね。武さんはレース後「4コーナーで外を回りすぎると思い、切り換えて内を選択しました」と話しているが、そもそも論、武さんは反応が良かったら最初からブローザホーンを内から弾くようにしてローシャムの後ろを取り、ついていくことだって可能だった。
それがあえて動かず、ロスを削りに行ったこと、それまでの手応えを見ても、外を回すだけの余力はなかったと考えられる。
「少し行きたがっていましたが問題ない程度でした。状態も良かったし、結果は馬場のせいにはしたくないです」とも話しているように、ここまで動けないのは少し行きたがったことや馬場などが複合的に絡んでの結果だと思う。
有馬記念で2500をこなしているものの、マスクは予想などでまだこの馬の距離不安について言及していた。あの肩回りで2500をこなしているのは変な話だと思っていて、調教で信じられないくらい動くようにマイル~2000がベストという思いは変わっていない。
道悪になると2200以上が長くなる、とシンプルに捉えている。ただそうなると大目標となる凱旋門賞が苦しい。秋のパリは雨が多い。その中で2400m、まず持たない可能性のほうが高い。
ただ以前、有馬記念の回顧で触れたように、この馬はもうベスト条件だけ狙って使う馬ではないとも思っているんだよね。夢を見せる馬なんだと思う。ベストの状態でマイルCSなどを使うとどうなるか見たいのだが、そういう次元で語る馬ではなさそうだ。
なんの深い意味もなく、フランスに挑戦してほしい。夢を見せられる馬なんてそういるもんじゃない。
特殊レースのその後
今年の宝塚記念は特殊なレースだったと言っていいだろう。もちろん道悪だったことはそうだし、それでいて中盤しっかり緩んで、残り800mから11秒台。
これが東京だったらまた違うラップになるし、内回りの大阪杯ともまた違うラップの構成。宝塚記念と親和性のある有馬記念はありえるかもしれないが、開催4週目の有馬がここまで外伸びになることはほぼない。
加えて今回は京都の連続開催10週目だった影響で、芝Dコースでの開催だったのも大きかったと思う。
上位馬は直線それこそアイビスサマーダッシュのごとく外ラチに近いところを走っていたが、これは左上の黒丸で囲んだ部分から分かるように、今は仮柵を最も外に置いたDコース。外ラチがAコースで走る時よりだいぶ近くにある。
先に動いていたブローザホーンはまだしも、連れてきてもらった部分がある2着ソールオリエンスは懐疑的に見ているところ。道悪がいいのはパドックからも分かったが(レース前にX投稿済)、加えて前が中途半端なマクりで引っ張ってくれた利はある。
そんなに器用ではないから中山や内回り2000mはそこまで合わない。東京であればある程度の結果は出るのだろうが、今回の結果=完全復活とは見ていない。まだトモも頼りないし、武史も言うように成長しきっているわけではない。
マスクはいずれこの馬を安田記念で使ってほしいんだけどな。とりあえず東京1800、毎日王冠を使うとどうなるかは見たい。オールカマー使ってきそうだよなあ。この馬はワンターンの広いコースで面白いと思うのだが。
3着べラジオオペラはもうあらかた触れている。序盤ポジションを1列後ろに下げてしまったことで、結果ローシャムパークのマクりに対応する役割になってしまった。
自力で動く厳しい形になりながら最後まで粘って3着だから、内容自体は悪くない。ただ同時に器用過ぎるところも露呈したのではないかな。最後決め手のある馬にやられてしまう。
ダービーで上がり3Fメンバー中最速の33.0を使って4着に食い込んだ馬ではあるが、あの時は最内枠。これから秋、GIは東京中心になる。小回りになる中山有馬記念は2500mと距離が怪しい。出脚もいいだけに、一度マイルで見たい馬。
今回+12kgだったが、成長分だね。腹回りが分厚くなっている。昨年末のチャレンジCが514kg、今回が518kg、数字だけなら4kg差だが、まるで違う馬。このままいい成長曲線をたどれば秋、もっと成長した姿を見せてくれるかもな。
底が見えつつあるのは4着プラダリア。よく頑張っているが、序盤から中盤にかけて息が入る流れを2番手で流れに乗れていた。得意の道悪、そして得意の京都で、完璧に立ち回って外から食われ4着。現状G1奪取は難しい。
京都大賞典を使ってくると思うが、内枠なら上位。その先は東京だと難しそうだし、有馬記念でも展開恵まれても少し苦しそう。それこそ勝つなら今回だった。
7着ディープボンドもだいぶ苦しい。不運だったのは中盤まで緩んで、道悪の割に終いの上がりが速かったこと。ブローザホーンとソールオリエンスがこの馬場で上がり3F34.0を使う流れではどうしても切れ負ける。
それにしても条件自体恵まれたのは事実。幸がレース後「もう少し前で競馬をするつもりでしたが、思ったより進んで行かず、ポジションが自分が考えていたより後ろになりました」とコメントしているが、これが全てではないか。
天皇賞春→宝塚に短縮した時は2→4着、2→5着、3→7着といずれも着順を落としている。歳を重ねるごとに短縮で動けなくなってきたな。
だったら大阪杯から直行で延長すればいいかというと、今度は天皇賞春を使えなくなる。3200m、使いたいだろう?年齢的にもうここから極端な上昇はないだろう。以前から書いているように、取れる時に取らないと、というパターン。
8着ルージュエヴァイユについては距離。この馬はそもそも2200が気持ち長い。道悪になったら普通に長い。エリザベス女王杯をこなしているから2200も持つと思われているものの、本質は1800~2000。
たぶん府中牝馬なんだろうが、マスクは試しに一度クイーンSを使ってほしい。もちろん馬場、枠は問うが、滞在で1800mに加え、この馬は今収得賞金6950万なんだよ。
クイーンSは4歳以上が55kg。そこに『収得賞金が3000万円を超過した馬は超過額2000万円毎に1kg増』というルールだから、5000万~が56kg、7000万~が57kg。ギリギリ50万足りない結果56kgで出られるんだよ。たかが1kgだが、お得なことに変わりはない。使わないだろうなあ…。
※クイーンSがグレード別定に変更になったことを完全に失念していた。ただそうなるとエリザベス女王杯2着がありながら重賞を勝っていないエヴァイユは基礎斤量55kgで出られる。むしろプラス。ぜひ、クイーンSに。
10着ジャスティンパレスについては馬場、枠。結果内目が苦しい馬場で、なおかつ道悪ともなれば話にならなさそうだね。
この馬も道悪をどこまでできるか戦前ポイントに上げられていた馬だが、思った以上にできなかった。稍重までかな。レース前のテンションもちょっと怪しかった。ある程度ノーカンに近い扱い。
同じくノーカンなのが11着シュトルーヴェ。道悪で最内枠。まー、今回は仕方ない。馬がだいぶ強くなってきている。うまく夏を超えられれば秋が楽しみな一頭。
あまり触れてこなかったのが大変申し訳ないのだが、最後に1着ブローザホーンの話をしよう。
まずは勝因として、ここまで書いてきたように道悪、そして外枠だろう。勝つ時は条件がここまで揃うのだなというところで、不良馬場の烏丸Sで5馬身差で勝った適性の高さをまざまざと見せつけた。
母親にオートクレールも不良馬場の紅葉Sでスイスイ走って10番人気1着になったように、道悪の上手い馬だった。そこにエピファネイア。血だね。
以前からエピファネイア早熟説を否定しているマスクだが、使うたびに馬が良くなっているところ。加えて折り合い面を気にしなくていい距離短縮でもあった。全て揃ったね、今回は。
もちろん全て揃ったからといって、能力がなければGIは勝てない。日経新春杯の数字も素晴らしかった馬で、引き続き直線が平坦に近ければ良馬場のGIでもやれると思う。直線に急坂があるコースだと数字が落ちるところがある馬だから、ここは注意。
明良も良かったな。デビュー前から知っている存在だけに嬉しいね。礼儀正しいし、技術もある。GIを勝つのも時間の問題と思えるジョッキーの一人だったが、条件がほぼ全て揃った今回しっかり勝ち切ったのは大きい。
GIを何度も勝つジョッキーはこういうチャンスを逃さないし、逃さないから次の依頼が来る。馬質が更に一段階上がってくるんじゃないかな。
おじさんの三浦(堅治)さんはジョッキー時代、GIには手が届かなかった。おじさんも喜んでいると思う。良かったな明良。たまにやる雑なミスがなくなれば関東リーディングトップ3も狙えると思うぞ。
そういえば開催後、グリーンチャンネルの生産者インタビューで、『近年の宝塚記念はノーザンファームか岡田スタッドの生産馬ばかり勝っている』という話をしていたが、なるほど、確かにそうだな。
今年が岡田スタッドのブローザホーン、昨年はノーザンのイクイノックス、その前が岡田スタッドのタイトルホルダー、その前ばノーザンのクロノジェネシス、リスグラシュー、ミッキーロケット…
岡田スタッドは謙遜していたが、ノーザン全盛のこの時代に宝塚でほぼ五分になっているのは凄い話さ。宝塚といえば前述したように梅雨時、タフな馬場での開催になりやすい。今日なんてまさにそう。
☆岡田スタッド生産馬 過去3年の芝
良馬場 勝率6.5%、連対率12.7%、複勝率19.8%
稍重馬場 勝率6.9%、連対率14.2%、複勝率19.1%
重馬場 勝率8.5%、連対率16.2%、複勝率25.4%
不良馬場 勝率34.8%、連対率34.8%、複勝率39.1%
レース前に言えよって話もあるかもしれないが、マスクの中で以前から押さえているデータの一つさ。岡田スタッドの生産の馬たちは重たい馬場を苦にしない馬が多い。
これはもちろん血統もあるが、やはり中期育成がえりも分場で行われていることが大きいと思う。非常に過酷な土地で、耐えた馬は勝手にタフな馬になるという凄い場所。えりもの過酷な環境に比べたら、今日の馬場も良馬場みたいなものなのかもしれないね。
えりも分場、つまり前のエクセルマネジメント、その前はえりも農場。1978年の宝塚記念を勝った『気まぐれジョージ』ことエリモジョージもえりもで鍛えられた1頭だ。
エリモジョージが勝った1978年の宝塚記念も重馬場。今回ブローザホーンが勝った時も重馬場。襟裳の夏は色々あり過ぎる。おあとがよろしいようで。