重曹(NaHCO₃)

重曹(NaHCO₃)はクエン酸と並んで名前がよく知られている物質の1つです。重曹の呼び名は重炭酸曹達の略です。曹達(ソーダ)とはナトリウム(Sodium)のことです。ナトリウムの元素記号(Na)にもなっているNatriumはドイツ語になります。

重曹は加熱すると分解して二酸化炭素が発生します。その性質を利用してベーキングパウダーとしても利用されています。理科の授業でカルメ焼きを作る実験をしたことがある方も多いかと思います。ところで、カルメ焼きを理科室で上手に作れる人はいるのでしょうか?私も含めて多くの人はうまく膨らまなかったり、加熱のし過ぎで焦げたりしていた思い出があります。

重曹はアルカリ性を示す物質であり、加熱以外では酸と反応して二酸化炭素を発生する性質があります。酸であるクエン酸と反応させることで二酸化炭素を発生させて炭酸水を作る方法があります。炭酸水をソーダ水ということがあるのは、重曹を使って炭酸水を作っていたことに由来するようです¹⁾。

重曹は水酸化ナトリウム(NaOH)と比較して穏やかなアルカリ性を示します。そのため、家庭での清掃にもよく用いられ、特に油汚れに対して効果を発揮します。重曹が油汚れを落とすのはどのような原理なのでしょうか?それは重曹のアルカリ性によって油汚れに含まれる油脂を分解²⁾しているためであると考えられます。

油脂は以下のような構造式(図1)で表され、これをトリアシルグリセロールと呼びます(Rの部分は炭素が連なった形をしています。様々な長さのものがあり、途中に二重結合を持つ構造を持つものもあります。今回、詳細は省略して今回はRと記述します。)。

図1. トリアシルグリセロール(それぞれの油脂の主成分)の一般構造

反応機構を式1に示しました。重曹と水により発生した水酸化物イオン(-OH)が、油脂のカルボニル基(C=O)の炭素に攻撃します。その結果、油脂の分子からカルボン酸(RCOOH)が分離していきます。アルカリ性での反応なので、カルボン酸は速やかに中和されて塩を形成します(この場合はナトリウム塩)。この反応があと2回繰り返し起きると、合計で1分子のグリセリンと3分子のカルボン酸のナトリウム塩が生成します。グリセリンとこの塩は水溶性なので水で洗い流すことができます。ゆえに油汚れを落とすことができます。

式1

なお、この反応の機構は油脂から石けんを作る時の反応(けん化反応)と同じになります(さらに大きな括りで表すとエステルのアルカリによる加水分解です。)。石けんの製造の場合は水酸化ナトリウムなどの強アルカリが使用されるため、重曹の場合よりもスムーズに反応が進行すると考えられます。

重曹で油汚れを掃除する際にこのような化学反応が起きていると考えると、化学を身近に感じることができるのかもしれません。

【参考文献】
1) 川口液化ケミカル株式会社, 炭酸水を「曹達」というのか?, https://klchem.co.jp/blog/2015/01/post-2492.php (2023年12月15日閲覧)

2) 以下のWebページでは更に他の要因についても考察しています。
Chem-Station, 「重曹でお掃除」の化学(その2), https://www.chem-station.com/blog/2012/03/post-360.html (2023年12月15日閲覧)