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新人看護師に知っておいてほしい呼吸の考え方

すでにいろんなサイトで呼吸について実践的な内容を取り上げていて、たくさん読む機会があると思います。ここでは少し切り口を変えたものをまとめていきたいと思います。疾患ごとの病態を細かく説明するというよりは、解剖生理をもとにベッドサイドでの考え方をどう組み立てるか?ということを読みながらイメージできるように構成してみました。参考サイトを交えながら読んでみてください。そして最後に症例問題を用意したのでぜひチャレンジしてみてください。

この症例の解説は最後に書いてあります、興味のある方はご一読ください。

人はなぜ呼吸をするのか?

これは私が新人看護師に必ず問いかける質問です。なんだか哲学的ですね。
なぜだと思いますか?ちょっと考えてから続きを読んでみてください。

生きていくためというのはその通りなんですが、ここは看護師らしく解剖生理で考えていきましょう。

結論からいうと取り込んだ酸素により生命活動に必要なエネルギーを生み出して、代わりに産まれた二酸化炭素を吐き出すためです。
吸って吐くから呼吸。スーハー。

吸気で酸素を取り込み、呼気で二酸化炭素を出す

呼吸が生み出すエネルギー

吸った酸素により生み出すエネルギーというのがいわゆるATPですね。アデノシン三リン酸。国家試験を思い出しましたか?ちなみにATPを作るためには酸素だけでなくリン(P)も必要です。酸素の取り込みも重要なんですが、リンがないと結局エネルギー不足になってしまうんですよね…というような栄養のお話はまた別の機会に。

酸素の値が下がる原因を知る

酸素が取り込めているかはSpO2(≠SaO2)で評価する、これは一般的ですね。ちなみにこのことを酸素化と言います。
重要なことはSpO2が下がった時にその原因を考えられるようにしておくことです。

原因は大きくざっくりと3つに分かれます。
1.肺が原因
2.脳神経が原因
3.胸郭が原因

肺そのものが原因のときと、それ以外が原因のとき、と言い変えることもできます。

原因1.肺が原因

・肺水腫、無気肺、間質性肺炎、ARDSあたりが代表的な疾患ですね。
前回のnoteで何事も解剖生理が大切と言ったことを有言実行し、早速解剖的に分けてみましょう。肺で酸素化が悪化する原因は主に4つに分けられます。

気道(気管支):無気肺
肺胞:肺水腫・ARDS
間質:間質性肺炎(IP)
血管:肺塞栓症(PE)
※あくまで代表的なものとして挙げた一例です

一つ一つ見ていきましょう。

①気道:無気肺

いわゆる痰づまりですね。気管支が痰(血液などもあります)で詰まっているから酸素が肺胞内に入る事ができずに酸素化が悪くなります。肺炎なんかで起きやすいです。聴診すると呼吸音が減弱したり消失しているため、呼吸音が悪い肺を上にする姿勢をとってもらうと塞いでいた痰が重力で取れて酸素化が改善します。必要に応じて吸引もします。

痰が詰まって酸素が入らなくなる(シャント)

②肺胞:肺水腫

肺胞内に水が溜まっているため酸素が肺→血管に通過しにくくなり酸素化が悪くなります。代表的なものは心不全や輸液過剰投与などがあり、これらは血管内の水が多くなることで肺にも水が溜まって発症します(左心不全)。治療は水を調節しながら重症例は人工呼吸器をつけて肺胞を無理やり内側から広げて水を飛ばすという荒技を行います。

②肺胞:ARDS

なんらかの感染症で血管内が炎症を起こし、血管の透過性が亢進することで肺胞内に水がたまることで酸素化が悪化します。ARDSの病態はこれだけでもnoteになるぐらい複雑なのでこの辺りにしておきます。治療は感染症の治療とともに酸素化を悪化させない対症療法になります。重症になれば肺水腫と同じように人工呼吸器です。

肺胞に水が溜まって酸素が血管に取り込めなくなる(拡散障害)

とまぁ一つ一つ書いていこうと思ったのですが、ここで言いたいことは病気の話ではなく、酸素化が悪くなる原因を解剖生理をもとに考えましょう。ということなんです。なのでこれ以降は割愛しますので、看護Roo!などをみていただきながら深めていただければと思います。もしリクエストがあるようならこういう一覧をいつか作ります。多分。
参考サイト:看護Roo! 肺水腫(APE)

一応イラストだけは用意したので載せておきますね。

③間質:間質性肺炎(IP)

間質に炎症が起きて酸素が血管内に取り込みにくくなる(拡散障害)

④血管:肺塞栓症(PE)

血管が詰まっているため血管に酸素を取り込んでも全身に届けられなくなる


ということで、酸素化が悪くなる原因は解剖生理別に分けられるし、それぞれ治療や看護が異なるということはなんとなくわかっていただけたでしょうか。(レポート等で疾患をまとめる場合に解剖生理が重要とお伝えした理由も伝わっているといいのですが…)

一応ざっくり書くと場所別の対応はこんな感じです。結構乱暴かも…
気道→痰(閉塞の原因)をとる
②肺胞→水をとる(ARDSは感染もとる)
③間質→炎症をとる
④血管→血の塊(閉塞の原因)をとる

もちろん治療の間に対症療法として酸素を投与するといったことは並行して行いますからね。
酸素化が悪くなった患者さんをみたら、何が原因だろう?というのをまずはこの4つに当てはめながら考えつつ先輩に報告と対応の相談をしていきましょう。

ちなみにこの4つは必ず一つだけ起きているとも限らないんですよ。2つ以上の原因が肺のいろんな場所で少しずつ起きていることもあります。その時は対応が二つ以上同時に行われることになります。現病歴や既往歴からリスクを考えて予測することもできますが、この辺りは経験しながら先輩と学んでいくことが重要ですね(無責任?)。

参考サイト:看護Roo! ガス交換の仕組み

ぜひ解いてみてください、ただし正解はどこにも書いてないためセルフチェックということで。


後から思い出したのですが、換気血流不均衡についても簡単に書いておきます。酸素化について考える時に重要な要素です。
肺に入った酸素と、肺に流れている血流の割合は1:1のように常に均等であることが好ましいです。(厳密には部位によってちょっと違うのですが)

酸素が100%取り込まれ、血流も100%流れているため比率は1


例えば間質性肺炎の方は間質で酸素の通りがゆっくりになるため、時間あたりに肺に入る酸素の量は減ります。今回は例えとして50%としてみました。そして血液の量は正常の方と変わりません。そうすると比率は0.5となるため、全身に行く時間あたりの酸素の量が半分まで減ることになります。これが換気血流不均衡の状態です。

こういう時に血管が収縮するという人体の神秘も実はあります(詳細割愛)

HOT(在宅酸素療法)が対症療法として有効なのは、取り込みが悪い状態でも酸素濃度を上げることで時間あたりの血液中の酸素量を維持できるからです。

ただし運動時はさらに注意が必要となります。例えばトイレ歩行などで体を動かすと運動により血流が200%まで上昇(適当です)するのに対し、酸素の取り込みは50%のままなので換気血流比は0.25まで減ってしまいます。つまり時間あたりの酸素量がさらに不足するということですね。患者さんはとても苦しくなってしまいます。

間質性肺炎の人が運動時に低酸素になるのは換気血流比が下がるから

対応としては、歩行時はあらかじめ酸素流量を上げることで低酸素を防ぐようにすることです。具体的には「酸素投与:安静時1L/min、運動時3L/min」といった指示になっているため、受け持つ機会があったらぜひ一度確認してみてください。

換気血流不均衡の説明はまだまだあるのですが、今回はこのぐらいにさせてください。

原因2.脳神経に問題がある

実はここからが今回書きたかったポイントなんです。

呼吸中枢は脳にありますよね。
そして脳から出た指令を肺(胸郭)まで伝えるのが神経です。
そのどちらか、あるいは両方の調子が悪いと呼吸が止まり、酸素がそもそも体内に取り込めなくなるため酸素化が悪くなります。放っておけば…
肺は問題ないのに取り込む方に問題がある、というのがポイントです。

先ほどの反省を糧にしてここはざっくりとだけ書きます。

脳→喬や延髄の梗塞、CO2ナルコーシス、薬剤
神経→ギランバレー
※あくまで代表的なものとして挙げた一例です

呼吸中枢がやられてしまうと呼吸を促す指令が出ないため、呼吸が止まっちゃいますよね。鎮静剤や麻薬といった薬剤で呼吸中枢を抑えつけてしまう状況でも同じ事が言えます。CO2ナルコーシスは説明が長くなるため参考サイトを参照してください(無責任)。結果だけ書くと、呼吸中枢が抑制されるため呼吸が止まってしまいます。

参考サイト:看護Roo! 呼吸不全の理解

神経がやられてしまうと、呼吸を促す指令が出ていてもそれが呼吸筋まで伝達されないためやっぱり呼吸が止まっちゃいますよね。

ということで、これ以降の各論的なものは別なところで勉強していただくとして(無責任)、ここでお伝えしたいのは呼吸の評価の重要性なんです。
正確にいうと酸素化だけじゃなくてちゃんと換気もみていますか?ということです。

酸素化と換気を分けて評価する

酸素化と換気を合わせて呼吸と言います。
酸素化の評価はSpO2を見ればいいので一般的なのですが、換気の評価があまり重要視されていない傾向にあります。(どのぐらい意識してましたか?)

換気は呼吸数と深さ、呼吸様式(努力呼吸)で評価します。
血液ガスで採血すればPaCO2、ICUならEtCO2センサーで数値的な評価もできますが、それだけではなく観察でも評価するようにしましょう。

例えば肺炎などで入院してくる人はハーハーと苦しそうに呼吸しています。
身体の中では感染症と戦うために代謝をあげ、熱を上げ、色々な免疫を働かせています。当然エネルギーをたくさん使うわけです。

エネルギーをたくさん使うということは酸素がたくさん必要になるし、その結果生み出される二酸化炭素の量も増えます。
人間は換気をしないと二酸化炭素がどんどん体内に溜まって体が酸性に傾いてしまうため、呼吸数を増やしたり一回の呼吸を深くすることで二酸化炭素の排泄を促します。(酸性化についてはまた別の機会に。)

治療によってハーハーが落ち着いてきたらその治療が有効だと判断できますし、いつまでも続いていたりむしろ悪化するようなら治療の効果がない(もしくは新たに何かが起きている)可能性があるため先輩とドクターコールについて相談したほうがいいと思います。そういった一手を打つためにも日常的に換気や呼吸様式を評価する習慣をつけておきましょう。

換気の評価がひと段落したところで話を脳神経に戻します。脳神経の問題で呼吸が停止するところをお伝えしましたが、その手前の時点で酸素化の悪化が起きていることを書き忘れていました。いわゆる肺胞低換気というやつです。

換気が悪いと体内に二酸化炭素が溜まり、酸性に傾くことを先ほど書きました。これは血管内の話だったのですが、今回は肺の中(肺胞内)の話を含みます。換気がしっかりできないと肺の中に溜まった二酸化炭素を外に出せないですよね。そして当然肺の容量は有限なため二酸化炭素が肺の中に溜まるということは肺胞内に酸素が入る割合が必然的に減ってきてしまいます

肺胞に入る酸素が減る分、酸素化が悪くなるということですね。
この時に血流が問題なければ換気血流比は低くなることも想像できるんじゃないかと思います。

原因3.胸郭に問題がある

筋肉→筋ジストロフィー
骨→骨折(フレイルチェスト)
※あくまで代表的なものとして挙げた一例です

ここまできたら細かい説明は不要ですね。はい、酸素化が悪くなる理由は脳神経と同じ肺胞低換気です。呼吸筋が動かないと肺が広がりませんし、骨折で胸郭がベコベコしてしまうと胸腔内がしっかり陰圧にならないためやはり肺が広がりません。
胸腔内が陰圧ってどういうことか?は、いつか胸腔ドレーンを取り上げた時にでも説明できたらいいなと思っていますが、看護Roo!にもしっかり書いてあるためそちらを参照してください。
参考サイト:看護Roo! 呼吸器の解剖

さて、ここで問題になるのは有名な呼吸器疾患により元々換気能力が低い患者さんです。あえてこの一覧には載せてませんでしたが、想像つくでしょうか?

COPDの方ですね。色々説明は省きますが、最大の呼吸筋である横隔膜が平坦化することで胸腔内を陰圧にすることができず、肺が広がりにくい状態にあります。これが換気能力が低いと書いた主な理由です。

この状態を解消すべく、肩呼吸したり首周りの筋肉(呼吸補助筋)を使用して少しでも肺を広げ、少しでも多く換気しようと頑張っているわけです。あっ、COPDの病態もちょっと説明ボリュームが多くなるためこのぐらいにさせてください…いつか書きます、いつか。
参考サイト:看護Roo!  慢性閉塞性肺疾患(COPD)

ということで、ちゃんと換気が行われているのかをみることってすごく重要なことが少しでも伝わりましたでしょうか。

ベッドサイドに行ったら必ず呼吸数や深さなどを見る癖を今のうちからつけておきましょう。例え酸素化に問題なくてもハーハーしてたら「あれ?エネルギーをたくさん使うような状況が起きてる?熱測ってみようかな」と考えることができるようになりますからね。なんの既往歴もない人が安静時に肩呼吸や首周りの呼吸補助筋を使用していたらそれはえらいこっちゃなんですよ。

そうそう、換気の問題があり自力で十分な換気がもうできないと判断される場合は、NPPVなどの人工呼吸器で換気を補助します。二酸化炭素を吐かせつつ、酸素をしっかり取り込めるようになりますからね。

最後に一型呼吸不全と二型呼吸不全

ここまで呼吸について読んでいただいた方は、ここからの説明を読むことで一型と二型についての印象が大きく変わるのではないかと思います。

一型:低酸素
二型:低酸素+高二酸化炭素

細かい数値等を省くと定義としてはこのようになります。
参考サイト:日本呼吸器学会 呼吸不全(一般向けの説明)

これを今までの説明に置き換えてみると
一型:肺が悪い
二型:肺とそれ以外が悪い or 肺以外が悪い
※無気肺が両肺で広範に起きているなどの極端な例は除きます。

こうなるわけです。
つまり病棟でSpO2が低下した人を見たら酸素投与しつつ意識や換気を評価して、換気が問題ないなら肺の問題だと判断できるんですよね。血液ガスをとって二酸化炭素が上がっていないことを確認できたら完璧です。あとは肺の問題に書いた対応をしていく流れになるため、考え方としてはシンプルになるのではないでしょうか。(実際は時間との戦いのため経験が必要になってきますが。)

もちろん明らかに換気に問題がありそうなら、NPPVなどのセッティングも必要になるかもしれません。あ、その時は意識が落ちていないか、痰が多くないかなどのNPPVの適応についてもチェックすることが重要ですよ。

力試しの症例テスト

正解は「終わりに」の後を参照ください

終わりに➕テストの解説

ということで、換気の重要性と最後の一型と二型の考え方をお伝えすべく書き始めたら、結果的にものすごい長いnoteになってしまいました。
それでもだいぶ説明を省いたのですが、ここまで長文にお付き合いいただいた方がいらっしゃったら本当にありがとうございます。そして何かのお役に立てたら嬉しいです。

テストの解説
Q1.どうやら酸素化に問題はあるものの換気は問題なさそうですね。胸の音も問題なさそうなので、まずは無気肺が否定できます。
入院歴から考えると特異なものはぱっと見なさそうですし、呼吸数も正常なので感染症等によりエネルギーを必要としている状況ではなさそうです。感染症系がなければARDSは否定、心不全系がなければ肺水腫も否定できそうです。ということでこの場合は肺塞栓症が一番疑われやすいです。(酸素投与で改善を認めるのは…などの意見もあると思いますが、あくまで症例ですし私見なので悪しからず)

Q2.では呼吸不全のタイプはどうでしょうか?換気に問題がないためおそらく一型になるでしょう。え?PaO2測定してないし酸素解離曲線状も定義に引っかからないんじゃないかって?…まぁまぁ、あくまで考え方なので細かいことは置いておいて、今後陥るリスクがあることを予測しながらってことで進めていきましょう。

Q3.肺塞栓症が疑われるならCT撮影して診断を確定させることが重要ですね。呼吸器のセッティングは今の時点ではいらないと思います。例えばSpO280%台で酸素投与開始しても改善されないとか、呼吸数が40回ぐらいあって治療開始しても一向に良くならないといった状況になればセッティングしておいた方がいいでしょう。

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