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【この曲がすごい】マニアック解説第5弾!シューベルト交響曲第5番

この記事はこちらの動画を基にしています。

 このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。

 第5弾はシューベルト交響曲第5番変ロ長調です。この曲は同じシューベルトの第7番『未完成』や第8番『グレイト』より人気はやや落ちるものの、初期の作品の中では非常に人気のある作品です。その理由はモーツァルトのような優美な愛らしさだと思われますが、実はそれだけでは片づけられない奥深さがあります。

シューベルト交響曲第5番ってどんな曲?


 まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。
 この曲は1816年(なんと19歳!)に作曲されました。例えばベートーヴェンが最初の交響曲を作曲したのが30歳頃なので、その早熟ぶりは驚くべきことです。

 彼が影響を受けたモーツァルトを思わせる古典派風の様式で、全体的に優美で愛らしい雰囲気を持っています。
 楽器編成はフルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、弦楽器5部という小規模なものです。当時の一般的なオーケストラに入っているクラリネットやティンパニ、トランペットはありません。これはシューベルトの知り合いの集まりで、そのような編成のオーケストラが演奏することを想定していたからではないか、と言われています。
 ちょうど下の絵のようにシューベルトを囲む会が開かれており、「シューベルティアーデ」と呼ばれていたそうです。

ユリウス・シュミット『シューベルティアーデ』

ここがすごい!

第1楽章

 それでは第1楽章から順に、すごいポイントを見ていきましょう。
 この楽章は伝統的なソナタ形式の楽章で、明るい多幸感に満ちています。
 序奏はたった4小節ですが曲全体の世界観を決定づけるものとなっています。具体的には、管楽器が陽光のような温かい和音を奏で、その合間をヴァイオリンが軽やかに駆け抜けるように登場します。そこからシームレスに主題へ流れる様は、本当に魔法のようです。一瞬ですが、ぜひ聴き逃さないようにしてください。

 提示部は開放的な第1主題と落ち着いた第2主題が登場します。第1主題は上昇音型を繰り返すシンプルなものですが、その合間に序奏で現れた「駆け抜けるような音型」の断片が華を添えます。第2主題は繊細な美しさを持っていますが、その要因はさりげなく短調へ転調するところにあります。このちょっとした陰りが非常に重要です。モーツァルトもそうですが、こうしたさりげない転調は天才のなせる業だと思います。

 展開部は第1主題の上昇音型に序奏の「駆け抜けるような音型」が絡むやや緊迫感のあるものです。しかし、ドラマティックとまではいかず、あくまで節度を持ったまま再現部へ収束していきます。
 そして、再現部は提示部の繰り返しとなるのですが、そっくりそのまま再現するのではなく、高い音域へ移行することで浄化されたような雰囲気が出ています。ここをいかに演奏するかが奏者の腕の見せ所でしょう。

第2楽章

 第2楽章はめくるめく転調の妙が堪能できるロンド形式の楽章です。
 ロンド形式とは主題と副主題を繰り返す形式で、マーラーやチャイコフスキーのときにも出てきました。この曲の場合はシンプルにABABAコーダという構造です。
 まず穏やかな主題Aが、次に推進力のある副主題Bが登場します。いずれもシンプルなメロディの繰り返しですが、次々と転調していきます。副主題はハーモニーや楽器の移り変わり、強弱など変化に富んでいます。
 その後、主題が変奏されて出てきます。ちょうどこの楽章の真ん中あたり、後半になると大きく転調し、一気に暗さが増します。副主題もやはり転調しており、暗さが増しています。
 最後にもう一度、もとの調で主題が回帰し、コーダで静かに終わります。このあたりの何とも言えない寂寥感はシューベルト独特の味わいだと思います。また、こうした転調の妙や闇の深さは、後の『未完成』でより一層花開きます。

第3楽章

 第3楽章はスケルツォ風のメヌエットです。
 スケルツォとは「冗談」を意味する軽い楽曲のことで、メヌエットはそのもとになったとされるフランスの宮廷舞曲です。
 ところが、宮廷舞曲の優雅なイメージとはかけ離れた暗い激しさがあります。中間部では穏やかな雰囲気になりますが、激しい主部がそっくりそのまま再現されます。
 これはモーツァルトの交響曲第40番第3楽章をオマージュしているから、と言われています。この楽章の調性はモーツァルトと同じト短調(中間部はト長調)です。また、拍子も3小節単位と2小節単位を繰り返す変拍子風のもので、これもモーツァルトとよく似ています。
 最後にリンクを貼った音源ではモーツァルトの交響曲第40番も収録されているので、ぜひ合わせて聴いてみてください。

第4楽章

 第4楽章はくるくると表情が変わる変幻自在のソナタ形式の楽章です。
 第1主題は浮足立つように軽快な前半と嵐のように激しい後半、第2主題は慰めるように穏やかな前半と脱力したように虚ろな後半で構成されます。
 展開部と再現部は短めのため、リピートされることもあります。この構造は古典派の交響曲によく見られたものでした。

まとめ

 いかがでしたでしょうか? この曲に潜む奥深さを少しでも感じていただけたら幸いです。


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