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【この曲がすごい】マニアック解説第10弾!ラヴェル左手のためのピアノ協奏曲ニ長調

この記事はこちらの動画を基にしています。

このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。

第10弾はラヴェル左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
ラヴェルの作品は人工的な冷たさや鮮烈な響きが魅力です。有名な「ボレロ」や「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「ラ・ヴァルス」、「マ・メール・ロワ」、「クープランの墓」、「ダフニスとクロエ」など素晴らしい作品はたくさんありますが、今回はやや異色作である左手のためのピアノ協奏曲を取り上げたいと思います。

では、この曲はいったいどこが魅力的なのか、これから見ていきたいと思います。

左手のためのピアノ協奏曲ってどんな曲?


まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。
1929年(54歳)、第一次世界大戦で右手を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインからの依頼を受けます。
これを受け、すでに構想していたピアノ協奏曲ト長調を並行して左手のためのピアノ協奏曲の作曲を進めます。
そして、1930年に完成、翌年にヴィトゲンシュタイン自身のピアノによって初演されました。

この作品の特徴は、まず切れ目なしに続く単一楽章の曲だということです。
その中で、レントーアレグローレント(緩急緩)という3部構成を取っています。
自筆譜には「混在するミューズたち」と書かれており、抒情性や諧謔味、ジャズに行進曲といった様々な要素が詰め込まれた意欲作となっています。
また、全体的に暗く鬱屈した雰囲気を持っており、ラヴェルの作品の中では異例の直接的な情念が満ちています。

ここがすごい!


それでは第1部から順にすごいポイントを見ていきましょう。

第1部

レント。うごめくような低弦に導かれてコントラファゴットが主題を提示します。コントラファゴットはファゴットの倍の長さを持った楽器で、木管楽器の中で最も低い音を出すことができます。ラヴェルは「マ・メール・ロワ」の「美女と野獣の対話」という曲の中で、野獣を表現するのにもこの楽器を用いています。
その主題を中心に展開し、次第に音量が増していくと、盛り上がりの頂点でピアノが華麗に登場します。
ここから長いピアノのソロ(カデンツァ)に入り、トゥッティで主題が確立されます。
その後、ピアノのソロが抒情的な副主題を提示します。途中から管楽器が主要主題を演奏し、再び盛り上がります。

第2部

アレグロ。先ほどの盛り上がりの頂点で行進曲のリズムが登場します。
これにピアノが駆け抜けるようなメロディで応えます。この部分はいわゆる「裏拍(オフビート)」と呼ばれるリズムで、ジャズの雰囲気を演出しています。
その後、ピッコロのおどけたようなメロディとファゴットの息の長いメロディが登場します。これらのメロディが楽器を交代しながら繰り返され、ピアノの「ジャズ」も絡みながら盛り上がっていきます。

第3部

再びレント。先ほどの盛り上がりの頂点で第1部の主題が高らかに再現されます。この部分は壮大なカタストロフで、崩壊するような悲壮感があります。
その後、ピアノの長いカデンツァとなり、第2部のファゴットのメロディ、第1部の副主題、主題の順に回想していきます。
最後は全オーケストラが第2部の「ジャズ」を一瞬回想して、あっけなく終わります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
左手のためのピアノ協奏曲では、普段はクールなラヴェルが珍しく暗い感情を露にしています。第2部のジャズも愉快なスウィングを感じさせるというより、焦燥感に駆られているように感じます。

この曲の初演から間もない1932年にラヴェルは交通事故に遭い、それがきっかけでもともと悩まされていた記憶障害や言語障害が悪化してしまいます。作曲もままならなくなってしまった彼の晩年は悲惨です。
彼がキャリアの終盤に書いたこの曲を聴いていると、直接的には関係がないとはいえ、そうしたことにも思いを馳せてしまいます。


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