【小説】JK芹沢千絵理はかく語りき Op.7『私のソナタⅣ』
会長の協力を取り付けた翌日の放課後、生徒会副会長の天原さんという人に呼び出された。
「芹沢さん、新しい部活を作ろうとしているのはあなたね?」
「はい」
「申し訳ないけど、諦めてくれないかな」
「なぜでしょうか?」
彼女は予算のことやこの学校の保守的な体質のことを教えてくれた。
「だから、部活を立ち上げるのはかなり難しいと思う」
「しかし、会長は協力してくれると…」
「お願い!あの子をこれ以上困らせないで!」
「え?」
「コウは…会長はね、昔から頼まれると断れない性格なの。本当は彼だって荷が重いと感じているはず。だから、これ以上負担を増やしてほしくない…」
「……」
私は生徒会室へ向かった。会長はおそらくそこにいるだろうと天原さんが教えてくれた。
やはり会長はそこにいた。
私は部活発足の件についていったん白紙に戻すつもりだと伝えようとすると、会長は「ごめんなさい」と繰り返して涙を流してしまった。思いの外、彼は追い詰められていたようである。私は何もできず、ただただうろたえていた。
「あの、えっと、私、飲み物買ってきますね!」
私は逃げるように生徒会室を出て、自販機コーナーへ向かった。私はすぐに戻るのが気まずくて、ゆっくりと飲み物を吟味してから、しばらく生徒会室の前の廊下を彷徨していた。我ながら情けない。
「あの、お茶で良かったですか?」
「ありがとう」
生徒会室の扉を開くと、ちょうど会長も落ち着いてきたようだった。
「ねえ、なんで部活を作りたいの?見たところ部員、2人みたいだけど」
「私、もともとは一人でクラシック音楽を聴いていたんです。誰とも関わらず…」
青井輝と偶然コンサートホールで出会ったこと。仲間と音楽の素晴らしさを共有する楽しさを知ったこと。もっといろんな人にクラシック音楽を聴いてほしいと思うようになったこと。そんなことを会長に語った。
「いいなぁ…」
「あの、会長も聴いてみます?クラシック」
「え?」
「今、ちょうどCD持ってるんで良かったらどうぞ!」
「あ、どうも」
「これ、チャイコフスキーの交響曲第4番という曲で、なんだろうこう、クラシック音楽のエッセンスみたいに濃厚で…いきなり全部は長いかもしれないので、第4楽章だけでも良かったら!」
「うん」
「それでは、失礼します!」
私は本来の目的をすっかり忘れて生徒会室を後にした。顔から火が出そうになっていた。
翌日の昼休み、会長が私に会いに来た。
「昨日は驚かせてしまってごめんなさい。それからCDありがとう。上手く言葉にできないんだけど、自分と似たように感じている人の曲だって感じたよ」
「そうですか。良かったです」
「それで部活発足の件なんだけど…」
「あ、はい」
「あらためて協力させてほしい」
「え!?」
「古典音楽鑑賞部、絶対に発足させよう!」
まったく意外な言葉に私は驚愕した。
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