古舘伊知郎風に羽生-藤井王将戦への期待を煽る。
我々は太陽が毎日、後悔を残して西の彼方へ沈んでいくのを見つめる。そして我々は太陽が毎日、新たな期待と共に東から昇ってくるのを見つめる。我々はふと考えてしまいます。昨日の太陽はどこへいったのだろうかと。西へ沈んだ太陽が戻ってくることはない、それが我々の常識であります。空に太陽がふたつ昇ることはない、それが我々の常識であります!
しかしここ将棋界はそんな常識が一切通用しない世界なのか! 第72期ALSOK杯王将戦7番勝負、この勝負はまさに、昨日の太陽と今日の太陽はどちらの輝きが強いのか!? その謎が解き明かされるアリーナであります!
しかし誰もが見たいと強く願いながらも、どこか諦めているところがあったのではないでしょうか。
しかしこの男だけは諦めていませんでした、いや、この男は諦める方法を知らないのでしょう、チャレンジャー・羽生善治九段!
通算タイトル99期、その鍛え上げた永世称号は7つを揃えた羽生善治52歳。今現在こそ無冠ではありますが、この男が将棋界の帝王であることは誰もが認めるところであります! その帝王がまたしても新たなる王冠を戴こうとしている!
その棋風はまるで、時の流れに耐え鍛え抜かれた矢倉のビルディングのようでもあれば、52歳の衰えを感じさせない軽やかさで横歩を取る空中戦も得意とする変幻自在、この男が苦手とするのは唯一寝癖を直すことだけでありましょう!
さて羽生挑戦者ですが、ここ数年調子を落としておりました。脚に問題を抱えていたという情報もこちらには入ってきております。
その不調の海に溺れながら、もがくように昨シーズンは珍しく振り飛車の採用が目立ちました。あいにく結果は出ませんでしたが、海の奥底で何かを見つけたのでしょう。
今期は打って変わって勝率6割9分と調子を戻し、この王将リーグは強豪を全て薙ぎ倒し6戦全勝で挑戦権を手にしました! まさに昇り竜のごとき上り調子! 海の奥底から反動をつけて戻ってきたこの竜は、一体どれほどの高みまで届いてしまうのか!? あるいはこの竜にとって、タイトル100期などは通過点に過ぎないのかもしれません!
さて52歳のチャレンジャーを迎え撃つのは弱冠20歳にして通算タイトル10期、タイトルを獲得することはあっても失ったことはありません。
お前のものは俺のもの、どんな戦法もお手の物、愛知県瀬戸市が生み出した瀬戸物が今では城を10も20も獲ろうとしているぞ、藤井聡太王将!
その棋風はAIが作り上げたまるでジャングルのように四方八方に伸びる枝の中を、ひとりすいすいと潜り抜けていくまるで虎のように鍛え上げた闘志と狂気を感じさせるものであります!
藤井の指し手はまるでターミネーターのように正確でありますが、真に驚くべきことは、藤井はターミネーターでもAIでもないひとりの汗をかく人間として、その正確な指し手を更新し続けているところであります!
羽生挑戦者が諦め方を知らないとすれば、この男は負け方を知らないのでしょう! タイトル戦に限って見ても38勝7敗、勝率にして8割5分7厘! ご覧下さい、まるで鍛え抜かれた大胸筋のように盛り上がったこの数字を!
第72期ALSOK杯王将戦7番勝負、竜と虎のどちらが強いのか。その年齢差はなんと32歳! 藤井聡太王将の無敗伝説が更新されるのか、羽生善治挑戦者の100期という伝説が達成されるのか。最後に笑うのは果たして藤井でありましょうか、羽生でありましょうか?
我々人間は欲深いもので、本当にそのどちらも見たいと願ってしまいます。しかし我々は残酷にもどちらか片方の結果しか目にすることが出来ません。しかし、どちらにしても我々は伝説を目にすることになるでしょう! さあゴングが鳴らされる――!
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