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私がコンサルの糞便撒き散らし労働より生活保護を選んだ理由

以下で取り扱うような邪悪な仕事を私は「ビスカンバー・レイバー」という言葉で表現したい。Bescumberとは古英語で「糞便を撒き散らす」という意味だ。その代表例としてSEOライティングを主たる業務として行うWebコンサルタントをあげつらうことになる。ビスカンバー・レイバーという表現は無論デイヴィッド・グレーバーによるベストセラー、『ブルシット・ジョブ』を元ネタにしている。

ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わねばならないように感じている。

最初に『ブルシット・ジョブ』を読んだとき、私は「ずいぶん優しく書くのだな」と思った。ブルシット・ジョブの定義は上の通りだが、「有害である仕事」というよりは書名の通り「クソどうでもいい無意味な仕事」に焦点を当てた本である。しかし私は本稿で、無くなっても構わない無意味な仕事について語りたいのではなく、無くなった方がいい有害な仕事を批判したい。少なくとも社会にとってはそちらの方が喫緊の課題であろうから。その力点を強調するために、わざわざビスカンバー・レイバーなる用語をでっちあげたわけである。

Webコンサルの仕事内容を現役無職が徹底解説!

私は以前、コンサルタント会社によるオウンドメディア運営を手伝っていたことがある。クライアントには、JPX日経400銘柄のような信頼ある大企業も含まれていた。
以下ではコンサルで実際に使われていたSEOライティングマニュアルを参照しながら、それがいかにビスカンバーであるかを解説する。

ネタ元のコンサル会社様へ。私と御社の間にはいかなる雇用契約も秘密保持契約も結ばれたことはなく、また以下で行う引用は著作権法上適法の範囲に留まると私は確信しています。しかし万が一問題があると思われた場合はTwitter宛にメッセージを送っていただければ、該当部分を即座に削除し、同時に本来の著作権者として御社の名前を発表する用意があります。お気軽にご連絡ください。

最近Googleの検索結果で「○○が××を解説!」みたいなタイトルの記事をよく見かけないだろうか。以前までは「いかがでしたかブログ」と呼ばれる個人ブログが検索上位に来ることが多かったが、検索アルゴリズムの変化により上位から駆逐され、近頃は企業のオウンドメディアによる解説記事が代わって目立ってきている。
個人ブログと違って、きちんとした企業が書いた記事なら信用できると思っている方が多いだろう。その信用は完全にニセモノである。

猿でもできる!オウンドメディア執筆マニュアル

多くの企業はオウンドメディア運営をコンサルに丸投げしている。というよりも、そもそもコンサルが「御社のオウンドメディアを作りませんか? 金さえ出してくれりゃこっちで執筆も運営もやるんで、客が勝手にGoogleから流れ込んできますよ!」という甘言をささやくのである。そうして作られたオウンドメディアは「Googleで上位に来そうな記事」を掲載することに全力を振り絞ることになる。
そのために行われるのがSEOライティングという名のビスカンバー・レイバーである。SEOライティングとは要するに、Googleのご機嫌をとるための執筆術である。それは具体的には以下のように行われる。

①売れそうな検索キーワードを選定する。

GoogleとYahoo!のサジェスト、及びGoogleキーワードプランナーに基づいて、どのような検索ワードで上位を目指すかを決定する。サジェストについて説明の必要は無いだろうが、キーワードプランナーはさらに詳しく「ITエンジニア」で検索する人は月○○人で、その場合ウチはサジェストで「未経験」「向いている人」とかを出してて、各○○人くらいですよ! と有料で教えてくれるものだ。それらによって記事の顔となるメインワードと、記事中にちりばめるサブワードを選定する。以下では説明のために「ITエンジニア 向いている人」をメインワードとしたとしよう。

②上位サイトをパクって目次を決める

次に「ITエンジニア 向いている人」で検索した上位5サイトほどで何が取り扱われているかを調べ、それらを適当に組み合わせて見出しを作る。「1位のサイトより情報量を増やせ」という指示で実際に意味されているのは、「1位のサイトだけでなく2位3位からもパクれ」である。Googleは単純なコピペは見抜けるが、テーマやアイディアのパクリは見抜くことができず、情報量が多い記事を上位に出す傾向がある。そこを突くわけだ。

③上位サイトから情報をバレないようにパクる

執筆において、ライターがオリジナルの考えを持つことは許されない。全ての項目に「パクリ元」をWordのコメント機能で添付することを義務づけられている。まあ、それらの出典も最終的に公開される時には全て取り除かれて、あたかも0から書かれたオリジナルコンテンツのような顔をするわけであるが。それは文章を書く仕事ではなく、純粋に他人の文章を盗み歪曲する仕事だった。

④検索結果が汚染される

そうして無名のゴーストライターによって書かれた記事は、適当に偉そうな肩書きの人の名義で発表されることになる。実際に「ITエンジニア 向いている人」で検索するとこうなっている。明らかにこのキーワードで上位を取ろう、クリックされようとしている記事ばかりであることが分かるだろう。

「ITエンジニア 向いている人」のGoogle検索結果(2022.10.27)

必ずしもこれらの記事の全てが上述のプロセスで書かれているとは限らないが、少なくともこれから「ITエンジニア 向いている人」で書かれる数多のコピペ記事はこれらの記事から剽窃し、いずれさらに別の記事がまたそれを剽窃し、結果としてインターネットには劣化コピーが溢れる。「検索需要があるところに情報を供給している」と言えば聞こえはいいけれども、実際は既に十分供給されている情報を歪めてコピーしてオリジナルの上に立とうとしているわけで、ただ単にクソを撒き散らしているだけである。

この責任の一端はGoogleにある。「もし製品が無料ならば、あなたが製品なのだ」とはよく言ったもので、Googleは客の知的必要性を売り飛ばしている。戦争中の二国と同時に商売する武器商人のようなものだ。もし仮にGoogleの検索結果が素晴らしいものであるのなら、ここで述べた不満はすべて帳消しになるのかもしれない。しかし、実際はそうなっていない。

大卒はコンサルになるべきではない

以上が「コンサル」の仕事の中身である。なぜこんなことになってしまったのか? もちろんGoogleはクソだ。しかし、コンサルとそれを利用する企業も十分にクソであると私は言いたい。コンサルの社長は言っていた。「ウチは早稲田慶応とかからも人を採ってるからねェ」――ちょっと滅びてはいただけないでしょうか?
大学を卒業した人間は、先行研究を適切に引用して独自の論を立てることがよいことであるという学問的倫理を持っていることが当然期待できるのであって、コピペ職人を雇いたいなら大卒から探すべきではないし、もしそんな糞便撒き散らし労働を(コンサルとかライターとかいったキラキラ言葉に騙されて?)すすんで行う大卒がいるのだとしたら、その人は大学を卒業するべきではなかった。
少なくとも私は仕事として剽窃を行うことが苦痛で仕方なかった。「インターネットで既にありふれている情報をコピペしてインターネットに再放流する」作業から少しでも逃れようと、わずかでもインターネットに有益な情報を増やそうと書籍や雑誌からの剽窃も行ったが、上司からは「何わざわざ面倒なことしてんの?」みたいな態度を取られてしまい、最終的に何も書くことができなくなってしまった。
まあ、ともあれこの仕事により私がものを書くということについて何か神聖な感情を持っていることを自覚できたので、結果としては悪い経験ではなかったと思う。滅びてはほしい気持ちに変わりはないが。

ビスカンバー・レイバーから遠く離れて

無職の私が言うのもどうかと思うけれど、仕事は本来的には喜びを得られるもののはずだ。私は喜びを得られない仕事からは撤退したが、不思議なのは喜んでビスカンバー・レイバーを行っているように見える人々のことである。ご存じのようにコンサルは「イケてる仕事」の代表格である。その肩書きを得るために、彼ら彼女らは苦痛を伴う労働に従事しているのだろうか。そうは見えない。彼ら彼女らは本気で「他者の文章を盗んで歪める仕事」を「イケてる仕事」だと思い込んでいるのだ。悲劇的というほかない。

私はこうした仕事を断固として拒絶する。「うんちはトイレでしましょう」というレベルの常識が通じない人々と仕事をしたとして、そこから私が喜びを得られるとは到底思えないから。確かに私はうんこ製造機たる生活保護受給者だが、自分がうんこ製造機であることは自覚している。有害な仕事を行うのであれば、有害な仕事を行っている自覚を持て、というのはそんなに常識外れな要求だろうか? もしそれが常識外れであるのなら、そんな社会はこちらから願い下げである。正しいことを正しいと言える社会であってほしいのだけれども。


その後見つけた、経営者の過去の犯罪歴等を無意味な情報で押し流し、検索結果を意味のないものにしてしまうビスカンバー・レイバーの標本。


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