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映画「FLEE フリー」観ました

*ネタバレあり
アフガニスタンカブール育ちの少年が家族と共に国外逃亡し、一人デンマークで暮らすに至るまでの回想記…アニメなので観やすい、ってことだったけど。
アニメは、心象風景を表現するのに向くね。主人公の体験と心理が、自分の体内に移ってくるような生々しさを感じました。時々実写が混ざる…主に昔のニュース映像…1980年代のアフガニスタンやソ連崩壊後のモスクワの様子…。アフガニスタン内戦時の死体が写っている映像もあるので要注意。これはアニメだけど現実なのです。
物語は、まだカブールに戦乱が及んでなかった、主人公の幼い記憶から始まります。主人公の下の兄は、徴兵されないようよく逃げていた…政府のトラックが人を狩るようにして若者男子を集める場面がある…「若者は誰も戦争にいきたくない、たいてい死んでしまうから」というナレーション。そうだよね、どこの誰だってそうだ。
家族と共にアフガニスタンを脱出した少年が行ったのはモスクワ。モスクワでの生活は酷かったけど、それでも命をつなげたのはロシアだけが観光ビザを出してくれたからで。ロシアに思惑があったとしても。他国は、知らんぷりで彼らを見捨てた。
その後、主人公と家族はモスクワからの脱出をはかります。その描写と心情が繊細に描かれている。狭い真っ暗な船底に閉じ込められ、嵐の中皆が吐きまくりやがて浸水し…ようやく大きな船に見つけてもらって、皆が助けてくれえと手を降る中、看板から彼らの写真を撮る裕福な観光客たち…。結局助けてもらえず難民センターへ。そのリアルな映像が写ります…非人間的な不潔極まりない場所。「世界の記者に期待したけれど、彼らは難民センターの様子を撮影して帰っただけ」。モスクワに送り還され、今度は一人だけでモスクワを脱出。家族が高いお金を払い、よりましな密入国者に彼を託した。地獄の沙汰も金次第。古くからの真理なんだな。儲け話に人が群がる…
偽造パスポート使い天涯孤独のふりをしてコペンハーゲンへ無事入国。現在は安定した暮らしを得た主人公。でも、心は深く傷ついている。そして怯えている。不法滞在者だから…ばれたらいつアフガニスタンに戻されるかわからない…。
彼の傷心が深く心に刺さってくる。難民の心の内を知ることができる貴重な作品でした。日本で暮らす難民のこと、入国管理センターのこと…考えずにはいられない。
そして、かつてベトナムを命がけで脱出したボートピープルのこと思い出す。茶の間でごはんを食べながらそのニュースを観ていた私は、映画の中の船上の白人…助けを求めるアフガニスタン難民の写真を撮るだけ…と変わりなかった、とも思うのです。

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