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「言葉を失ったあとで」(信田さよ子上間陽子)を読みました

著名なお二人の対談本。とても面白かったです。
家族に関する著書が多数ある信田氏。TVや雑誌にもよく登場されてきました。NHKの30分番組が印象に残っています。“親を捨ててもいいか”というのがテーマでした。親を愛せない深刻な事情が報道されても、若い司会アナウンサーお二人には問題の根深さがピンとこられてないような…でもそれが世間の多数派の反応なんだろうなとも思ったり…。その中で信田氏が、“親を捨ててもいいんだよ、と言ってあげることが重要なんだと思う”と発言していて、救いに感じた。あの言葉がなければ、“こんな酷い事情もあるけど、親を捨てるのはやはりひどいこと、そうならないよう対策が必要なんだんだ”と、残酷な正義で締め括られていた気がする。
「言葉を失ったあとで」の中で信田氏が語るこの数十年の日本の歴史…精神科医や心理士の世界、国家試験のことetc…が、とても興味深かったです。
そして、近年脚光を浴びている上間陽子さん。私は、上間氏の著書「裸足で生きる」を読んで以来、著者のお人柄のファンです。研究者としての誠実な姿勢が伝わってきて温かい気持ちになる。
「海をあげる」で本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞、そのときのスピーチ冴えてましたね。“ネットの匿名性を担保にした悪意ある言葉がいかに人の心を削り奈落に落とすか”考えてほしいと、臨席するエラい人々に、穏やかな語り口でお願いしていました。
「言葉を失ったあとで」では、上間氏の女の子への取材方法が詳しく語られています。3千円の薄謝を渡している、という言葉に、「取材は無報酬が基本」の概念に縛られていた自分自身にはっとした。
取材の性質、自分の思い、取材者との関係…話を聞かせてもらうのにベストな状況はどうあるべきか、自分自身で考え決めていけばいいことなのだ。上間氏が、話をしてくれた女の子へのお土産として、綺麗なお菓子を用意している話に感じ入った。辛い話をした子は、そのことが大きなダメージとなって心に残る。家に帰ってからきれいなお菓子を見て食べて、少しでも心が癒されたらいいなと。
ノンフィクションライターは、人の人生に関わることのデリケートさを忘れてほしくない。そうでない人が…名声や好奇心が満たされればいい…書いた本が世に出ると複雑になる。
信田氏と上間氏には、人の心に徹底的に寄り添おうとする揺るぎない覚悟があります。
「語りだそうとするひとがいて、それを聞こうとするひとがいる場所は、やっぱり希望なのだと私は思う」…あとがきの上間氏の言葉に、共感しきり。

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